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14 エリンジウムが知りたくて


ゴミ捨て場の戦いとやらがついに始まった。

昔がどうとか関係なく、音駒との試合はすげーおもしろい。
チームワークとか、全体のレシーブ力の高さとか、目立たないけど凡手の技ではないソレに常に闘争心を煽られる。
こういう相手とやれるってなんかイイ!


けど、時折試合の合間に視界に入る高宮が楽しそうに音駒を応援している事だけがずっと心に引っかかっていた。


確かに俺らとは全然違うスタイルだし見てしまうのもわかる。リベロの人とかマジでスゲーし。
でもいくら今は臨時のマネージャーをしているとはいえ、高宮は烏野なんだしこっちを応援してくれてもいいはずだ。
実際は烏野のマネージャーでもないと言われればそうなんだけどな。
しかも、なぜか初めて会ったはずなのに向こうの主将と挨拶から親しげに話していたし。

このところ無理した笑顔ばかり振りまいていた高宮が、普段通りと言わないまでもちゃんと笑ってた。俺がいくらふざけてもどこかぎこちなかったのに、だ。

なんか悔しいだろ。

ベンチから高宮を見つめてみても、アイツがこっちを見ることはなくて。それどころか、あの主将へ仲良さげに合図を送ったりするもんだからチクリと心が痛む。

俺だけってわけでもないんだな

学校以外で会ったり練習に付き合ってもらったりしていたから、どこかで自分は特別だと思っていたのかもしれない。
ちゃんと考えれば高宮は誰にでも愛想もいいし親切だったなと思い当たる。

高宮が誰と仲良くしていようが本人の自由だ
彼氏でもない俺がとやかく思うのもなんか変だろ
彼氏だからって言うのも変だけどな!

高宮がどう、じゃなくて俺が高宮の事が好きなんだから、まずは俺が好きだって言わねーと。そう決めて、それ以降は練習試合に集中した。こんなワクワクするすげー試合を全力でできないなんて勿体無いからな!


全員クタクタになりながらも「もう一度!」っと何度も再戦を申し込む。長い長い試合は、時間という抗う事の出来ないもので打ち切られた。

結果、俺たちは一度たりとも音駒に勝てなかった。現状での力の差を全身で感じさせられて終わってしまったのだ。


「ゴミ捨て場の決戦、やろうや」


向こうのおっちゃん監督のセリフがずっしりと俺に入ってくる。

公式戦での決戦をやるには俺たちはまだまだ弱い。もっともっと上手くなりてぇ。音駒の三番さんに負けないくらいに。

試合後の俺はバレーの事で頭がいっぱいになっていて、高宮に言うぞーって思っていたことは頭の片隅へ追いやられていた。


だから、皆が別れを惜しんで音駒メンバーを見送っている時に高宮のことなんて全然見てなくて。この時、こいつがどんな思いでいたかわかっていたのなら、何か違っていたのかもしれない。
辛そうに顔を歪めていた事などみんなに悟らせず、高宮は俺たちから遠ざかって行った。



◇ ◇ ◇



「今日こそ来れるか?!」
「無理でーす」


GW合宿から3週間。
IH予選の組み合わせも発表になり俺達の気合も高まってきているというのに、高宮は合宿以来、体育館に顔を出さなくなった。

部員じゃないとはいえ、もともと潔子さんに会いに月に2.3回は顔を出していたはずなのに。何度かクラスまで行ってはいつなら来れるんだと聞いてもはぐらかされるし、なんでだと言ったって「私だって部活がありますから」って流される。
まるで俺たちを避けているかのようだ。


「ほらほら、私は関係ないんだから大会に向けて頑張りなさいよー?」


もうすぐなんでしょ?と話すその顔はやっぱり無理しているように見える。
それが何でなのか見当もつかない俺はただジッと見つめてみるけど、高宮は視線を合わせてはくれなかった。

そんなやり取りばかりが続いて、気が付けばIH予選は目前。その間、山口や旭さんは個人的に高宮からケアのアドバイスをもらったとか話していたし、潔子さんも今まで通り自宅の方では会っていると言っていた。

しつこく教室まで訪ねていたら話はしてくれるものの、相変わらず曇った笑顔のまま。
皆は体育館に来なくなっただけで普段通りじゃないかっていうけど、絶対違う。
あいつがちゃんと笑うときはもっと元気が出るっつーか、まぶしいっつーか。とにかくこっちまで自然と頬がゆるむような笑顔をするやつなんだ。

なのにあの事件以降、無理をしている気がしてしょうがない。それどころか日を増すごとにどんどん厳しい笑顔になっていく。

なぁ、どうしたってんだよ。
俺の疑問は晴れることなく時だけが過ぎていった。




「がんばれ」


横断幕を支えながら恥ずかしそうにそう言った潔子さんに皆が涙した試合前日。高宮の事で下がり気味だったテンションも上がり、二階から下りてくる潔子さんにあふれる想いを伝えようと龍と二人して飛びつく。
もちろんいつものように華麗に避けられたけどな!!


「清水いつのまに一人でこんなものを。言ってくれれば手伝ったのに」
「私が皆に何かしてあげたくて」


地に伏す俺らなど気にすることなく会話する菅さんに、潔子さんも普通にこたえる。
あぁ、言葉とは裏腹なの冷たい態度もシビレますっ!!


「それに、葵が手伝ってくれたから一人じゃないよ」
「高宮が?」


潔子さんの塩対応を逃すまいと震える体を抱えていたが、高宮という単語が出た瞬間ぴたりと止まる。


「そう。だから葵の気持ちもいっぱい入ってるから」
「それは余計に負けられないな」
「おう、そうだな」


そんな三年生の会話が聞こえてくるのに動けないでいる俺に、龍が力強く俺の肩をたたく。


「・・・行けよノヤっさん」
「龍・・・」


俺の気持ちを知っている龍は、高宮が顔を出さなくなったのを気にしている事にも気づいていたようで、頼もしい顔で頷く。

そうだよな。聞いても答えてくれないからって何にもしないなんて俺らしくねぇ。それに、


「男なら前進あるのみ!」


急に叫んだ後、「お先に失礼します!」と部室に駆け出す俺を、皆が不思議そうに見送るが振り返らず走った。

手早く着替えを済ませ、向かうは高宮の家!会ってくれないかもとか迷惑かもとか、そんなことは一切頭になかった。あるのは高宮に会わなくちゃという気持ちだけ。


「高宮ーーーー!!!!!」


インターフォンを押しながらもその場で叫ぶ俺に、慌てて出てきた高宮が怒りながら俺の頭をたたく。


「ちょっと!近所迷惑!!インターフォンだけで聞こえるから!!!!」
「すまん!!勢い余った!それよりありがとな!横断幕!!」


ちょっと怒ってはいたがちゃんと俺を見てくれたことが嬉しくて謝罪もそこそこに本題へ入る。横断幕を見たことを伝えれば「キーちゃんのバカ。言っちゃだめって言ったのに」とちょっと困りながらも恥ずかしそうに呟いた。

どうやら手伝ったことは内緒にしたかったようで、その理由を聞いたがまたはぐらかされてしまった。高宮は内緒が多すぎるな。

でもいい。高宮が俺たちの為に横断幕を直してくれたことには変わりない。だから


「明日!ぜってー見に来いよ!!絶対だぞ!!」


俺たちの最高の力、お前にみせるから

ちゃんと見に来いよな。

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