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11 ヒガンバナニ侵されて

合宿二日目も無事に夜を迎え、朝から動いているのにまだ動けるのかと不思議になるくらい無駄に元気な部員を横目に夕飯の洗い物を済ませる。

今日もあんなに大量に買い出ししたにもかかわらずすごい勢いで減る食材たちをみて、男の子の親は大変だと人様の食費の心配をしてしまった。
ただ、見事なまでにペロリと完食する様は作り手としては見ていて気持ちが良い。


「ふぅ、この合宿で花嫁修業してるみたいだね」
「クスっ、そうだね。葵は元々家事慣れてるし、ますますいいお嫁さんになるね」
「キーちゃんの為なら婿にもなるよ!」


なんて他愛もない冗談を言いながらテキパキと明日の朝ごはんの下ごしらえまで終わらせていく。煮物は一晩味をしみこませた方が美味しいしね!
ごくごく弱火にして先に後片付けを済ませた所で珍しく先生たちからミーティングの参加を促された。煮詰めるのにもう少しかかるし丁度いいかなって笑いながら2人でミーティングに参加する。


「最終日にやる音駒との練習試合だけどな、あっちにマネージャーはいないようだからどっちか手伝ってやってほしいんだ」


そう少し申し訳なさそうに言う烏養コーチの目線は私に向いていた。まぁ、妥当な判断よね。


「じゃあ私がお手伝いに行きますねー」


あまりやれることないですけどって冗談交じりに言ってみたけどウケはしなくて、助かると素直に感謝されてしまった。
他の人から若干の抵抗があったものの私が音駒の手伝いに行くことで話しは決まり、大まかな流れを確認した。そんな帰り、


「いつも葵にばかり大変なことお願いしてる気がする」


そう言って少しむくれるキーちゃんは可愛いが、そのままにしておくこともできないのでそんな事ないよとなだめる。

私の事を色々気にかけてくれるのは嬉しいが、烏野の方のお手伝いをしたところでやれることは変わらない。むしろスコアとかは付けなくていいって言ってたし音駒の方がありがたいくらいだ。
そう言ったところでキーちゃんは中々納得がいかないようだけど。このままじゃ美人さんの眉間にしわが寄ってしまうので何か話題を変えないとと思考を巡らせたところで重大なことに気付いてしまった。


「・・・キーちゃん。私達、煮物の火って切ったっけ??!」
「え!?」


音駒マネージャー問題で忙しかったから、最後に火の始末をした記憶が曖昧だ。それはキーちゃんも一緒だったらしく、お互い必死に記憶をたどるも確かな記憶は出てこなかった。


「戻る??!あ、それか電話!誰かに電話してみてもらおう!」


出てくるときには3年生はお風呂から上がっていたし掛けるならやっぱり部長かな?先日怖い思いして交換した甲斐があったと自分のスマホから澤村先輩のアドレスを呼び出し、通話ボタンを押した。直後、前方からゆっくりと走って来た車が私たちの横で止まり、運転席から男性が1人下りてきた。


「やぁ、まってたよ」


そう言いながら不快な笑みを浮かべるこの男の顔は、最近何度も見かけたあのストーカーのものだと気づき、悪寒が走った。


「キーちゃん逃げて!!!」


全身に鳥肌が立つ中、それでもキーちゃんを守らなくてはと手にしていたスマホをキーちゃんに押し付け、ストーカーとキーちゃんの間に立ちふさがった。
キッと睨みつけても男は全く怯むことなくコチラへ手を伸ばす。


「お待たせ、僕の天使」


キーちゃんに触れさせるものかと思って構えていた私は、男の手が自分に伸ばされた事に動揺してしまい、反応が遅れてしまった。


「っ!!!葵!!」


私の後ろでキーちゃんが叫んだ時には腕を掴まれ、男の方へと引っ張られていた。何とか全身に力を入れて抵抗を試みるも男の力にはかなわない。それどころか恐怖で思う様に力を入れることすらできないでいる。


「君は僕のモノなのに他の男の手伝いなんてして・・・いけない子だ。帰ってお仕置きだね」


そう言って私を自分の車に押し込もうとする男は、私を見てとても嬉しそうに微笑んでいた。

嫌だ嫌だ嫌だ

怖い、気持ち悪い、怖い

キーちゃんの心配ばかりして男の狙いが自分である可能性を考えなかった事を今さらながら恨む。自分の体が思うように動かないなんて初めての事でどうしていいのか分からない。このままじゃダメだって頭では分かっているのに動かない体は、簡単に車のそばまで引きずられてしまう。


「・・・ぃゃ・・」


やっとの思いで絞り出した声もか細いもので、こんなんじゃ助けすら呼べない。そう思った時、


「放して!!!」


私よりもはるかに大きな声で叫びながら男へ体当たりするキーちゃんにより、怯んだ男が掴んでいた手を放した。
衝撃で私もふらつき地面に手をついてしまったが、先程まで動かなかった体がとっさに動けたことに安堵のため息を漏らす。

だがまだ安心している場合ではない。キーちゃんのおかげで動けるようになった体をすぐさま起こし、キーちゃんの手を取って走り出す。

ここからならまだ合宿所の方が近い。助けが呼べる。

だが、そんな私の願いも虚しく、よろけただけの男はすぐさま私たちに追いついてしまった。それどころか怒りのままに私とキーちゃんの繋いでいた手をひきはがし、乱暴にキーちゃんを突き飛ばしたのだ。


「キーちゃん!!」
「いつもお前がいるから天使が僕の所に来ないんだ!!!!!」


狂ったように叫ぶ男は怒りで顔を赤くしながら拳を震わせていた。この拳を横たわるキーちゃんに振り下ろさせるわけにはいかないと思い、とっさに男の腕にしがみつく。

そんな私の行動にキーちゃんに向けられていた視線が私へと移る。まだ怒りは収まっていないようだが、男は私を見て怪しく笑った。


「そうだね、他の子に構ってないで早く2人になりたいよね」
「っちが・・っ!!」


何をどうしたらそういう解釈になるのかは分からないが、完全にキーちゃんへの興味を無くした男は私を俵を担ぐように持ち上げた。


「いやっっ!!!放して!」


先程の様に恐怖で支配されてしまうことのなかった体をジタバタと動かして抵抗を試みる。それでも放すことの無かった男は私を車の後部座席に投げ入れると同時に、思いっきり殴り掛かった。


「お仕置きは帰ってからちゃんとしてあげるから・・・これ以上僕を怒らせないでね」


そう言い放つ男の顔が正常な人には見えなくて息が詰まった。男に殴られた左腕がジンジンと痛み、恐怖と痛みでジワリと目頭が熱くなった。

誰か助けて!叫ぼうと動かした口から音が出たかは自分でもわからなかった。

それでも神様には届いたのか、ドアを閉めようとした男は飛んできたナニかが頭に当たり、その場に崩れ落ちた。


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