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キミと、もう一度。 03

三連休を利用した短期の合同練習が今日から始まった。
今回は日程の都合上梟谷と音駒のみでの練習になるが、自分達だけで練習するよりかは遥かに合理的で得るものも多いだろう。

高揚する気持ちを抑えながら体育館へと足を踏み込むと、そこには既にいつもと変わらない顔ぶれが並んでいた。顔を合わせる機会が多いので、今では特に新鮮味も何もない連中。その中でも、ついこの間街中で会った木兎がニマニマと笑みを浮かべながら近づいてきたので何か嫌な予感がした。


「黒尾ー!この前はデートの邪魔して悪かったな!」


予感的中、とはこういう場合に使うんだろうか。開口一番にそんな事を、しかも大声で言い出すのでつい眉間を顰めてしまったのは許してほしい。

案の定、他の奴らが何事かと自分達の方へ目を向けるものだから、慌てて木兎の肩に腕を回し隅の方へ引き摺るように連れて行った。


「お前、声がデカイっつーの!」
「おぉ、悪ィ。っつーかさ、カワイー彼女だったじゃん!」


しかし、悪びれた様子もなく本題を切り込んでくる木兎につい溜息が漏れるが、まぁコイツはこういうヤツだから仕方がない。それよりも木兎が言った言葉が引っかかった。
彼女を紹介した覚えなんて無かった筈――。そう考えたけど、逡巡したのは一瞬で直ぐにこの間の事だと思い当たる。


「あー。アイツは、」
「付き合ってるんですよね?」


彼女じゃなくて、彼女の妹。そう訂正しようとしたのを遮ったのはいつの間にか傍に居た赤葦だった。


「葵がそう言ってましたよ」
「え?葵ちゃんが?ってか葵って・・・お前ら知り合いなの?」
「葵ちゃんて、黒尾のカノジョか?」


全然気配を感じなかったから突然そこに居たのに驚いたが、もっと驚いたのは否定する間もなく続けられた赤葦の言葉。思い返してみれば、あの時確かに二人で何か喋っていたような気がする。でも、あの時の葵ちゃんの態度からして知り合いだとは思わなかったけど、名前で呼ぶくらい親しいのか・・・?

何となく腑に落ちなくて、赤葦へと問いかける。


「・・・中学の時付き合ってたんで」


なのに、返ってきた言葉は予想以上で、「「はぁ!?」」と木兎とハモッて声を上げてしまった。付き合ってたって・・・そういうコト、だよな。
やべ、マジで混乱してきた。


「あかーしカノジョいたんか?」
「いや、だから中学の時、」
「三角カンケーか!?」
「・・・人の話を聞いてください」


木兎に絡まれている赤葦を助けることはせずに、まずは頭の中を整理する。
葵ちゃんにコイツ等紹介したとき、赤葦に対してそんな事一言も言ってなかったよな。むしろ全然知らない風だった気が・・・。

いや、待てよ。あの時、用事が無いって言ってた葵ちゃんが早く帰りたそうにしていたのは赤葦と気まずかったから?
俺があの場から抜け出す為に一芝居打ってくれたのかと思ってたけど、実際は違ったのかもしれない。よくよく考えてみれば、葵ちゃんの態度は不自然だった。


「だから葵の事、泣かせたりしたら許しませんよ」
「おぉっ、赤葦カッケェ!!」


そして、赤葦の鋭い目。
普段から目付きのイイ奴じゃないけど、これは明らかに含んだものだ。俺が葵ちゃんと付き合ってるって誤解してるからこその視線。
どうして二人が別れたのか知らねぇが、どっちも未練アリな感じじゃね?


「黒尾、どーするよ?」


キョーテキ出現じゃん?と、面白そうに言う木兎に、自然と自分の口角が上がっていくのが分かった。


「オモシロイじゃん」


可愛い彼女の妹と生意気なコイツのために。
一肌、脱ぎますか。



◇ ◇ ◇



「葵ー、これバレー部に差し入れなんだけど持って行ってくれない?」
「えぇ!?何で私?いつもお姉ちゃんが行ってるじゃん」
「私だって行きたいけど、鉄朗がそうしてって言うんだもん」


三連休、特に予定もなく家でゴロゴロしていたら目の前に紙袋をドンッと置かれて、直後にお姉ちゃんのこの言葉。

黒尾くんが大のお気に入りのお母さんは事ある毎にバレー部への差し入れを買ってくる。スポーツドリンクの粉だったり、手軽に食べられる栄養補助食品だったりとその時々で違うけれど、持って行くのはいつだってお姉ちゃんの役目だった。お姉ちゃんだって、それを口実に黒尾くんに会える訳だからいつも喜んで持って行くのに。


