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13 サネカズラに助けられ


「もうすぐ音駒が到着するぞ」


烏養コーチの声で、各々荷物をまとめ終えて散らばっていたメンバーが集まりだす。
試合の準備をしていた私たちも例外なくその輪へ入っていった。

コーチや先生の話を一緒に聞いてからお出迎えの為外へ出るとき、烏養コーチから「悪いけど頼むな」と言われ笑顔で「任せて!」っと返す。でも、その内心は心拍数が上がり、笑顔が引きつらないか必死だった。

アノ事件後、みんなに普通に接してとお願いしたくらいだし自分も普通にしなくちゃ。そう思うのに、また、人を怖いと思う様になってしまった自分が嫌になる。

ココにいる見知った人ならいい。だが、全く知らない人をサポートしなければと思うと躊躇ってしまいそうになる。あんな人はそうそういないと分かってはいるのに…。

ダメ。自分でやるって決めたんだから。
そう自分で自分を奮い立たせ、重たい足を引きずるようにみんなの後についていった。この間からジッとコチラを見つめてくる西谷夕の視線には気が付かないふりをして。


「キーちゃん!変なのに言い寄られないようにね!」
「大丈夫。そんな事にはならないから」
「何言ってるの!!キーちゃんを見て何も思わない男なんて…成敗だ!!」
「クスっ、葵、それじゃあ言い寄ってほしいみたいだよ」


キーちゃんに笑われながらツッコまれ、あれ?なんて言って笑って・・・
わざといつも通りにふざけて誤魔化していることに誰も気づかないで。

今日で合宿所ともお別れとなり、しっかり戸締りを確認してから出た私たちは、他のメンバーより少し遅れをとってしまった。そのせいか、たどり着いた時にはすでに両校が揃って挨拶を終えていた。


「・・・完全に出遅れちゃったね」
「だね。しょうがない、澤村に言って部長さんとは挨拶しておこっか」


丁度、澤村先輩が向こうの部長さんらしき人と握手を交わしているのが見えて、キーちゃんがそちらへ向かう。何故かその笑顔が怖くて近づきたくないとか思っているのは私だけらしい。キーちゃん強いな…

途中、向こうのモヒカン頭の人がこっちを見て雄たけびを上げたり、田中さんが怖い顔してたり色々ありそうだったけど完全にスルーした。


「澤村ゴメン、遅れた。」
「いや、2人とも戸締りサンキューな」
「そちらの二人はマネージャーさん?」


羨ましい限りですと堅苦しい挨拶をしていた音駒の人と目が合った瞬間、二人して指をさして目を見開いた。


「お前、この前の!!!」
「あーーー!!オモシロ兄さん!ここで合ったのも何かの縁!今日こそお一つどうだい??」
「いやいやいや、でもお高いんでしょ?」
「そこはお得意様のよしみ!今ならなんとっ!・・「葵?」・・はい、すみません」


偶然の再開に感動して、ついあの時のノリで話しかけた私にノッてくれたお兄さん素敵!とか思っていたけど。突然の私たちのやり取りに意味が分からないだろうキーちゃんから静止の声がかかり、大人しく姿勢を正す。


「うちの高宮とお知り合いで?」


そうお兄さんに問う澤村先輩の笑顔が真っ黒で小さく悲鳴を上げそうになった。

何でこんなところで敵対心むき出しなんですか?!しかもそれに対してお兄さんも胡散臭い笑顔浮かべてるし!!


「先日、人を探して道に迷っていた時に親切に教えて頂いたんですよ。その時に意気投合して仲良くなりまして」


そちらのマネージャーさんとは知らず、馴れ馴れしくてすみませんと言っている顔はちっともすいませんって顔じゃない。
あまつさえ、私に同意を求めるように微笑んでくるので(あくまで胡散臭い笑顔)、引きつりそうになりながらも笑顔で返すしかなかった。

この二人に挟まれるのなんか嫌だ・・・。笑顔なのに威圧しかない二人の視線から逃げるようにキーちゃんを見つめれば、キーちゃんが軽くため息をついてから澤村先輩の肩を叩いてくれた。


「澤村。ちゃんと紹介」
「あ、あぁ、すまん」


さすがキーちゃん!鶴の一声!!


「マネージャーの清水と高宮だ。高宮は正式なマネージャーではないんだが今だけ手伝いに来てもらってる」
「ど〜も〜お兄さん、2年の高宮葵でーす!今日は音駒のお手伝いさせていただきまーす!」
「へ?そうなの?そりゃーありがたい。部長の黒尾鉄朗です」


黒尾さんね!お兄さんの名前もゲットし、お互いに握手を交わしてから体育館へと向かう。
その間、烏野メンバーからの視線がいつも以上に痛かったけど気にしないでおこう。


「お前も愛されてんね〜」
「何しでかすか分からないから野放しにできないタイプ?みたいな?」


きっとアノ事件のせいで心配されているだけなんだけどね。そんな含みは隠したつもりだが、微妙な違和感を感じ取ったのか、黒尾さんが何考えるように烏野メンバーを見る。
それでも深く追求せずに、何もなかったように会話を続けてくれた。


「なるほど、納得」
「え〜納得しないでくださ〜い」
「納得されるようなことしないでくださ〜い」


調子よく話しかけてくれる黒尾さんのおかげで、音駒陣地に着いた時には今朝がた感じていた不安はだいぶ解消されていた。

知っている人がいた。それだけで警戒心も恐怖心もこんなに違うものなのかと自分の心に戸惑いながらも、良い方へ向かったならいいか胸をなでおろした。

監督やコーチとご挨拶してからメンバー皆さんに紹介頂く。烏野に負けず劣らず個性豊かそうなメンバーに、内心引いたのは隠し通せたと思う。

音駒は学年関係なく皆で準備するシステムなようで、率先してマネの仕事をしようとしてくれる人を止めるという余分な仕事があるが、それ以外は至って順調に作業も進んでいった。まぁ、練習試合だけだしね。

ウォーミングアップを済ませいざ試合が始まれば、スコアを付ける必要のないマネは意外と暇で、試合をしっかり見ることができてしまった。だから、また、久々に西谷夕がプレーするところを見てしまった。


(やっぱバレーしているところはカッコイイな…)


自然と目で追っている自分に気づき、慌てて音駒コートへと視線を移す。さんざんこれ以上好きにならない様にとか思っておきながら自覚が足りないな。

プレー中の西谷夕を見てはいけない。自分に言い聞かせるように音駒コートを見つめる先で、黒尾さんがブロックを決めた。
皆にハイタッチする中、こちらに目線を向けて笑いかけてくれたので、いつも西谷夕にしていたみたいにグッと親指を立てて返すと嬉しそうに同じポーズが返ってきた。

もうやめよう。西谷夕がどうとか、男性が怖いとか、スポーツマンが眩しすぎるとか。
考えても考えても深みにはまっていくような事は、今は忘れよう。


そう。今はただ、私にできることを。

音駒のマネージャ代理として、頑張る彼らを精一杯サポートし、応援しよう。


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