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01 アネモネが揺れる

今日から2年生になる春の日。
ぽかぽか陽気は気分を穏やかにしてくれるが…人を眠らせる効果もあるよね。
新しいクラスで新しい友達を作ろうと積極的に話しかけている子が多い中で、私はまどろみの中に居た。

窓際の席って危険だねーなんて思いながらもクラスメイト達の話し声が次第に遠のいていく。

あぁ、今日はキーちゃんと一緒に帰れるのかな
別に約束している訳ではないけど。
今日は始業式だけだから午前中で終わるし、お昼も一緒しないか聞いてみよ。
キーちゃんの好きな天むすでも作ってあげようかな。

なんて考えている間に私の意識は何処かへさよならしてしまったようで、
気付いた時にはみんなの「またねー」という声が響いていた。

あらら?とゆっくり起き上がると、隣の席の子に「自己紹介の時も寝てるとかどうよ」と言われてしまう。
どうやら先生が起こしに来たが、まったく起きなかったらしい。


「ま、お前結構有名だし自己紹介いらないだろうけど」


そう言いながら隣の彼もじゃぁなと教室を出て行った。
彼は誰だろう…ま、いっか。

とりあえず荷物は全くカバンから出していないので、そのままカバンを掴み席を立つ。
が、3年のクラスへ向かってからキーちゃんが何組になったか聞いていなかった事に気付いた。
キーちゃんは進学クラスじゃないから1〜3の間だろうけど。

そう思いながら階段傍にあった1組から順番に覗いて行くが、すでにほとんど人がいない状態だ。
遅かったかなーと思いながらなんとなく4組を覗くと見知った顔を発見する事が出来た。


「さっわむらせんぱーーーい!すっがわらせんぱーーーーい!」


このクラスはまだHRが終わったばかりなのか沢山の人がいる中で構わず叫ぶ。
かなりの人に振り返られたが…まぁ気にしない気にしない。
所々で「あいつ、2年の高宮葵じゃね?」とか聞こえるけどね。
それも気にしない気にしない。


「おぉ、高宮じゃん。どしたの?」


澤村先輩の席で話していただろう菅原先輩が優しい笑顔で振り返ってくれたので勝手に教室へ乱入。


「こんにちはー!今日って部活ありますかー?」


2人の席へ足早に近づき、質問する。
澤村先輩と菅原先輩は男子バレー部の部長さんと副部長さん。
キーちゃんは男子バレー部のマネージャーをしていて、キーちゃんにべったりな私は何かとこの2人との接触が多い。
バレー部に関係のない私をいつも優しく迎え入れてくれる2人は、本当にいい人たちだと思う。

キーちゃんを変な目で見ないし!!


「明日の入学式後の新入部員の勧誘方法とかを話し合うくらいでそんなに時間はかからないと思うよ」


菅原先輩はそう説明してくれながら「本当に清水好きだねー」と私の頭を撫でる。
なぜかバレー部の人たちにはよく頭をなでられてる気がする…確かに私小さいけど!!!


「高宮も一緒に来るか?どうせ待ってるんだろ?」
「いいんですか?わーい!ありがとーございまーす!」


兄のような父の様な眼差しで澤村先輩に誘われたので、遠慮無くくっついて行くことにする。

「じゃ、行くか」と立ち上がった澤村先輩にまで頭をポンポンとされた。
何だか子ども扱いされている気が…ま、いっか。
2人により乱された髪を整えてから、小走りで追いかけて間に入る。
153cmしかない私は、20cm以上違う2人の間で歩いていると守られている感が半端ない!
ちなみにこれ以上の身長差は上を見過ぎて首が疲れるからあまり好きじゃない。



「「うぃーっす」」「おっじゃましまーす」


そんなこんなで部室に到着し、中に入ると既に2年の縁下、成田、木下が集まっていて「「「ちわーっす」」」と返事を返す。

なんで高宮がいるのかって聞かれている気もするが私はそれどころじゃない。
なぜなら、既に教室に居なかったキーちゃんが部室にもいないのだ!!!


「なんで?!キーーちゃんどこーーー!?」
「なに?」
「ほわぉ!!」


不意に後ろからかけられた声に変な声がでた。
でもその声は間違いない!!と、すぐに復活し姿を確認する。
キーちゃんだキーちゃんだ!