「…何か企んでるんじゃないの?」
「さぁ?知らなーい」


こうして私に頼んでくるなんて絶対に裏があるに決まってる。現にお姉ちゃんは明らかに知っていそうな笑いを浮かべているし。でも、こうなったらもう何を言っても無駄だというのも長年の経験で分かっていて…はぁ、と一つ溜息を吐いた。
本当、黒尾くんと似たもの同士でお似合いだよ。

理由を追求するのは早々に諦め、適当に身なりを整えてから紙袋を持って家を出る。まぁ、家に居て何もしてないと京治の事ばかりかんがえてしまうから気晴らしには丁度いいかもしれない。

そこそこの重量がある袋はギチッと指に食いこんできて、痛みを感じる度に持ち変えながら、やっとの思いで音駒に到着した。
サッと渡して直ぐに帰るつもりで居たけど、そもそもバレー部の活動中体育館に入るのが初めてな事に気付いてピタリと足が止まる。

んー、そう思うと中に入りづらいな。とりあえずコッソリと扉から中を覗くと、練習試合か何かなのか他の学校も居るみたいで、益々入りづらくなってしまった。
皆コート脇に寄ってるし、休憩中っぽいから今がチャンスなんだろうけど。誰か知ってる人近くに居ないかな・・・。


「あ、山本くん」


視線を巡らせてみれば、丁度ドア付近に居たのが同じクラスの山本くんだと気付いた。後ろ姿だけだったけど、あの特徴的な髪型は彼で間違いないだろう。そのまま山本くんにサッと渡して帰ろう。そう思って声を掛けたのに・・・。


「あ?・・・っ!!えぇ?高宮サンっ!!!」


こっちが吃驚するくらいの大声を上げられて、結果的に皆の注目を集めてしまった。
「俺に用事ッスか!?」と未だにテンパっている山本くんを見て、そういえば彼は女子に不慣れだったっけ、と普段のクラスでの様子を思い出したが既に遅く、数多の視線が私たちの方へと向けられる。


「お〜、葵チャン。どーもね」


耐え切れずに俯いて顔を逸らしていると、軽い言葉とともに黒尾くんが出てきてくれた。
焦らせてしまった山本くんに謝罪して、もっていた荷物を漸く黒尾くんへと渡す。


「・・・ねぇ、なんで私だったの?」
「ん?だってホラ、見てみ」


かわされるかと思った質問はアッサリと答えられ、やや拍子抜けしつつも中を指差したその先を追えば、射るような視線を向けている瞳と交差した。
一瞬時が止まったかと思うくらいに、その瞳に捉えられて息を呑む。


「アイツと付き合ってたんだろー?聞いたぜ」


面白そうにそう言った黒尾くんの言葉で、やっと視線を逸らすことが出来た。

付き合ってたって京治が、そう言ったんだろうか。…珍しい。あんまり自分からプライベートを話したりしない人なのに。
そして、目の前でニヤニヤと笑みを浮かべている黒尾くんはきっともう全てを悟っているんだろう。


「ついでに見学してけば?」


ほら、その証拠にこんな事を言ってくる。
京治がバレーをしているところなんて、目を瞑れば容易に蘇ってくる位に好きなのに。実際に目にしたらもう、京治から視線を逸らせなくなるのは分かっている。そして視野が広い彼のことだ、絶対に気付くだろう。

頭を振って拒否すると、先程とは違い若干冷たさを含んだ声が上から降ってくる。


「じゃあせめて誤解解いていけよ」


俺もアイツに威嚇されちゃたまんねーし、二股疑惑かけられたらどーするんだよ。
そう続けた黒尾くんの言葉は尤もだし、自分で撒いた種なんだから私がどうにかするべきだ。
分かっているけど、今京治と話したら必死で抑えつけてるこの気持ちが…溢れだしてしまうんじゃないかって。身勝手を言って別れたくせに、今度はやっぱり好きだ。なんて自分でも呆れるのに。


「何か言われたら本当の事言ってくれていいから…ごめん、私帰るね」


他力本願なのも最低だな。
自嘲気味に笑いながら踵を返すと、後ろから「うーん…ダメかー」と呆れた声が聞こえたけれど、それに返事をする事はせずに足を進める。

こうして逃げ出すクセも、 昔と全然変わってない。…素直になれたら、何か変わってたかもしれないのにな。
色々考えていたら感傷的になってきて、青く広がる空を見上げて滲む涙を堪えていると、


「葵」


背後から、心を揺り動かす声がかかった。

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