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09 ミセバヤは見つめるだけで

あーあ、本当に来ちゃう辺り私も律儀。まだ朝晩は冷えるというのに、こんな明け方から学校に来るなんて…。
門の前で一旦立ち止まった私に、隣にいたキーちゃんがクスリと笑った。


「来ちゃったなーって顔してる」
「さすがキーちゃん。正解です」


ついでに言うと、ココをくぐったらもう腹を括るしかないなって気合を入れてるところです。キーちゃんと一緒に登校しといて今更なんだけどね。
ふぃ〜っとたっぷりめに息を吐き、一歩を踏み出した。

今日から合宿のお手伝い。将来の勉強の為と思って一生懸命頑張りますっ!!そう、きっと手伝いに没頭していれば余計な事気にしなくて済むはずだしね。

まだ早すぎてほとんど人のいない校内に朝らしく小鳥の鳴き声が響いている。いつも授業後はみんなすぐに練習を始めてしまうらしく時間がないので朝のうちに打ち合わせ。
キーちゃんが使っている更衣室に合宿用の荷物を置かせてもらう事になっているしね。といっても毎日帰るので荷物と言っても運動着とかタオルとかエプロンくらいなんだけど。

基本的にはみんなが練習中は今までのマネージャー業務。その合間で泊まるのに必要な買い出し、ご飯の準備、掃除などがあるようだ。


「じゃあ合宿所の掃除とか私やるよ!キーちゃんなるべく練習にいたほうがいいし」


雑用は任せてという私にキーちゃんはとっても渋い顔をしたけど、効率などを考えて納得してもらう。もちろんケガとかの場合は直ぐ呼んでと付け足して。ま、最終的にはちゃんと免許持っている人に見てもらうんだけどね。

まずは早めに来ているだろう武ちゃんに挨拶と説明の為、2人で職員室へと向かう。澤村先輩から話はしてあるそうだけど、念の為に顔見てご挨拶しておかないとね。
しかし新任の挨拶の時の武ちゃんって全然運動しているイメージがわかないのだが…。数回しか見掛けていないが私の勝手なイメージでは顔面でボール受そうなんだよね。

だからそんな失礼なイメージがわいてしまうほどの癒し系武ちゃんが、不良っぽい金髪の人と一緒にいるのを見て開けた扉を再び閉めてしまっても仕方がないと思うんだ。


「?葵どうかした?」


開けたはずの職員室のドアを閉めたまま固まってる私に、キーちゃんがとっても不思議そうな顔をする。だがしかしコレをキーちゃんに見せて良いのか?!むしろあの男にキーちゃんを見せて良いのか?!人を見掛けで判断してはいけないなんてわかっている・・わかっているが!
そんな私の葛藤など気にすることなくキーちゃんが「失礼します」と職員室のドアを開けた。


「あ、清水さんおはようございます」
「おぉ、清水か。どうした?お前もなんか確認か?」


もし武ちゃんが脅されてる現場だったりしたらと、持っていたカバンをいつでも投げる体制で構えていた私はあまりにも友好的な挨拶に「ほぇ」っと間抜けな声が出た。


「烏養コーチもいらしてたんですね。丁度良かった」


そう言って変な体勢の私を気にすることなく手を引いて2人の前へと進むキーちゃん。あぁ、今日も頼もしい限りです。


「先生、前に話した合宿中にお手伝いしてもらう高宮葵さんです」
「2年の高宮葵です。よろしくお願いします」


キーちゃんからの紹介に、反射的に礼儀正しく挨拶すれば武ちゃんがにっこり笑ってお願いしますと返してくれる。それだけで私の警戒態勢は解かれ、にへらっと力の抜けた笑顔を返すことができた。挨拶の時に思った癒し系の印象は間違っていなかったな。
ならば余計にこちらの金髪さんとはどんなご関係で??そんな目でチラリと見たのがキーちゃんにバレ、クスリと笑われてしまう。


