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12 アキメネスを切望して


「花が無い・・・・」


風呂から急いで上がってきたにもかかわらず、すでに潔子さんのお姿が無いことに龍と2人してその場に崩れ落ちた。
明日も会えるだろうと大地さんに呆れられたので、寝る前にもう一目お会いできるだけで夢見が違うこの男心を語ってみるも理解はしてもらえなかった。


「女子がいると華やかでいいのは分かるけどな」
「それはあるね」


図体デカい男ばかりじゃむさ苦しいしと言う大地さんに便乗するように旭さんが頷く。


「おー特に高宮いる時は清水も楽しそうだし更に華やかになるよな」


高宮がお前らと騒ぐから賑やかさも増すけどなと笑う菅さんに他の奴らも確かにと笑った。


「アイツが突っかかってくるんすよー?」
「お前らが清水に絡むからだろ」


なんて会話をしている最中に、部屋の端で誰かのスマホが鳴り響いた。流行りの曲とかではなく、もともと入っていただろう音楽を響かせるスマホに、大地さんが「俺だ」と手を挙げた。
近くにいた龍が鳴っているスマホを取って大地さんに渡す。


「お?高宮からとか珍しいな」


忘れ物でもしたか?と電話内容を想定しながらスマホに出る大地さん。


「もしもし?どーかしたか?」


電話が始まると自然と騒がしかった周りが静まり返る。数人が大地さんの電話に興味本位で寄って行った時だった。


 『キーちゃん逃げて!!!』


スマホから漏れて響いた高宮の声に、全員が動きを止めた。


「高宮!??!おいどーした!?!」


ただならぬ雰囲気に大地さんが大声を出すが、電話の向こうから返答はないようで大地さんの声が荒くなる。その様子に部屋の空気が張り詰める。

ジワリと手のひらが汗で湿っているのがわかった。普段どうやって唾を飲んでいたのわからなくなり、ゴクリと喉を鳴らしてしまった。


 『っ!!!葵!!』


緊迫した空気の中、大地さんのスマホから潔子さんの声が響いたと同時に体が動いた。
それは龍も一緒だったようで、2人して勢いよく部屋を飛び出す。


「西谷!田中!」


菅さんが叫んでいたが振り返ることなく外へと突き進んだ。

あの潔子さんが大声を出すなんてよっぽどのことだ。走っている息苦しさとは違う苦しさで胸が痛んだ。高宮の家を知っていてマジでよかった。

合宿所からアイツが通るであろう道を進めば、遠くで路肩に停車している車の横で揉めているような人影が3つ。きっとあれだ。そう確信して、全力で走っている足をさらに速く前へ出せないかと必死に動かす。

一秒でも早く、今すぐにでもあそこに行きたい。そう思うのに一瞬なんかではこの距離は埋まってはくれない。その間にも潔子さんらしき人が突き飛ばされ、高宮らしき人が男に担がれていた。


「クソがっ!!高宮ー!!!」


思い切り叫んでみるが、走りながらではうまく声が出ない。あちらも必至に抵抗しているようで、オレの声が届いてる様子はなかった。このままでは高宮が連れ去られるというのになんで俺の足はもっと速く前へ出ないんだ!!!


「させるかーー!ノヤっさん!走れ!」


そう言って龍が合宿所を出る前からずっと持っていたであろう水の入ったペットボトルを思いっきり男に向かって投げつけた。俺の横を凄まじい勢いで飛んでいったペットボトルは、高宮を車に押し込んだ後の男の頭にクリーンヒットした。

鈍い音が響くとともに男は頭を抱えながら地面へと崩れ落る。これだけ時間が稼げれば充分!!フラフラと立ち上がった男がこちらの存在に気付き、慌ててドアを閉め運転席へ乗り込もうとした所で走ってる勢いそのままに体当たりをくらわせた。

見事なまでにぶっ飛んだ男が地面に転がるのを確認してから急いで後部座席のドアを開けた。


「高宮!!!!無事か!!?」
「・・・・・に、しのや・・?な・・んで・・・?」


涙目でこちらを見つめる高宮は、驚いているからではなく、恐怖で震えていた。いつでも明るくて元気で豪快に笑っているような高宮のこんな姿は初めてだ。

思わず右手の拳に力が入る。本来ならもっと思いっきり殴り掛かりたい衝動を必死に抑え、横たわる男を睨む。今は男の事よりも高宮が優先だ。


「動けるか??」


万が一にもアイツがきて車を動かされたら困るので、高宮を車外へ連れ出そうと手を伸ばす。そのまま掴みやすかった左手を引っ張ると、高宮が「痛っっ!」と声を上げながら顔をしかめた。


