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忘れない、忘れたくない 02


「マジで幽霊なのな・・・」


葵の手がすり抜けていった右手をまじまじと見つめる。
タオルに触っていたし、まさかすり抜けるなんて思いもしなかったから空を切る感触が衝撃すぎて未だに違和感が残っている。

物には触れるのに人は触れないのかよ。
お社前の石段に並んで腰かけ、その不思議な余韻に浸っている俺と同じように葵も驚きの声を上げた。


「私もびっくりした・・・幽霊っぽいね」


今まで知らない人に触ろうとなんて思ったことなかったからと、葵も同じように自分の右手を見つめていた。
その目がどこか沈んだように見えて、今更ながらに慌てだす。
もしかしたら幽霊だってことを改めて認識させちまって傷つけたかもしれないと。

自分の手をみつめる葵に何か言わなくてはと思考を凝らすも、普段そんなこと考えない頭では上手いフォローなんて出てくるわけがない。
ガシガシと頭を掻けば、手のひらに伝わる確かな感触がさらに俺を混乱させた。


「あ、ごめんごめん!そんなに気にしてないから大丈夫だよ!」


幽霊ってことは自覚してるしねっと、俺が悩んでいるのを察したのだろう葵が慌てたように笑顔を向ける。

女子に気ぃ使わせてどーすんだよ


「葵!!!お前バレーやった事あるか??」


考えてもいい返答なんて浮かばない俺は、結局最終的に行き着く先はバレーで。鞄からバレーボールを取り出し葵へと手渡すと、やっぱり物にはちゃんと触れるようで両手でしっかりと受け止めた。


「俺バレーやってんの!ちょっと投げてみ?」


立ち上がって葵から少し距離を取り、ボールを投げるように要求する。
飛んできたボールは絶妙だが流石にスパイクを打つわけにもいかねぇからアンダーで山なりなボールを返せば、座っている葵の手の中へスッと納まった。


「おー!!凄い凄い!!」


自分の元にボールが返ってきたのが嬉しかったのかテンションが上がったようで、私もやる!と立ち上がる葵。

俺から程よい距離を取って「いくよー!」と嬉しそうにボールを自分の上に投げたとおもいきや、そのままとてもきれいなオーバーハンドで放たれたボールが真っすぐ俺の上へときたので、何の疑いもなくパスを続けた。

当たり前の様に続くパスについ部活仲間とやっている感覚になってしまい、わざと際どい所へパスしてみても素早く反応して綺麗な返球をしてくる。


「ちょっと木兎くん!今のわざとでしょ!!」
「わりぃわりぃ、葵がうまいからついな」


も〜っと頬を膨らましながらもさほど声色は怒っていないようで調子に乗って次々乱れたボールを返球する。


「意地悪!!」


そう言いながらも全て綺麗に拾っていく葵は絶対バレー経験者だ。
しかもかなりやり込んでる。

やべぇ、スゲー楽しい

今日はもう誰かとボールを触るなんてできないと思っていたからパスが出来るだけでも気持ちが昂る。
ボールを拾う葵の顔も楽しそうでいて挑戦的で、ますます俺を調子づかせていく。


すでにパスとは呼べないラリーは、ドスッっという重たい音が響いたことで終わりを告げた。葵から上がったボールがあまりに絶好のトスだったから、反射的に体が動いてしまい、助走をつけて飛んだ俺の手が快音を響かせたからだ。


「わりぃ!!!!」


相手が女子なのに思いっきりいつも通りの力でスパイク打ってしまった事に、葵が後ろへ転がったことでやっと理解し焦る。
急いで駆け寄り顔を覗き込むと、鋭い目でにらまれた。

怒らせたか…?


「あ〜〜大丈夫か?」
「大丈夫だけど大丈夫じゃない!悔しい!!」
「へ?」


全然ダメダメのレシーブだったと自分のプレーを思い返して悔しがる葵に拍子抜けする。俺の方ではなく後ろへ飛んで行ったボールを恨めしそうに見つめた葵は、勢いよく起き上がりもう一本!っと叫びながらボールを拾いに行った。

日ごろから一緒に練習している奴等だって全部は拾えねぇ俺のスパイクを、腕に当てただけでもすげぇと思うのに悔しがるって…


「お前最高だな!」


葵もそうとうバレー好きだな、絶対!