「こちらがコーチをして下さることになった烏養さん。合宿中もずっと来て下さるから」


葵が思ってるような人じゃないよとこそっと耳打ちしてくれて顔が赤くなる。見掛けで判断したのがバレバレですね。


「あ〜怖がらせたか?すまん。少しの間だから我慢してくれ」
「あ、いえ!こちらこそすみません!よろしくお願いします」


ご本人にもバレていたようで慌てて謝罪すると、烏養さんは気にすんなと気さくに返してくれた。見た目で勝手に脅してる人とか思ってごめんなさい。
心の中で謝ったつもりの謝罪が口から出ていて、皆がポカンとかした後、笑われてしまった。重ね重ね申し訳ないが、おかげで打ち解けれたと思っていいのかな。

4人で合宿中のマネの動きや備品の確認。栄養を考えたうえでの献立などを話し合っていたらすぐに朝練の時間が来てしまった。


「じゃあな。先生、後は頼んだ」
「葵ありがとね」


そう言って烏養さんとキーちゃんは朝練へ行ってしまったため2人で残りの打ち合わせ。
武ちゃんは行かなくていいのかと聞けば、練習中は役に立てないんだと言っていた。私が思った通りバレーは未経験で、いま用語とかも覚えてる段階らしい。
でも、その代わりに他でやれることをやるんだと意気込んでいた。好きでもないバレーに、顧問になってすぐにこんなに真剣に向き合ってくれるなんていい先生だ。

うちの部の顧問ももう少し興味持ってくれるといいんだけどなぁ、なんて無い物ねだりは良くないね。あらかたの献立を決め終え、買い出し係を請け負う。家も近所だからこの辺りの地理も完璧だしね。
ただ、初日の今日は買い物が多すぎるので武ちゃんが車を出してくれるらしい。その前にいったん合宿所へ行って冷蔵庫を掃除してからだな。

武ちゃんから再び仰々しいほどのお礼をされながら職員室を後にする。
今日は一日が長くなるな。なんて思っていたのにあっという間に授業が終わってしまった。(ほとんど寝てたけど)
ぼけっとHRを聞き終え、みんながワイワイと教室から出て行く中、私も準備するかと重い腰を上げ所にクラスメイトの男子が興奮気味に駆け寄って来る。


「高宮さん!高宮さん!先輩がお迎えに来てるよ!!」


もしかしてと思ってドアを見ればキーちゃんがこちらに手を振っている。あんな美人さんとお話しできたとうっとり気味の男子をひと睨みしてから急いでキーちゃんの元へと向かう。


「葵、さっきまで寝てた?顔に跡ついてるよ」
「うそ―!恥ずかしい!でもまあいっか」


寝てたの事実だし、キーちゃんが笑ってくれたからよしとしよう。
キーちゃんと並んで歩く2年の廊下は、なんだか周りからの視線がすごい。通りすがりにふり返られる美人の隣を歩くこの優越感!!私のキーちゃんだーって見せつけたくてキーちゃんの手を取った。
いきなりだったのに「なんか懐かしいね」とそのまま握ってくれたのが嬉しくて自然と足取りも軽くなる。これだけで合宿乗り切れそうとか思えるんだからキーちゃんはスゴイ。
ジャージに着替えて体育館へ向かう途中、烏が鳴いた。

朝とは違いだいぶ強くなってきた日差しが照り付ける中、空を見上げれば真っ青な空に真黒な烏が飛び立っていった。

でも私にはまぶしすぎて
烏が飛び立つ先を見ることなく視線をそらした。

落ちた強豪、飛べない烏

そうみんなが言われてるのだと聞いたことがある。でもみんなは必死に飛ぼうとしてる。羽ばたこうとしてる。
だから絶対にまた飛べる

でも、私は飛べない烏ではなく、飛ばない烏だろう
一度も飛んだことのない烏は、きっとこの先も飛ぶことはない

ずっとずっと、飛ぶ鳥に憧れるだけでいい
飛ぶ鳥が見られるだけで十分だから

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