そのに居たのは紛れもなく探し求めていた美女!清水潔子、通称キーちゃん。私だけが呼んでいるけど。


「葵、どうしたの?」


部室に来るの珍しいねと頭を撫でてくれるキーちゃんに、にへへと顔が緩む。


「キーちゃん家もお仕事でしょ?うちもだからお昼一緒に食べようと思って!お誘いに来ましたー」


皆には聞こえないくらいに「天むす作るよ?」」と言えば、ちょっと照れたように「ありがと」と言ってくれるキーちゃん。
普段はクールな美人さんなだけに、照れ笑いとか最高にかわいいの!

私とキーちゃんはお家がお隣同士で、小さなときから姉妹のように育った。
両親が共働きなので、最近では親が居ない時のご飯などはキーちゃんをお招きして私が作っている。

そんな私達のやり取りに、周りがほんわかとしているなんてつゆ知らず、2人で笑い合っている所に乱暴に部室のドアが開いた。


「すいません!!遅くなりやしたーー!!っって・・・!!!!」


叫びながら入って来たのは同じ2年の田中龍之介。
彼は入り口付近で立っていた私たちを見て盛大に固まった。
しかも大袈裟なポーズで。
固まった理由なんてすぐにわかる。


「き、き、きき潔子さんが・・笑っていらっしゃる…!!!!」


感激だと顔をほころばせる彼は、キーちゃんのファン。いや、むしろ信者だ!
いつもキーちゃんに絡もうとしてスルーされているのを見かけるが、それすらも嬉しそうな様子にちょっと引いている。


「でたな田中龍之介!キーちゃんには近づけさせないんだから!」
「あぁ??って、高宮じゃん。なんで高宮が部室にいんだ?」
「それは私とキーちゃんの仲だからだよ」


いいだろーっと胸を張るとクッと悔しそうな顔をする田中龍之介。
これは私たちのいつものやり取りなので、皆さほど気にすることなくミーティングの準備を進める。

ここである違和感に気付く…。


「あれ?いつもより静かだと思ったら、西谷夕がいない」


いつもなら田中龍之介と一緒になってキーちゃんに群れて来るのに。
ちなみにこの二人は出会ったときからフルネームで呼ぶって決めている。
キーちゃんに近づく許すまじな男だからね!
固有名詞で十分すぎる!


「あぁノヤっさんならまだ部活停止中だぜ。あと2週間くらいか?」


潔子さんのあの笑顔を拝めなかったとは…ノヤっさん一生後悔するぜと大袈裟な事を言っている田中龍之介を放置し、座りだした皆に習いキーちゃんの隣へと腰を下ろす。

1週間の停学と部活停止処分は知っていたけど、春休みで終わるのかと思っていた。
部活停止処分の方が長いんだ、悔しいだろうに。
学校に来て、仲間が部活をやっているのに参加できないなんて…
あのバレー&キーちゃん馬鹿にはさぞ辛いだろう。

今日行ったら自主練、付き合ってあげようかな。


そんなことをぼんやりと考えながら他部のミーティングに参加し、ちゃっかり自分の部でも取り入れようと目論む。
とはいえ、心理学研究部なんて変わった部活、アピールしなくったって目立つ。

そして名前にひかれて来る子の90%以上が心理テストが好きな女の子ーって感じの子で、部室は始終キャッキャした雰囲気になる。
ヴィルヘルム・ヴントが実験心理学の父だとか、実験心理学が学びたいーなんてことに興味がある子は稀だ。

その、まれな分類に入る私ですら将来、そっちの研究がしたい訳ではない。
夢である理学療法士になるにあたって、心理学も知っておくとよいかと思っただけだ。

怪我した人が回復に向かうサポートをする仕事は、身体のメンテナンスだけでなく、メンタル面のサポートも大きな課題になると思う。

心も体も支えることが出来る人になれたら。

そしたら

アンナ事ニナル人ハ・・・・・


と、このままだとちょっと暗い思考になりそうな気がしたので静かにゆっくりと息を吐き出す。思ったよりも出ることのない息に、呼吸すら浅くなる程考えていたのかと驚く。
あわてて大きく吸った息でぐっと顔を上げ胸を張る。

良し、大丈夫。私ならやれる。

急にシャキッとした私に、隣にいるキーちゃんが不思議そうに首を傾げるのでにへらっと笑い返す。部室に居る皆が、新入生を期待し、今年こそはと意気込んでいる。

熱く、眩しいほどの眼差し。

願わくば、このキラキラと夢に向かって輝いている彼らがいつまでも進んでいけますように。

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