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月曜日の君 前

紅葉も進み、すっかり寒くなってきた今日この頃。
夕方も16時に近づけば西日が眩しくなってくる。

週初め、休み明けのちょっと気力の入らない月曜日。

私の一番好きな日。



*月曜の君に*




商店街の、ちょっと奥へと入った所にある小さなケーキ屋さん。白を基調とし、オシャレだが可愛過ぎない作りがとても気に入っている私のバイト先。
今日も弾む心を押さえながらお店へと向かう。


「おはようございまーす」
「おはよー!それじゃぁ、休憩行って来るねー」


私がバイトに入ると今までいたバイトの子は休憩に入る。
必然的に、カウンター内には私だけになるこの時間。
月曜日の夕方16時過ぎ。もうすぐ彼がやってくる。


チリンチリーン


「いらっしゃいませ」


静かな店内に私の声が響く。
入店してきた彼は、いつもショーウィンドーをゆっくりと見て回る。時々、「おっ」とかつぶやいちゃう彼を少し可愛いと思っているのは私だけの秘密。
珍しい白のブレザーに身を包んだ、とても大きな彼。180cmはあるだろう身長に、鍛えていると思われる筋肉。夏服の時に出ている腕は本当にすごかった。
色はちょっと可愛らしいけど短く切られた髪はまさにスポーツ青年。黙っていると不機嫌そうにも見える大きな彼とケーキ屋があまりにも意外で印象的だった。

その日は彼みたいな男性でもケーキ買いに来るんだな〜とか、頼まれたのかな?とか思っていたが、翌週にも現れた時には衝撃だった。

それから度々訪れては、ショーウィンドーを見て感心し、ケーキ1つとシュークリームを買っていく。そんな彼に好意を抱き、気にする様になったのはいつだっただろうか。

彼が来るようになって半年くらいたってからある事に気付いた。
彼は決まって月曜日の夕方に現れると。

その事に気付いてから、不定期だった私のシフトが密かに月曜日は必ず出勤になった。店長も他のバイトの子も誰も気付いていない。きっと学校から帰ってくる時間なのだろう。
時間帯はいつも一緒。

私がバイトに入って少ししてからの1人きりの時間。

今日はたまたま他の客は無く、2人きりの店内。かと言って話しかけれるはずもなく、今日も今日とて通常運転の私。


「新作のモンブランとシュークリーム1つずつで」
「かしこまりました」


彼の注文が思っていた通りだったことに、1人心の中でガッツポーズをし、手早く準備しお会計をする。
にやける顔を抑えながら「ありがとうございました」と言うと、「っす」と言い軽く会釈してくれる。

ただそれだけのやり取りを続け、かれこれ1年の片思い中。これじゃだめだなーと分かってはいるが、店員が話しかけるなんて事は中々出来るわけもなく。
しかし彼が3年生だった場合、来年の春に大学生になってもから来てくれるかは分からない。むしろ他県の大学に行く可能性だって高い。そう思うと焦る気持ちはある。

このまま終わらせたくない…。

よし、次こそは他愛無い会話でいいから話しかけるぞ!!
そう意気込んで迎える翌週。



「・・・・最悪だ」


よりにもよって何故月曜日なのか。
無情にも朝の体のだるさと、口から抜き取った体温計の示す38.5の数字に見事にノックダウンされる。

昨夜、少し張り切って長いこと体を洗っていたのがいけなかったのか…
はたまた、髪を乾かさずに爪を磨いていたのがいけなかったのか…
どっちにしろ自分のあほさ加減に涙が出る。


来週の月曜日は祝日。
祝日に彼が現れた事はない。


「はぁ・・・・・・。」


深いため息が漏れ、そのまま突っ伏すように枕に顔を埋めてふて寝をする事、丸2日。ようやく体調は回復したものの、気持ちと気力は低下の一方。
休みの日に大好きなお菓子作りをしてみても心は晴れず。むしろ上手に出来上がってしまった大量のガレットを食べてくれる人のいない寂しさに失笑が漏れる。


「これが渡せたらいいのに…」


話した事も無いくせに、望みばかり高くなっていく。
現実はバイト仲間に配って、火曜日に学校の友達に配って、それでも余って一人で黙々と食べることになるのだろう。

はぁ、と何度目になるか分からないため息をつく。
無駄に大量にラッピングされたガレット達をガサッと紙袋に入れ、しばらくガレット生活だなと覚悟を決めてダイエットを決意する。と言っても普段から勉強の為と称し、ケーキやら焼き菓子やらを食べているのだが。

続けなければ意味のないダンスエクササイズのDVDを久しぶりにセットし、リビングを占領する。軽快な音楽と共に体を動かせば少しは気も紛れるだろうと思い、ひたすら全力で踊る。無表情で怖いなどと親に言われたが、おかげでその夜は何も考えずにぐっすり寝ることが出来た。


そんな、体調万全、体力満タン!だが気力だけがない月曜日をむかえた。
祝日の為か寒くなって来た為か、今日は朝から忙しかった。新作のチョコレートケーキは見た目の可愛さもあり、飛ぶように売れていく。
どうして寒い時には甘い物が食べたくなるのだろうね、人は。

途絶えることのない客足はあっという間に時間を進めていく。
やっともらえたお昼休憩に時計を見れば15:30を過ぎてた。あぁ、もうすぐ彼が来るかもしれない時間なのに…。一瞬よぎった考えに、祝日だからきっと来ないと諦めていたのではないのかと自問自答し、頭を振る。


「では、休憩いただきまーす」


ふぅと気を緩めた途端に鳴りだしたお腹の為にも遅い昼食を取らねばとカバンを持って外へ出る。


「さむっ!!」


制服の上に秋物コートを着たとはいえ、ずっと室内にいた後の北風は身にしみる。
取り合えずの暖を求め、すぐ近くにある自販機でHOTココアを購入しようとしたまさにその瞬間だった。


「…あ、居た」


不意に横から聞こえた声に心臓がドクンッと高鳴った。
何故か固まってしまった体は動けず、首だけを声のする方へ向けた先に居たのは祝日には現れないと思っていた彼だった。
しかもいつもと違い、ランニング中だったのかジャージ姿で汗がにじんだ状態。

やばい!カッコいい!ちがっ!何でいるの!?ってか話しかけられた?私!?
もはや完全パニック状態で思考回路はショート寸前!今すぐ会いたいわ〜とか思ってましたけど!!!って、だから違うだろ私!落ち着け!


