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10 センテッドゼラニウムで和む心

「「「「「「いっただっきまーす!」」」」」」

沢山の声が朝から響き渡る食堂で、頂きますの合図とともにすごい勢いで減っていく朝食を見てなんだか胸がいっぱいになる。あ、決して泣きそうとかじゃなくてね。食べる前からお腹がいっぱいな気がしちゃってるだけなんだけどね。

昨日は授業後からの練習だったし、合宿所の掃除してご飯作って〜ってしてたらあっという間に一日が終わってしまった。
キーちゃんとカレー作るの楽しかったしね!武ちゃんが意外と料理できる男性でビックリしたけど。
ビックリと言えば、どうやら私が手伝いに来ることを誰も言っていなかったらしく皆に驚かれた。

こんなお化けが出そうなところで一人で掃除してくれたんだぞと澤村先輩が言ったとたん、皆から「あざーっす!」って言われた時はちょっと嬉しかったな。メガネ君にはまた「部外者なのに」とか呟かれたのでご飯山盛りに盛ってやったけど。

ご飯の後そのまま食堂でミーティングしている脇でせっせと洗い物を済ませ、皆がお風呂のタイミングにはキーちゃんと合宿所を後にした。
いつもやらないような事をしたのでちょっと楽しかったが、明日からは丸一日雑用が待ってるのかと思うと少し気が重い。一度やると言ったことは責任もってやりますけどね!


「ホントにありがとね」


何度目になるかわからないキーちゃんからのお礼に、もっとガツガツ言っていいよと笑う。じゃあ明日は朝ご飯から手伝ってもらえるかなってちょっと意地悪な笑顔で言われたのでつい、任せとけって答えちゃった。


「ふふ、葵が居て良かった」


助かるし、私も楽しい。とキーちゃんが笑ってくれるだけで私は大満足です!
だから今、目の前で物凄い勢いで食材が無くなっていくのを見て(あぁ、買い物の量すごそうだな)とか思ったりしてるけど乗り切れる!


「ごちそうさん!うまかったー!」


そういう皆の中にもちろん西谷夕の姿もあって。私が作った卵焼きを「これマジでウメ−―!」って叫んでいたので小さくガッツポーズをしてしまった。

いや、西谷夕だから嬉しいんじゃなくて美味しいと言われたことが嬉しいんだと自身に言い聞かせるが、食器を洗う手は軽やかだ。ホント、私単純。
でもあまり浮かれないようにしなくちゃ。これ以上、西谷夕を好きにならないように。


食器を洗い終えてキーちゃんと今日の作業の打ち合わせをする。
主に私が洗濯と買い出し、お昼の準備をするよって言えばすっごく嫌そうな顔をされたけど何回目かになる効率の良さをアピールし納得してもらう。

買い出しには武ちゃんが付き合うと言ってくれたが、台車さえ借りられれば問題ないとやんわりお断りを入れた。武ちゃんもなるべく練習見てバレー覚えた方がいいしね!
最初のドリンク作りだけお手伝いし、合宿所に戻って洗濯をしてから台車を借りて買い物へ。台車にはしっかりプラスティックの箱?を乗せて買い物後の荷物を入れても落ちないように工夫した。
これ引いてる高校生って姿を客観的に見て少し笑えるけど。行きはヨイヨイ、坂道を軽やかに下る。台車に乗らなかっただけ大人になった!

だが帰りは台車いっぱいの荷物を押してこの坂を上らなくてはいけない。買い物の量を抑えることもできないので、仕方なく少し大回りでも坂が少ない道で帰ろうと住宅街に入った時だった。


「だ〜〜〜!!ドコだよそれ!」


とても背の高い男性が、ガシガシと頭を掻きながらスマホに向かってしゃべっている。
あまり見たことない赤いジャージを来てるし鍛えてそうな体してるし運動部なんだろうな〜とは思うがなぜ1人で独り言?1人じゃないと独り言にならないけどさ。

何やら必死な姿が面白くてしばらく見つめてしまったが、これは明らかに困っている人だとようやく気付き声を掛けた。


「あの〜、なにかお困りですか?」


自分で言っておきながら悪徳商法の呼びかけみたいだなとか思ったらちょっと笑えてきて、余計に怪しい笑顔になってる気がするのがツボに入りそうで必死に耐えた。
そんな私に、声を掛けた瞬間はちょっと嬉しそうな顔を見せた彼も、上から下まで…なんなら台車まで目くばせした後、すっと人当たりのよさそうな胡散臭い笑顔へと変わった。


「いや〜少し道に迷いまして。でも調べて何とかなりそうですからお構いなく」


胡散臭い笑顔をピクリとも動かさずに言ってのける彼は警戒心MAXと言ったところか。
怪しい者じゃないです〜と言ったって余計に疑われそうだよね。ジャージに日除け用のつばの大きな帽子ってだけでも変なのに、たっぷりと野菜の乗った台車、ニヤニヤした笑顔ときたら怪しい人でしかないし。


「あ、私怪しく見えますよね〜いっそサングラスまでしてたらよかったかな」
「いや、だったら俺見なかった事にするわ」


怖すぎるとつぶやく彼は先程までの胡散臭い笑顔から高校男児らしい感情が読み取れる顔へと変わっていた。それが嬉しくてどこぞの黄色のジャケットの芸人宜しく両手の人差し指を彼に向けてポーズをとれば、ハッって笑われて背を向けられた。


「ちょっとちょっとお兄さん!!サングラス掛けてないんだから見なかった事にしないでよ〜」
「ボクオ金モッテナイデス」
「そう言わずこのツボ見て・・・って違うからっ!!」


なにこのノリの良さ!楽しいんですけど!キャベツ片手に突っ込む私に、彼もブッヒャッヒャっと指さして笑ってくるので警戒心を解くことはできた様だ。


「いや〜イイネ、キミ。可笑しいわ」
「いやいやお兄さんほどでは」


なんてまたしばらく冗談を言い合ってすっかり仲良くなったところで本題へと戻る。


「人捜してんだけど…ココってドコかわかる?」


そう言って見せてくれたメールには空き地のフェンスのような写真と電柱の地区名が記されているのみ。
これは…地元民でも中々わかりにくい情報で。私が超地元っ子でよかったね。地図アプリをひらいて目的地にピンを立ててあげる。


「お兄さんが行こうとしてた方とは反対ね」
「っげ、もしかしてあの坂の方とか??」


見かけたけどキツそうだから通り過ぎてきたんだよなと眉を寄せるお兄さんにファイトとエールを送る。
きっとどこかで緩やかに坂を下ってることに気付いていなかったのね。坂は下ったら上らねばなのだよ!


「とりあえず上着は脱ぐことをお勧めするよ」
「お〜どうでもいいお勧めありがとネ。どうせなら他の道を教えてほしかったぜ…」


心底深いため息をついてからうっしっ!と気合を入れて姿勢を正すお兄さん。


「荷物あんのに送ってやれなくて悪いネ」


時間さえあればお礼に送ってくんだがと気にかけてくれる気持ちだけで十分です。
見かけに寄らず紳士なのね。
お連れさんと無事に会えることを願って送り出し、私も気合を入れて別の坂上りますかと上着を脱いだ。

きっと彼もコレから部活とか頑張るんだろうな。自分の周りに好きなことを頑張っている人が多くいる事が嬉しい。頑張っている人を少しでも手助けできたら嬉しい。

その為にも今は元気の源となる食材を届けねばとあんなに嫌だった坂を駆け足で上った。

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