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せんぶ先輩がおしえて 06

最初に見たのはいつだっただろう。

練習中に感じた視線を辿ると、1人の女の子の姿があった。

また及川目当てか…何て思っていたけど、及川がサーブを決めたりしても他の女子みたく騒がずにジッと練習を見ているのが印象的で、何度かその子に視線を移してしまう。まぁ…外見がメッチャ俺の好みだったってのもあるんだけど。

彼女が練習を見に来るのは毎日じゃなくて、不定期。それでも来た時にはいつも同じ場所で、いつも同じモノを飲んでいた。
下級生って事は分かってたけど、それだけ。何組かも、名前すら知らなかったし、後輩に聞いてまで知りたいっていう訳でも無かった。

今まで何人か彼女がいた事は有ったけど、ほぼ部活関連で無理を言われて、それでも部活を優先すれば別れを告げられるっていう流れに多少ウンザリしていたのもあり、今ではもう付き合う云々すら面倒になっている自分がいる。
俺なりに淋しい想いをさせないように出来るだけ時間を割いても変わらない結果。

自分が気に掛けている子なら尚更、そういう結末は迎えたくないし、ちょっと良いなって思ってるくらいが一番楽しいのかもしれない。そう思っていた。

…あの時までは。




「行動早いっスね」
「いやー、食後だし丁度甘いの欲しくてネ」


昼休みに後輩の矢巾から珍しくメッセージが来たかと思って見てみれば【弁当の中に何故かシュークリームが大量に入ってたんですけど、食べます?】って内容で、見るが否や席を立った。
メシも食い終わったし、シュークリームの事を考えたら口がシュークリームを欲し始める。


普段から自分の好物を公言しておくとこういう時に声が掛かるからいいよなー、なんて思いながら記憶を辿って矢巾のクラスへと向かった。
感心なのか皮肉なのかよく分からない台詞を矢巾から言われつつも、一口サイズのプチシューが袋に入った状態で手渡されて、素早く一つ口に運ぶ。若干室温で温くなっているけれど充分ウマイ。


「弁当にデザートまで入れてくれるとか凄くね?」
「たまたまですよ。自分で買っておきながら結局食べきれなくて俺に回って来たんだと思います」
「あー、あるよな。残飯処理班みたいに扱われるの」


何となくそのまま雑談を交わしていれば、賑やかな廊下から自分の名前が聞こえた気がして視線を向ける。けれど、丁度死角なのか姿は見えない。
ここが3年の廊下だったならば、「陰口言うなよー」と冗談交じりに参加するところだけど、ここは2年の場所で話しているのは顔も知らない後輩だ。

ムクムクと好奇心が湧いてきて、開いている窓からヒョイッと顔を覗かせると、そこに居たのは女子が3人。他の2人の顔は見えたけど、俺のプレーを熱心に褒め称えてくれている子だけは後ろを向いているから顔は分からない。だけど…。


「決定力だってあるしね!」


及川や岩泉みたいに人の目を引くプレーが出来るわけじゃない。
ちゃんと俺のプレーを見て、こんな風に言ってくれるのは嬉しかった。

上から見てる子は皆キャーキャー言ってるだけの及川ファンだとばかり思っていたけど、そうじゃない子も居るんだな。


「葵は本当に花巻先輩が好きだもんね」


へぇー、葵ちゃんっていうんだ。
女の子の口から出た言葉を聞いて、俺の頭の中に後ろ姿しか見えないこの子の名前がインプットされた。どうせなら顔も見てみたい。こっち向いてくんねーかな…。声かけてみようか。

そう思った時にもう1人の女の子と目が合い、酷く驚いた様子で言葉に詰まりながらも俺と葵ちゃんを交互に見やった。それに気づいた葵ちゃんはゆっくりと俺の方を振り向く。


「ドーモ」


なーんて、軽く挨拶してみるけど驚きのあまりちょっと動揺した。
顔には出ていないハズだが、コッチに振り向いたその顔は紛れもなく、俺が練習中に視線を向けていたあの子だ。


「は…はなまき、せんぱい」


さっき話していた内容の所為か、俺以上に驚いている様子の彼女。
名前はさっき聞こえたから分かってるけど、あえて葵ちゃん自身に聞いてみる。


「高宮、葵です」


今まで知らなかった彼女の事が一つだけ分かった瞬間、もっと知りたいっていう気持ちが湧いてきた。なんでもないフリして、一言二言交わしてからその場は後にしたけど、お礼と称してシュークリームを上げた時に葵ちゃんの柔らかい唇を指で掠めたのはワザと。

ちょっとだけでも意識して欲しかったからね。

それからは松川に窘められるくらい彼女に絡んでしまったりして。でも、話せば話すほどに彼女の人柄に惹かれていった。
元々気になっていただけに好きになるのは容易くて…葵ちゃんの考え方を聞いた時は、きっと葵ちゃんとだったら上手く付き合っていけるんじゃないかとも思った。

俺に好意を向けてくれているのは言動で伝わってきていたけど、ただの憧れっていう可能性もある。だから葵ちゃんのバイト先まで押しかけて、無理矢理2人の時間を作った上でこうして告白したワケだけど。


「私も、花巻先輩の事好きです。ずっと好きで…夢みたい」


嬉しい…と、顔を赤く染めながら伝えてくれた葵ちゃんの気持ち。
聞いた瞬間に安堵から細く息を吐いて、死角で小さくガッツポーズをした。


「あのっ、私…付き合うのって初めてで」
「あぁ…そう言ってたな」


葵ちゃんの言葉で、以前交わした会話が思い浮かぶ。
惚れた欲目もあるかもしれないけど、こんなに可愛いのに今まで彼氏が居なかったって聞いて、あの時はかなり驚いた。

でも、今となっては葵ちゃんのガードの堅さに感謝だ。俺が初めてってワケだし…そう思うとかなり嬉しいかも。
んー、初めてだったらちゃんと葵ちゃんのペースに合わせてゆっくり進んでいかなきゃいけねーな。焦りは禁物だ。心の中でそう決意した時


「だから…その、付き合うってよく分からないので…先輩が教えてください」


恥ずかしそうに顔を赤らめて上目がちに俺の方を見るその瞳に、今しがたしたばかりの決意がガラガラと崩れていきそうになった。
自分の彼女に教えて、なんて言われたらイロイロ想像しちゃうのは許してほしい。これ、絶対天然だもんな。先が思いやられるなー、大丈夫かな俺。


「花巻先輩?」


少し熱くなった顔を隠すように掌で押さえていると、隣から不安そうな声が掛かる。


「あー…じゃあ、葵ちゃんはなるべく遠慮しないで、俺に甘えてね」


何でもないフリを装ってそう言うと「あ、甘える…ですか」困ったように復唱するから思わず笑ってしまった。


「それは…」
「ふはっ、そんなに困らなくても。徐々にでいいよ」
「はい…がんばります」


甘えるのを頑張るんだ・・・っていうか、葵ちゃんには頑張らないと甘えるのも無理なのか・・・
ああ、もう。可愛すぎてこっちが困るわ。


「これからよろしくな」
「はいっ!」


満面の笑みで頷いた葵ちゃんを見てやっぱり少しだけ、と。
前髪を優しく横へ流し、カタチのいい額へそっと唇を落とした。


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・・・というわけで、花巻先輩の気持ちが明らかになりました。
次で最後です!


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