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月曜日の君 中

「いらっしゃいま・・・・あ、花巻くん!」


月曜日、週1回の部活が休みの日。
学校帰りによく通うケーキ屋さんのドアをくぐると聞こえる声。
俺のお気に入りの声。

その声がようやく、俺の名を呼んだ。



*月曜日の君は*



「ちーっす」


俺が挨拶をすると、少し照れたような笑顔を見せる彼女はここのバイトの高宮葵ちゃん。俺と同じ高校2年生だというのは最近知った事実。

部活が休みの月曜日にケーキ屋をめぐるのが趣味となっていた俺は、1年の夏にこのケーキ屋と出会った。ゴテゴテしてなくてすっきりとしてるがオシャレな店構えは、他のファンシーなケーキ屋に比べ入りやすく、みつけたその日にさっそく入った。

ちょっと商店街からは奥に入っているし、名だけ売りたいパティシエではないだろうと予想して。店内もすっきりしていて、どうぞケーキを見て下さい!と云わんばかりのショーケースメインな作りが気に入った。じゃあ見てやるかと、一つ一つじっくり観察すると、何とも完成された作品ばかりで圧倒された。

その店の味がわかるショートケーキと、好物のシュークリームを買って帰り、さっそく家で食べてさらに衝撃を受けた。見た目だけじゃなく、味も完成されているのだ。今まで食った中で一番ともいえるシュークリームと俺は出会ったと思った。

またすぐに食いたくなり、翌週に行った時には既に新作が出ていた。これは食さねばと、新作ケーキとシュークリームを買って帰る。それからまた翌月には禁断症状の様に食べたくなり、買いに行った。

それから1年以上。いまだに俺はこのケーキ屋に通っている。まさに虜になったのだ。

そして、始めはケーキ達に夢中過ぎて気にしていなかったが、いつの頃か俺が買いに行くときにする声がいつも一緒だという事に気付いた。聞き取りやすい、はっきりとした声。
それなのにとても優しく聞こえる声に顔を上げると、居たのは同じ高校生くらいだろう女の子。その時は見過ぎてしまったのか、少し恥ずかしそうにありがとうございましたと言って俺にケーキを手渡した。

それからはなんとなく、店に入った時に店員を見るようになった。
あ、またこの子だと。

何度も通っているし、彼女も俺を覚えているかもしれない。そう思うのに、彼女の口から出る言葉はいつもお決まりのマニュアル通りの接客。不安になり、一度部活仲間に相談したところ


「あー覚えてないかもね。お前は彼女1人しか見ないけど、彼女は1日に何人も見てるわけだし」


なんて言われてしまい、さらに不安が増した。
記憶にないやつに話しかけられるとかただのナンパじゃん。そんな軽いやつに見られたく無し。いや、どうこうなりたいってわけじゃないけど…

確かに顔は…まぁ可愛い方だと思うし、声も好きだけど。
スタイルはショーケース越しだからあまり見てないな…って、ちげーだろ。これじゃ彼女目的で店に行ってるみたいで失礼だ。

よく通う店で、店員と会話したりできたら常連っぽくてかっこいいと思っただけ。そう、ただそれだけだと自分に言い聞かせながらも、今日こそはちょっと声かけてみようかなとか矛盾する思い。

HRが終了すると同時に浮足立ちそうな気持ちを抑え、すぐにケーキ屋へ向かう。だがこの日はドアを開けた瞬間、いらっしゃいませの声がいつもと違った。
急いで顔を確認すると、ショーケースの向こう側にはいつもと違う女の子がいた。

心がざわついた。たまたま休みなだけかもしれない。
だが、もし彼女が辞めていたら…

不安になった。
彼女がバイトを辞めてしまったら、もう会うことは出来ない。この時、初めてその事に気が付いた。

気が付いた時にはもう遅いなんて言葉がグルグルと頭を回る。なんとなくショーケースをじっくり見る気分になれず、この日はシュークリームだけ買って帰った。

それからの一週間は本当に最悪だった。
授業中もよく怒られるし、部活でも集中が足りないと交代させられた。

自分でも珍しいと思う。彼女に振られた時より落ち込んでいるかもしれない。
ただ、いつも行く店のバイトの子がいなかったってだけなのに…。


「なになにマッキー最近どーしたの?恋煩い?ついに本気の恋にでも目覚めた?!」


この手の話になると妙にテンションの上がるうちの新しい主将は、俺が答えもしていないのに一人で勝手に妄想が進んでいたらしく、やたらとはしゃぎまくった挙句にエースのボールを後頭部にくらっていた。
そんないつもの光景を見ながらも、俺の頭には「ついに本気の恋にでも目覚めた?!」の言葉が回っていた。

あぁ、そうか。いつの間にか俺、よく知りもしない彼女に惚れてたのか。
そう理解した途端、意味の解らないもやもやがすとんと落ち着いた。そのかわり、頭に血が上る様に体が熱くなった。

やべぇ、今ぜってぇ顔赤ぇ。
咄嗟に手に持っていたタオルで顔を隠す。

今までは告られるか、気の合うやつとしか付き合った事無かった。まだ話した事も無い子に惚れるとか初めてで、こっからどうやって始めるのか分からなくなる。
なんだこれ、チェリーか俺。ダセェ。

とりあえず落ち着かせようと、休憩後に始まったサーブ練習でボールを思いっきり打ったら見事に大ホームラン。指をさして笑う主将にイラッとして次のボールを奴めがけて打ってやった。

