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あの日の君が 07

2人きりの空き教室で、恥ずかしそうに座る高宮をこんなに近くで見られるのが嬉しくて自然と顔が緩む。
この間までのギクシャクが嘘のように暖かい空気が俺たちを取り巻いていた。


「俺が初めて高宮見たのって、丁度そんくらいの髪の時なんだよな」
「え?!だってこのくらいって・・・」


ショートヘアーを指さして懐かしむ俺に、信じられないといった顔でまた必死に昔の記憶を辿る様に考える高宮。きっと高校入ってからは伸ばし続けていたはずだから、このくらいの髪の時ってのは入学したての時だけだ。


「高宮さ、入学してすぐにあった校外学習って覚えてる?」
「あぁ、あったねそんなの。ん〜所々は覚えてるけど…」


入学後すぐの5月に行われた校外学習は、共同生活を経て友達を作ろう!的なレクリエーション満載のお泊り行事だ。入ったばかりで落ち着きのないこの時期に色々あれば、そりゃあ記憶も曖昧になる。

俺だって高宮の印象が強すぎたからか、それ以外の記憶はあやふやだ。それにいくら考えても高宮が俺を覚えている可能性なんてゼロに等しいのだ。だって、あの時俺たちは直接会話したわけではないのだから。



俺が高宮と会ったのは、校外学習ではお馴染みの肝試しの時。

俺たちの班では、まだ中学生気分の抜けきらない男性陣がふざけて同じ班の女の子を怖がらせては楽しんでいた。
俺は積極的に参加していたわけではないが、楽しくて止めなかったのも確かだ。この時の脅かしはまだ可愛いものだったし、女子も同じ中学の奴らで見知った仲だったからいいと判断したから。

だが奥へ進もうにも怖がって中々足の動かない女性陣を見かね、流石に悪いとそろそろふざけるなと止めようとした時だった。クラスで一番最後の組だった俺たちは、次のクラスの一番手に追いつかれたのだ。しかも率先してふざけていたヤツの友達がその班にいたらしく、俺たちの悪ふざけに便乗してさらに脅かし始めたのだ。

大人数ではしゃぐ男性陣は俺の「やめろよ」なんて言葉はあまり取り合ってくれない。
先に行って隠れて脅かしてみたり、真っ暗なところで倒れて待っていたり、変な虫を捕まえてきたリとどんどん嫌がらせの域に達してしまい、ついには泣き出す子がでてしまったのだ。


「おいお前らマジで止めろって!」


虫を付けられて泣きじゃくる女の子の虫を取り去り、ふざけている奴らへ怒鳴ってみても「女の肩持つなよ」とか「ノリわりーな」と俺が罵られるばかりで状況は変わらず。アイツらの事は気にしなくていいよと言ったところで向こうが絡んでくるのだから無視も出来ない。
最初から止めておけばよかったと後悔したところで後の祭り。

さてどうしたものかと思いあぐねていたそんな時。怖がる女性陣の中で一人だけ元気に笑顔を見せていたのが高宮だった。


「大丈夫!大丈夫!怖い子私に捕まっていいよ」


なんて女の子たちの中心になって不安を和らげていて


「男子はああやってふざけてないと怖いだけだよ。ビビるの恥ずかしいからって子供じみてるよね〜」


なんて男性を煽って


「怖くないならこんな所ささっと通れるでしょ?」


と、ふざけていた男性陣を先頭に立たせて脅かし役の先生を見つけさせるという完璧な対応を見せたのだ。その対応に、同じ歳ながらスゴイ子がいるんだなと感心したが、俺が最も印象に残ったのはこの後。
ゴールした人から室内広場へ移動して待機となっていた為、そのまま二組合流したままゾロゾロと向かっていた最中に高宮がトイレ行ってくるねと一人で輪から外れたのだ。

肝試し後のトイレなんて怖くて行けないと他の女子はついて行かなかったのが気になり、俺もトイレと称して後を追った。トイレに行きたかったのも本当だが、この時なんで追いかけたのかは定かではない。
何となく気づかれない様にとそっと追いかけた先はトイレではなく、階段下の踊り場で。そこで高宮は一人で肩を抱いて震えていた。

