HQ | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -




忘れない、忘れたくない 01

「高校生最後の冬休みを楽しむためにテスト頑張れ・・・ね」


HRの最後に先生から生徒へ向けた言葉が頭をよぎる。
が、その言葉は俺に留まることはなく、他人事の様に流れていった。

12月に入って一段と冷えるようになった朝晩も、練習して温まった体にはちょうどいい。そう思っていたのに、テスト期間とやらはバレーをさせてくれないから寒くて仕方がない。


「なーなー部活しよーぜー」


昇降口で帰ろうとする赤葦を待ち伏せして捕まえる。
ボールを抱えた俺を見た赤葦は、あからさまに嫌そうな顔を見せた。


「昨日もそれで怒られたじゃないですか」


皆さんも勉強あるしダメです。とあっさり却下され、行き場を無くしたボールを大人しくカバンへとしまう。
体育館使えなくてもできるようにせっかくマイボール持ってきたってのに。


「ちょっとくらいいいじゃん。赤葦のケチ」
「木兎さんのちょっと、はちょっとじゃないんで」


今日も切れ良くバッサリですね。
さみ〜から動こうと誘ってもノッてくれない赤葦は、1人でどうぞと寂しい事を言う。


「そういえば少し離れてますけどトレーニング向きの階段がある神社がありますよ」
「マジか!一緒に行ったり「しません」・・ですよね」


何となくわかっていた通りの返事が返ってきたことで諦めもついた。
すでに他の奴にも断られ済だしな・・・。
走り込みなら一人でもできるか。

赤葦から詳しい場所を聞いて、カバンを持ったままその神社とやらへむかう。バレーする気満々だったからジャージ着てて正解だな。
カバンがあって走りにくいが、それもまた負荷だと思えば十分なトレーニングだ。


「うぉ!すげーなこれ」


教えられた神社にたどり着いて見上げた階段が、想像より凄くて思わず声に出た。下から見上げただけじゃ境内が全く見えないほど長くて急な階段を前に、荷物を担ぎ直す。まるで「登れるならどーぞ」と挑戦的に言われているようだな。
期待とやってやろうって気持ちが高まり、ペロリと唇をなめる。

ウォーミングアップのつもりでジョギングしてきたから、これからダッシュするにはちょうどいい温まり具合だ。


「よっしゃー!一気に行くぜ!」


軽快に踏み出した足は次々と段を踏んでいくが、半分を過ぎたころにはそのペースも落ち、悲鳴を上げだした。
それでもココで止めたら男が廃る!プルプルと震える足を無理やり動かし、何とか頂上までたどり着いた時には完全に息もあがり、そのまま地面に崩れ落ちた。

あ〜侮ったぜ。

起き上がる事が出来ずに仰向けで転がって道塞いでるけどいいか。無名の神社のくせにこんな階段作ったら参拝客すくねぇんじゃね?
首にかけていたタオルを顔に乗せ、完全に怪しい奴になってるな、俺。まぁいいか。

人は来ない
そう勝手に思っていた俺の耳に、くすくすと笑う女の声が届いてくる。
やべー、人いたのか。


「お〜ダメだ。自分を過信したぜ。笑われても動けねぇ・・」
「・・・・ぇ」


今まで笑っていた声は、俺が動けない事に驚いたのかピタリと止まってしまった。神社きて早々倒れ込んでる奴なんて珍しいだろうけど、そこまで驚かなくてもよくね?
そう思っていたら、急にテンションの上がった嬉しそうな声で話しかけられた。


「ねぇねぇお兄さん私の声聞こえるの?見えるの??」
「おー、ぐったりしてるけど目も耳も正常だぞー」
「っ!!どーして?お兄さんは何してる人??何で来たの??」
「おぉ・・」


なんだ、どうした。
すげー質問ばっかだな。

まるで俺を不思議な者でも見る様に覗き込んでくる彼女はなぜだか興奮気味で、呼吸が整わずに返事できないでいる俺に「ねぇ聞いてる?」とずっと返事を要求してくる。
もう少しだけ待ってくれ。こう見えても早くどいた方がいいだろうと思ってチョースピードで体力回復中なんだ。


「もー!!お兄さんの意地悪っ!」


あまりに生返事だった俺が気に食わなかったのか、見知らぬ彼女は俺にかかっていたタオルを奪い取った。


「あ、おい!!」


首だけ動かして見上げた先で、彼女は木に向かって俺のタオルを投げつけていた。
彼女の手から離れたタオルは、見事にというべきなのか枝に引っかかり、手の届かない高さで止まった。


「お前な〜普通にそれ虐めだぞ」


普通だったらあの高さは届かねぇ。
ちっちぇーやつが「やーい取れるものなら取ってみろー」ってやってるのと変わんねーぞ?しかも投げた本人もあそこまで高い場所に引っ掛けるつもりが無かったのか、どうしたものかとオロオロしてるし。

俺の回復早くて良かったな
まだ少し足の疲労感は残っているものの、普段の練習程度の疲労だから楽勝だろう。

そう思い、起き上がってすぐに助走をつけて勢いよく飛んだ。


「っ!!!!!す、すごいっ!」
「そうか?俺だったからいいものの・・・もうこんなことすんなよな!」


がっつり言ってやろうかと思ったが、あまりに素直に感動されてしまい、怒る気も失せてしまった。本人も予想外だったみてぇだしな。


「ごめんなさい・・。お兄さんに構ってほしくて」


人と話すの久しぶりだったからって言って俯く彼女に首をかしげる。
どういうことだ?


「虐めにでもあってんのか??」
「ううん。違うの…なんでか、みんな私が見えないみたいで」
「見えない??」


何言ってんだ?
確かにこいつは俺の目の前に居て、今俺と会話をしているのに。

意味が分からないって思っている事がすぐに伝わったのだろう。
彼女は不安げな顔のまま色々教えてくれた。


気が付いたらここに居て、自分が何者で、何をしていたのかも、家もわからなと。
何故だかわからないが階段に近づくのが怖くてずっとこの神社に居るが、お腹もすかないし、眠くもならない。
殆ど人の来ない神社で、たまに参拝客が来たときに話しかけてみても何をしても誰も気づいてくれなかったのだと。


「どうやら私、おばけみたい」


そう言って寂しそうに笑った彼女の顔が印象的過ぎて、俺は怖いとかやべーって思うより、何とかしてぇって思った。


「よかったな!俺が見えて!話もできるし」
「・・え?私の事怖くないの?」
「全然?」


むしろおもしれぇ。
いや、彼女もきっと寂しいとか色々不安に思ってることもあるだろうから面白いなんて失礼なんだろうけど。

でも俺は、今まで体験したことのない事が目の前で起こっている事が何よりも面白かった。


「俺、木兎光太郎っての!名前は?憶えてんの?」
「私‥名前・・?・・・・たぶん、葵・・かな」
「葵か、そっか!名前は憶えてんだな」


もうずっと呼ばれることが無かったからあってるか分からないけどと言う彼女にそれでもいいと笑った。
だって本当かどうかなんて俺は分かんねぇし。

ただ、お前を呼ぶ名が欲しかっただけ。


「葵、よろしくな!」


そういって握手を求めた手は、握られることなく俺の手をすり抜けていった。


back] [next




幽霊彼女との出会い編。

この話、ストーリが先に思いついて、後からキャラを決めたんですよね〜。
木兎さんは幽霊だろうとあまり深く気にしないで仲良くなってくれそうだったので(笑)

ちゃんと切なく進めていきたいな。


[ back to top ]