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あの日の君が 05

カツカツとチョークが黒板に当たる音、教師の呪文のような声をどこか遠くに感じながら先程までの事を思い出し、一人手のひらを見つめ、そっと握った。

高宮の二の腕、柔らかかったな。黒尾が変な事言ってくれたものだから反射的に手を放してしまったが、あれは離れがたい感触だった。
すべすべというかモチモチというか‥‥女子はみんなあんなに柔らかいのかな

高宮の席へと視線を映せば、顔を覆ったり机に伏せたりと不思議な動きを繰り返していた。チラリと見える首筋が心なしか赤い気がして、さっきの会話で照れたりしたのだろうかと期待してしまう。

少しは俺を意識してくれてるのかと
もしかしたら黒尾はただの友達になりつつある俺たちの関係を気にしてワザとあんな言い方をしたのかもしれない。アイツの顔からは意図を読み取ることはできないが、きっとそうなのだろう。
黒尾の気遣いに感謝しつつ、コレから高宮が俺を意識してくれたらと改めて期待したのは本当にわずかの間だった。

なぜならアレ以降、いつもなら合うはずの目が合わない。それどころか俺がそばに行く前にそそくさと席を離れてしまい、まともに会話すらできない状態へとなってしまったのだ。


「なんか悪かったな」


まさかあそこまで照れると思わなくてよ…とすまなそうに眉根を寄せる黒尾に「いや、サンキューな」と返したが、どんな顔をしていたか自信がない。もしかしたら明日以降もこのままなのかと思うと、かなりショックはデカい。

あからさまに元気を失くした俺に、ボケッとし過ぎてケガすんなよっと部長らしい檄を飛ばしながら俺の背中を叩いてくれる黒尾に感謝して気合を入れ直す。
コレから部活なんだから凹んでる場合じゃねぇな!そう思って荷物をぐっと握りしめたところで、いつもなら有るはず紙袋がない事に気が付いた。


「あ、やっべ。タオルとドリンク忘れた。ちょっと先行ってて」


いつもなら絶対忘れるはずのない高宮にもらった袋を持っていないんて、相当やられてんなと自分で笑ってしまう。
すでに部室近くまでボケッと歩いてきた道を足早に戻り、教室へと向かう。流石にこの時間は誰もいないだろうなと、そんな思い込みでドアを勢いよく開けたのがいけなかった。


「どぅわあああ!」
「っ!!」


誰もいないと思っていたドアの先に人の姿を見つけ、勢いで踏み出そうとしていた足を慌てて止める。
ギリギリ踏ん張れたとは思うが驚かせたのには変わりないと、急いで相手の顔を確認してさらに焦った。


「うわっ!!高宮!?ごめん、大丈夫!?ぶつかってない!?」
「あ・・・や、夜久君??こっちこそごめん!大丈夫!どうかした?」


ずっと考えていた高宮が目の前にいる。
半日ぶりくらいに俺の名前を呼んでくれた。そのことに嬉しく思ったのも束の間、すっと道を譲ると同時に視線を外されてしまう。

これは本当にあの会話で照れているだけなのだろうか。

やっと…やっと話せるようになったのに。
あんなに笑ってくれるようになったのに。

今、高宮にこんな顔をさせているのが自分かと思うと自分自身に腹が立つ。

何とかして会話をしてみようと試みたが、返って来た返事そっけないもので。あまつさえ、今にもこの場から‥‥俺の前から消えてしまいそうな高宮に、考えるよりも先に高宮の名を叫んでいた。
反射的にだろうが立ち止まってくれたが、こちらを振り返ることなく俯く高宮にグチャグチャな感情が沸き上がる。

嫌だ。
このままじゃダメだ。
困らせたいわけなじゃない。
笑って欲しい。
でも俺の事も見てほしい。


「あのさ・・・待つって言ったしごめんって言われたけど…でも俺の気持ちが本気だってことは覚えておいて」


男だって意識してほしい。
諦めたくない。
諦められない。


「俺はこれからも高宮が好きだから」


好きになってほしい。
身勝手でわがままなこの感情たちは俺に何とかしろと訴え続けて来る。

俺の2度目の告白に和泉はひどく驚いた表情で振り返った後、やっぱり目をそらして小さな声で呟いてから走り去ってしまった。

また告白のタイミングを間違えたのかもしれない。

ごめんなさいじゃなかった。
でも


「私なんかじゃ…」


確かに高宮はそう呟いた。



あの日以降、高宮が俺と会話をしてくれることがなくなった。
あるのは挨拶のみ。
黒尾もアレだけのことでこうはならねぇだろうと訳を聞いてきたほどに俺も高宮もおかしかった。ただ、今回は相談する気分になれず「まぁ、色々な」とだけ答えてはぐらかした。

なんかってなんだよ。
2度目の告白からすでに2週間。どうにかしたいと思うものの、どうしたら良いのかわからず悪戯に時が過ぎて行った。そんなある日。

テスト期間に入り部活が出来なくなったこの日、皆で勉強しようとするも全く集中できなかった俺は一緒だった海や黒尾に断りを入れて一人先に図書室を出た時だった。下駄箱までの階段をやる気なくのんびりと下っていくと、下の階から男女のバカみたいにデカい話声が聞こえてくる。癇に障る声だ

瞬時にそう思ってしまったのは、この声の持ち主がわかってしまったからか。あんな奴の声が聞いてわかるとかすっげ―嫌だな。階段を下りるにつれどんどん大きくなっていく声は、その階へたどり着く前に会話の内容がハッキリわかるほど響いていた。


「あ〜ないない!」
「え〜ほんと〜?」
「本当だって。アイツいい子ぶりやがってつまんね〜もん」
「うわぁ〜ひど〜い!仮にも元カノなのに〜」
「いーんだよ。どーせやってもねぇんだし」
「ふふふ、じゃあ今は私だけ〜?」
「おう。お前のが可愛いし楽しいし、なんたってエロいしな」
「やだ〜エッチ〜」


何だこの会話は。
恋人同士で会話してくれる分には構わないが、これはどう考えても悪口だろう。高宮がこの場に居なくてよかった。元彼がイチャつきながら自分の悪口言ってる場なんて…俺が聞いているだけでも気分悪い。

こんな所さっと通り過ぎてしまおうと早めた足は、階段の先にいる人物を見つけた時点で駆け足へと変わった。血の気が引いた
アイツらに足音が聞こえるとかそんなものはどうでもいい。今は一秒でも早く、アイツらから隠れるように立ち尽くす高宮をこの場から連れ去らなくては。
飛び降りるように階段を下る俺に一向に気付く気配のない高宮に、声を掛けずにいきなり腕を引っ張った。

かなり驚いた様子だが気遣ってやれる余裕はない。
俺は何に焦っているんだろうか。そのまま無言で高宮の手を引き、1階の空き教室へと飛び込んだ。


「なんで・・・こんな時ばっかり居るの・・・」


肩で息をする高宮は、握ったままの手を見つめるように俯いたまま、苦しそうに呟いた。


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夜久君応援してるのに・・・切ない。。
こんなにも夢主の事好きなのに。
そして元カレ最悪・・・。
早くハッピーにしてあげたいっ!!



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