「大丈夫、怖くない、大丈夫」と自分に言い聞かせるように呟く声は、少し掠れていて、うっすらと涙を浮かべている様だった。

そりゃあこの子だって女の子だ。皆が怖いって言ってるんだからこの子だって怖がるのは当たり前なのに。俺はなぜ、大丈夫だと思ったのだろうか。
呪文のように大丈夫を繰り返した後、勢いよく立ち上がってよし!と気合を入れた高宮は、すでに初めに見た様な笑顔を浮かべていた。

高宮が立ち去るまで物陰に隠れていた俺は、この時もう高宮に恋したんだと思う。
俺は初めて自分以外の誰かの為に笑顔でいられる強さってのもあるのだと知った。

あの日の高宮を見てから、俺の学校生活にバレー以外が加わった。
それから俺は学校でも高宮を見掛けては眼で追うようになった。
いつ見ても高宮は笑顔を浮かべていた。

そして、高宮がはにかんだような笑顔を見せる時には決まってある男がいる事も気づいてしまった。俺が高宮を見つめるように、高宮もアイツを見つめていた。それが見つめるだけじゃなく、隣にいるようになった時にはこの恋を終わらせようと思った。

もう癖のように高宮を目で追ってしまう俺は、2人が仲良さそうにしているところを見ていれば次第に諦めがつくと思っていたのに、実際はどれだけ見つめても高宮への思いがなくなることは無かった。



「んで、俺は諦めることを諦めたの」


だからこんなにもしつこくなっちゃったのかなって笑ってみたが、耳まで真っ赤な顔を手で覆い隠すようにして照れている高宮はきっと見ていないんだろうな。

話し終えても応答のない高宮に何度か呼びかけると、何度目かの呼びかけでやっと指の隙間からこちらを伺うように目を開けてくれた。


「強がってるところ見られてるとか…穴をくださいっ///今すぐ全力で入るから///」
「ぶはっ!なんだよそれ!ダメだよ。穴に入られたらこんな可愛い高宮が見れなくなるだろ?」


照れている高宮をみてなんだか虐めたい欲が生まれてつい変なことを口走ってしまったが、言ってから自分でも恥ずかしいこと言ったなと照れてしまっては世話がない。

この流れる空気が照れくさい。自分で妙な雰囲気を作ってしまったのだから自分で何とかするしかないと、無駄な咳払いをして改めて高宮へと向き直る。


「あ〜だからな…」


いまだに顔を覆っている高宮の両手をそっと掴み、下ろさせる。


「高宮、ちゃんと俺の目見て」


隠す物を失くした高宮は真下を向いたきり動かなくなってしまったので、手を握ったまま覗き込むように目を合わせる。
恥ずかしさからか少し涙目で顔を赤らめている高宮に鼓動が加速していくのがわかる。
高宮の気持ちは知っているはずなのに今までの告白で一番緊張してるかも

握っている手が熱い
もしかしたら汗ばんでるんじゃないかとも思うが、今は何よりこの気持ちを伝えたい


「俺は自分じゃどうすることもできないくらい、高宮が好きだ。高宮じゃないとダメなんだ。絶対泣かせたりしないから・・・俺と付き合ってくれ」


顔を覗き込んだ結果、床に片膝をついて忠誠を誓うような格好になってしまっている俺は、高宮の目にどう映っているのだろうか。胡散臭くないだろうか、滑稽に映っていたりしないだろうかとの不安は、ゆっくりだがしっかりとした動作で頷く高宮によって取り払われた。

頷いてくれると思っていた。それでもすっげー嬉しくて、それなのにどうせならもっともっと溢れだす欲が止まらない。


「あのさ、高宮の口でちゃんと言ってくれるともっと嬉しいんだけど」


いつまでも、どこまでも求めてしまうのではないかと少し怖くなるほど愛おしい。
絶対に高宮が嫌がるようなことはしないと強く心に誓い、言葉を待った。


「私も・・・私も夜久くんがすき・・です」


ずっと待ち望んでいた言葉が全身に染み渡る様に俺の中に響く。
欲求を我慢しなくては、そう固く決めていたはずなのに押さえることはできなくて。椅子に座っている高宮を引きずり落とすように自分の方へと引き寄せ、強く抱きしめながらそっと唇を重ねた。

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夜久君おめでとーーー(≧▽≦)
やっと!やっと両想いに!三度目の正直!
しかしコレちゃんと夜久君になってます?!大丈夫ですかね…。

本当なら次は夢主視点で書かなくちゃ〜なんですが、どうしても夜久君視点で書きたい!笑
ってことで次はバレー部絡ませるぞ!



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