そんな落ち着きのない1週間を過ごし、むかえる月曜日。
今日は祝日で、いつもなら学校帰りに通るあの道は、わざわざ行こうとしなければ通る事は無い。しかも彼女が本当にいるかもわからない。
それでも親にランニングしてくると言いながらも足が向かってしまうのは、それだけ会いたいという事なのだろう。

バスを使っても15分はかかる店までの道は、走って向かうとやたらと遠く感じ、早く会いたいという気持ちだけが増していく。昼食を食べてすぐだというのにペースを飛ばし過ぎ、少し腹痛が起こるがまぁ仕方ない。
日ごろの練習のおかげかでさほど息が乱れることなく着いた店は、いつもと違いやたらと人でにぎわっていた。

そういえば休日に来るのは初めてだ。外から彼女がいるか確認しようとするが見えず、あまりじろじろ見ているだけってのも怪しいのでそのまま通り過ぎる。
また後で覗いてみるとして、仕方ないので今日はとことん走るか。いつもトレーニングで使うあの山まで行って帰って来て2時間くらいだなと目標を立てて走り出せば、先程より足取りも軽く気分も落ち着いた。

ランニングのつもりで出たから小銭しかないし、取り合えず今日は彼女がいるか見るだけだな。居てもなんて声かけていいかわかんねぇし。って、チキンか俺。それじゃ今までと変わらないだろう。なんて彼女のことを考えながら走り続けていたからか。

それとも再び店を覗いた時に彼女が見当たらず、かなりのショックを受けたせいか。
散々どう声かけようかなんでいたくせに、店の外で彼女を見つけた時には思わず声が出てしまっていた。






「花巻君、どうかしたの?」


高宮ちゃんから名前を呼ばれはっとする。
改めて今までの事を思い出していた俺はかなり呆けていたらしい。いやー、あの時は思わずって感じだったけど声かけて良かったぜ、俺。


「いや、今日はここのシュークリーム買うかどうしようかなーって思って」


だって高宮ちゃんの貰えるし?って言えば顔を真っ赤にさせてわたわたする彼女に思わず吹き出す。


「っぷは!毎回慌て過ぎでしょ!」
「もーー!!花巻君の味見は毎回緊張するんだもん!しかたないのー!」


そう、初めて喋ったあの日に立候補した試食役。
始めはもの凄い勢いで遠慮されたが、「お菓子好きの意見も大事だよ」とか「結構まともな意見いえる自信あるよ」とか説得し、見事に大役をゲット。
もちろんその時に「作ったら連絡頂戴」ってことで連絡先も交換した。

あの日の俺、本当によくやったと思う。
そして今日は高宮ちゃんの手作りを貰うのは3回目。俺が楽しみだと言うたびに照れてわたわたする彼女が可愛くてしかたない。

彼女はやたら素直で一生懸命で、張りきろうとするとちょっと空回りしちゃうとこがかなりツボ。たまにするメールでも慌てた様子が伝わる誤字脱字に一人で笑っている。


「花巻君のいじわる!!シュークリームあげないんだから!」


未だ笑っていた俺に、そう言って全然怖くない怒り顔をする所もかなり好みだ。
あれ俺、変態チックかも。


「ごめんごめん、俺が悪かったです。今日は俺からもあるからそれで許して」
「ホント?!あと10分であがりだからもう少し待ってて!あ、ケーキどうする?買う?」


すぐに笑顔になり、時計と俺とショーケースとキッチンとクルクル体ごと向いて確認する姿がミーアキャットみたいだ。

また笑いそうになるのを必死に隠しながら今日はプリン3個注文する。いつも俺だけおいしそうなの食べててずるいと拗ねた母親。買って行かないと何言われるか分からない。
菓子なんて作り出した俺をかなり怪しんでるし。

梱包してもらったプリンを受け取り、店を出る。もう12月になろうとしている夜はかなり冷え込んできていて身に堪える。暖もとれるし、後少しで出て来るだろう彼女の分と一緒にコーヒーを購入しておこう。あの日の彼女の慌てっぷりを思い出させてくれるこの自販機に、幾分か心も暖められた気がする。

慌てて店から出てきて駆け寄る彼女の姿に最近は自惚れた期待が生まれている。

もうすぐ12月。
クリスマスが近い。

俺と一緒に過ごすとか考えてくれないかな。そう思って、彼女を家も出送って行く際中にもう12月だなーってつぶやいてみたが、返って来た答えは


「クリスマスシーズンだね!バイト忙しくなるんだよー!でも新作ケーキ楽しみ!!」


と、ちょっと嬉しそうな彼女。
本当にこのバイト好きなんだな。

ケーキ屋なんだからこの時期忙しいのは当たり前なんだが、なぜか誘う前からフラれた気分だ。結構へこむ一言だったわー。


「花巻君も楽しみでしょ?きっと可愛らしい系とキレイ系の2種類出ると思うよ!」
「おう、それはぜってー買いに行く」


だからその日の帰りにでも一緒に帰ろうぜ。
そう言おうとした声は音を発することなく喉で止まる。なぜなら


「あ、あのね!25日のバイトは早めに終われると思うから!だから…その、よかったらいつもみたいに待っててもらえるかな?」


と、真っ赤な顔で見つめてくる高宮ちゃんに完全にやられてしまったから。


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花巻視点で書いたら・・・・終わらなかった。
そしてちょっとでもほかのメンバー出したくなる衝動ww
write by 朋


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