何度かパスをやり取りしてからワザと打ちやすいトスを上げる葵に遠慮なくスパイクを打ち込む。
そのたびに葵は転がったり尻もちをついたりしているが、それでも何度でも「もう一本!」と構える姿に休憩も忘れひたすらボールを打ち合った。


「悔しいっ!全然キレイに上がらない!木兎くん何者?!」
「ふっふっふ、全国で5本の指に入るスパイカーだ!」
「え!?そうなの!?すごい!燃える!!!」


褒めてくれながらも闘志を燃やす葵に、思わず噴き出した。
こんな女子、初めて見た。木兎くんがスパイクモーションに入るとワクワクするっ!と構える腰の低さが小見の姿と重なる。


「葵、お前ぜってぇバレ―してただろ」
「ん〜そんな気はする!でもスパイクを打つイメージは全然ない。むしろ拾いたい!!」
「やっぱお前、リベロだったんじゃね?」


女子と試合したことないからわかんねぇけど、これだけきれいにレシーブ出来るなんてリベロでもかなり上手い奴だと思う。
そう思って発した「リベロ」という単語に、葵が目を見開いて固まった。


「・・・・だった」
「ん??」


少し震えた声は掠れていてよく聞き取れなくて聞き返す俺に、自分でも整理できていないのか「嘘!?ちょっとまって」と独り言を繰り返す葵。

なんだ、どうした??突然の事に訳がわからず、とりあえず落ち着くまで待とうと立ち尽くすが、落ち着くどころか興奮しきった葵が嬉しそうに駆け寄ってくる。


「すごいよ木兎くん!!そうなの!!ありがとう!!」
「お、おう。よくわかんねぇけど…どういたしまして??」
「うん!!!」


バレーボールを嬉しそうに見つめながら頷く葵は、興奮したまま早口で教えてくれた。

今までまったく自分の事を思い出せなかったのに、俺と会って名前だけじゃなくバレーが好きだったことや、ましてリベロをやっていた時の自分の姿まで思い出せたのだと。
それは葵のほんの一部の記憶でしかない。

それでも今まで全くの無だった記憶が、ちゃんとある。自分がちゃんとこの世に居たという、人として実在したという事実だけで空っぽだった心が満たされる様だったのだと。


「よかったな!もっとバレーしてたら思い出せるかもしんねーな」


これだけ上手いんだし、きっと俺らみたいにバレー漬けの日々だっただろうから思い出も多いのかもしんねぇ。
俺も記憶の大半がバレーと関係してるしな!


「そうかな?あ、でも私ココから出られないんだった・・・・」


神社の唯一の出入り口である階段を見つめて顔をしかめる葵はよほどあそこが怖いのだろうか。


「じゃあ俺が来てココでやればいい」
「え・・・?木兎くんまた来てくれるの??」
「おう!葵とラリーすんの楽しーしな!」


そう言うと、葵はまるで子供の様に嬉しそうにはしゃぎだした。

そんなに喜ばれるとくすぐったいが、何より俺もボールに触れるのは嬉しい!
俺にとことん付き合ってくれるやつも少ないしな!


「じゃあさっそくまた明日来るな!」


今日は腹ごしらえのものを何も持ってこなかったせいで先ほどから空腹を訴える腹がうるさいからこのあたりでやめておこう。
親にも遅くなるって言ってきてねぇし。


「うん!!木兎くんまたね!」


元気良く手を振る葵に見送られ長い階段を軽快に降りる。

明日も学校が終わったらソッコーで来よう。

幽霊にあったなんて話、だれか信じてくれっかな??
赤葦にでも自慢しようかと思ったが、なんとなく誰にも言わないでいようと決めた。

俺と葵だけの秘密。

そう思うと余計にワクワクが止まらなかった。


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幽霊と普通にバレーする木兎さんww
バレーができてしまえばやりそうじゃない??もう幽霊とか関係なく接してくれるんだよきっと!
はたから見たらただの怪奇現象なのは気にしないでください(汗


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