今苦しいのは走ったから?
アイツの話を聞いちゃったから?
それとも、夜久君に手を握られてるから?
2人きりの教室に私の荒い呼吸だけが響く。
「・・・お節介ばっかりでごめん」
中々整わない呼吸を、怒っているとでも思ったのか夜久君の声がすごく弱弱しい。
無理もないと思う。このところ私が勝手に自分を守る為だけに夜久君を避けてきたのだから。
あんな姿を見せてもいつでも温かく受け入れてくれて、優しくて、楽しくて、しっかりしていて。表面では笑顔作ってるくせに内心うじうじしている私とは大違い。
だから逃げた
自分との差を痛感されられるのが嫌だった。夜久君の隣にいるのが不釣り合いなんじゃないかって思った。それなのにどんどん夜久君に惹かれていく自分が怖かった。
なのに何で。
なんで夜久君はまだ私を追いかけてくれるの。
「ははっ、夜久君にはカッコ悪いとこばかり見られちゃうな」
ごめんね、迷惑かけてと笑いながら顔をあげた。
久しぶりにまともに見る夜久君はやっぱりカッコよくて。でも、私を見てとても苦しそうな顔をしていた。
それが自分のせいだってわかるから早くこの場から立ち去りたかった。
「あ、もう大丈夫だから手離してほしいな」
努めて明るく言ったつもりだった。
それなのに夜久君は全く手を離す様子もなく、それどころか痛いぐらいにギュッと握りしめて来る。
「嫌だ。離したら高宮はまた居なくなっちゃうんだろ?」
「・・え?・・はは、やだな〜夜久君‥何‥言ってるの・・・」
夜久君の真っすぐで力強い目で見つめられ、取り繕っていた笑顔がはがれていくのがわかる。
「やっぱり好きって言ったの迷惑だった?想ってるだけでもダメか?」
違うの。そんなことないの。
そう言いたいのにうまく声が出てこない。
「高宮は俺と話するのも嫌か?」
何も答えない私は今、また夜久君を傷つけているってわかるのに。自分の気持ちを声に出すのが怖い。
重い沈黙が流れ、この教室だけがなんだか別世界にいるような感覚に陥る。しばらくして今まで強く握られていた腕から力が抜けるのがわかった。
「だったら・・頑張って諦められるように努力するよ」
ダメ
本当は心のどこかで夜久君はまだ追いかけてきてくれるんだと期待していた。諦めないでいてくれると。だから甘えていたのだと、握られた手が離れてようやく気付いた。
「・・・っ違うの!」
怖いなんて言っていたら夜久君とこのまま、コレっきりになってしまう。
本当は逃げたいわけじゃない。だから今言わなくちゃ。そう思って、狂ったように叫んだ。
夜久君と一緒にいれて嬉しかったって
夜久君と話してるのはとても楽しかったって
だからダメな自分が苦しかったって
つり合わないと思ったって
一緒に居ちゃダメなんだって
なのに夜久君をどんどん好きになる自分が苦しかったんだって
夜久君もいつか私なんて好きじゃなくなる日が来るだろうって
だから逃げたんだって
自分でも何を言っているかわからなくなるころには、勝手に涙まで流れていた。
ホントカッコ悪い。
夜久君の前では泣いてばっかりだ。
「・・・馬鹿にすんなよ」
夜久君から帰ってきた声に、呼吸が止まった。
こんな身勝手でカッコ悪い私なんて、本当に幻滅されてしまったかもしれない。さらに盛大に流れ出しそうな涙を必死で耐えようと全身に力を入れた時だった。
「俺は半端な気持ちでお前に告白したわけじゃねーぞ」
口調こそ乱暴になった夜久君が、立ち尽くす私を包み込むようにやさしく抱きしめた。
「だいたいお前はダメなんかじゃないだろ。俺はお前が好きだって言ってんのに自分で卑屈になるなよな」
まるで子供をあやすかのようにポンポンと背中を叩かれ、全身の力が抜けていく。
幻滅されてない・・?
夜久くんの声や体温が私を解きほぐしていくのがわかる。恐る恐る夜久君の顔を見上げれば、優しい笑顔でポンっと頭に手を置かれた。
「少しは落ち着いたか?」
発狂する様に叫んでいたぐちゃぐちゃの心は、この状況についていけないからかもしれないが、スーッと落ち着いていることに気付き小さくうなずいた。
「そっか、まぁあんなの聞いた後だしテンパるよな」
そんな時に強引に引き留めてごめんと謝る夜久君に、今度は勢いよく首を振った。
だって、実際アイツに言われたことに傷ついたわけじゃないから。
アイツが言っていたことを夜久君にも思われたらどうしようって、そう思って怖くなってしまったのだから。
「俺ってそんな軽いやつにみえてるのか?」
素直にそう告げたら、夜久君は切なそうに眉を寄せ困ったような笑顔を浮かべたので慌てて違うと否定する。
「夜久君は、その・・すきって言ってくれるけど・・・好かれる理由が無くて」
クラスの中でも目立つ訳でもないし、取り立てて可愛い訳でもない。いたって普通な私を、クラスのみならず、学校内で人気のある夜久君が好きだと言ってくれる理由が見当たらない。
それがより一層私を不安にさせているんだと思う。夜久君は私の事なんてそんなに知らないはずなのになんで・・って。
「あ〜高宮からしたらそうだよな。知り合って数カ月で何でって思うよな」
そういえば理由言ってなかったなと何処か懐かしそうに遠くをみる夜久君に首をかしげる。
「俺は1年の時から高宮の事見てたんだよね」
少し照れくさそうに人差し指でポリポリと頬をかく夜久君に、私は目を見開いてしまった。
だって私の記憶の中の1年生で夜久君は出てこないから。
会話した記憶すら出て来なくて慌てる私に「高宮はきっと覚えていなくて普通だぞ」とちょっと悲しそうな笑顔を浮かべる夜久君に申し訳なさが募る。
「あのさ…俺が高宮を好きになった理由、ちゃんと言うからさ。そしたらお前の気持ち、ちゃんと聞かせて」
さっきみたいな勢いとかじゃなくてさ、と夜久君に言われ今までの会話を思い出す。
私、夢中でなんて言ったかあまり覚えてないけど・・・・・・・どさくさに紛れて好きって言った気がする
狂って叫んだセリフなんて鮮明には覚えていないが、自分がとんでもなく恥ずかしい事を言ったのだとここで初めて理解した。
「ふはっ!顔真っ赤だな」
言われなくても自覚できるほどに熱を帯びた顔を隠すように顔をそむける私を楽しそうに眺めてくる夜久君。優しいだけじゃなくてちょっと意地悪だ。
それでもからかわないでと抗議すればすぐにごめんごめんと謝罪して止めてくれるんだから基本がいい人なんだろうな。
ちょっと話長くなるかもしれないからと近くの椅子に腰かける夜久君につられるように、私も隣の席の椅子を引いた。
「話し終えたらさ、もう一度俺に告白させて」
「俺がどんだけ高宮が好きか、ちゃんと伝えるからさ」
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やっと!!やっと夜久君が報われそうな流れに!!
早くラブラブにしてあげたい(≧▽≦)
次回は夜久君の初恋シーンですね。
やっと あの日の君 がわかる所まで来れた――!