「いつも居るのに先週居なかったから辞めちゃったのかなーって気になってたんだけど・・・・って、
 あ、ごめん。俺良く店行ってるんだけどわかる?」


しまったとバツが悪そうに頭を書く彼に慌てて体ごと向き直り「もちろんわかります!」と返事する。
その際、私の横の自販機がガコンッと音を立てた。

嫌な予感がし、反射的にまた首だけ音の先へと向ける。
取り出し口ではブラック無糖と書かれたコーヒーが拾ってもらうのを待っていた。


「えーと…度々ごめん。俺のせいだよな、それ。」
「いえ!!これでいいです!問題ないです!!


振り向きざまに違うボタン押すとか私のばか!恥ずかしすぎる〜!!


「いやいや、めっちゃココアの前で固まってたし、違うでしょ」


しっかり私が何を買おうとしていたか見ていたらしい彼は「タイミングまずったかー」と言いながらポケットを探り、小銭を確認する。


「ごめん、金持って来てねぇわ」


さっきスポーツドリンク飲んじまったしなーと言いながら40円程の小銭を見て苦笑いをする。もー!なんていい人なの!!


「いえ、本当に大丈夫です!暖を取りたかっただけですし、ブラックも嫌いじゃないです!」
「本当に大丈夫?結構な路線変更だけど」


まぁ確かに空腹時に飲みたいのは甘いものだが。


「後でこれを食べようと思っていたのでその時に頂く事にします!」


そういってカバンの中にどっさり入っているガレットを取り出して見せる。
バイトの子と自分用にと持って来たガレットは、配り終えてもなおカバンを占領するほどある。


「うわ!多くね?なに?店の新作?」
「いえ、昨日作り過ぎてしまって自分で消費中です……よかったら食べます?」


そう言ってさりげなくガレットを差し出す。
流れ的には完璧!私凄い!内心バックバクだけど!


「おねーさんの手作り?!マジで貰っていいの?走った後で甘い物欲してたんだよねー」
「こちらこそもらって頂けて嬉しいですっ!」


緊張で震えそうなのを必死で押さえて手渡すと、彼はお店の時みたいにまじまじとガレットを見る。


「めっちゃきれいに出来てるなー今食ってもいい?」


そういいながら私の返事を待たずに包みを開けて行く。
なにこれ、公開処刑の気分ですが!

普段からお店のスイーツを食べ慣れている彼の舌は絶対肥えていると思うのですが!口に合わなかったらどうする?!無理に食べてくれそうな気がするけど!何かお口直し持ってなかったっけ?!
あっ!!


「あ、あのっ!コレもどうぞ!」


とっさに思いついて差し出したのは先程、予定外に私の所へやってきたブラック無糖のコーヒー君。君はきっとこの為に私の所へ来たんだね!!
既に一口ほおばっていた彼は「ん、うま」と呟いてくれているけど!


「いやいや、こんなうまいもん貰っといてコーヒーまでは贅沢すぎるっしょ」
「そんなことは!!水分必要ですよ!それに、貰って頂ければ私はココア買えますし」


本音ならお口に合ったみたいで本当に嬉しいですが、本人目の前にいるからのお世辞かもしれないし!それにガレットって絶対飲み物欲しくなるでしょ。

どうぞと半ば無理矢理コーヒーを渡し、逃げるように自販機へ向き直りココアを購入する。手に取ってすぐにプルタブを開ければ、彼も「じゃ、遠慮なく」と軽々と片手でプルタブを開ける。
その仕草すらカッコいいとかずるくないですか。

照れ隠しにうつむきながらココアに口を付ける。ほのかな甘さと温かさで少し落ち着いた気がする。
ふーっと顔を上げた時には、彼の手に合ったガレットは既になくなっていた。


「ごちそーさま。マジですげーうまかったんだけど」
「ホントですか?!お口に合ってよかったー」
「本当だって。よく作ってんの?」
「あ、はい。私、パティシエ目指していてその勉強もかねてよく作るんです」


だからケーキ屋のバイトは色々な刺激が有り重宝している。新作スイーツは斬新な物も有り、創作意欲が掻き立てられるというか。
どーりで、と納得したような彼にまだまだ失敗も多いですがと苦笑する。


「次はクッキー生地のシュークリームを作ろうと思ってるんですけどね…前回失敗したので」


あまりに彼が頻繁に買うので密かに作る回数が増えたシュークリーム。
ただしアレンジしようと思うと難しく、前回はクッキー生地にかぼちゃを入れようとして失敗した。


「次はホロ苦めのクッキー生地に挑戦しようかと」
「はい!」
「?はいどーぞ」


彼がなぜか真顔で挙手までするので、つられて私も手を上げて聞いてしまう。

何か改まって言わせてしまうような事したかとドキドキして待っていると、彼から発せられた言葉は、更に思考回路を止める一言だった。


「それ、俺も食いたいです」


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あれ終われない・・・しかもどっちの名前も出てこない・・・・
次こそは必ずっ!!
write by 朋


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