「スマン!!」
「あ・・さっき殴られたから・・ごめん、大丈夫」


自分で降りられるよと、俺の手を掴まず車から出てきた高宮をただ見守った。横では起き上がってきた男を龍が潔子さんの傍でいつものように威嚇していた。俺も睨み付けてはいるが、明らかに龍にビビっている男に胸がチクリと痛んだ。

その後、大地さんたちや先生も来て男は確保された。事情が事情なだけに警察も呼ばれ、しばらく事情聴取も行われる。
本来なら教育委員会や学校側へ訴えられてもおかしくない中、高宮が上手いこと言ったようでこれ以上の大事にはならないですんだようだ。

また、高宮たっての希望でこの場に居なかった奴らにこのことは伏せることになった。
きっと要らぬ心配を掛けたくないとか、腫物を触るように扱われたくないとか、色々な思いがあるんだろうけど…。なぜだか俺はずっとモヤモヤした気持ちが晴れなかった。

それが何でなのかわからず、翌朝目が覚めてもスッキリしない気持ちに頭をひねる。


「どーしたノヤっさん?今朝はおかわりしねーのか?」


いつもならペロリと平らげる朝食がなかなか減っていかない俺に、龍が心配そうに声を掛けてきた。なんでもねーと返しながら飯をかき込むが、うまく喉を通らなくて慌てて茶で流し込んだ。


「まー昨日の事もあるしテンション上がらねーよな」


そう言いながら高宮を見る龍につられ、俺も高宮へと視線を向けた。
そこには「知らない人もいるから普段通りにね!」と昨日言っていた通り、あんな事があったのに今までと同じように皆に朝食を振る舞う高宮がいた。


「すげーよなー。もう気にしてねぇのかな?」


そう感心する龍には悪いが、俺にはアイツが気にしていないなんて思えなくて再び箸が止まった。だってあの時の高宮は本当に怖かったはずなんだ。殴られて、痛い思いも怖い思いもして、泣きそうなほど震えていたのに…。

昨日、引っ張っただけで痛がっていた腕が完治なんてしている訳ない。大丈夫なはずないんだ。それなのに、なんでアイツは笑ってるんだ。


「ノヤっさんこえー顔で見過ぎだって」


龍に言われ、慌てて視線を外す。
見てたっつ―より考えてただけなのだが、あまりいいものじゃないのは確かだ。


「しっかしノヤっさん、昨日から高宮の心配ばっかだよな」
「あ?そりゃーあんな事あればな」


俺だけじゃなく、龍だって大地さんだって、あの場に居た3年生や先生は皆心配してるだろ?


「そーだけどよ・・・そうじゃなくてなんつーか・・・」


珍しく歯切れが悪くチラチラ見て来る龍は、ちょっと照れたような困ったような顔をしていて。まったく何が言いたいのかわからない。


「なんだよ龍、キモイぞ」


男ならサクッとはっきり言えよ!そういう俺に観念したのか真剣な顔で俺に向き合う龍。なんだこの空気。


「俺の勘違いだったらスマン。あの時潔子さんも居たのにノヤっさん高宮ばっか気にしてたからよ。・・もしかしてノヤっさん、高宮のことその・・す、好きなのかと思っちまって…」


今までの小声とは打って変わって「そんなわけねーよな!スマンスマン」とワザとらし程に明るく振る舞う龍に、何言ってんだよって返しただろう。
今までだったら。
龍が言ったことを理解するのに時間がかかり固まる俺に「マ、マジでかノヤっさん」と龍まで一緒に固まった。

そうか。龍に言われ、昨日からのモヤモヤの原因がやっとわかった。
高宮を助けたのは俺だって言いきれない事が悔しいんだ。

手を取ってもらえなかったことが
俺を頼ってくれない事が
俺が何もできない事がこんなにも辛い。

それもこれも、すべて

俺が高宮の事が好きだからなのか

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