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ぜんぶ先輩がおしえて 05


「俺、葵ちゃんの事好きだわ」


からかうような口調ではなく、酷く真面目に花巻先輩はそう言い放った。
突然の事で何が何だか分からず、言葉が出ない。でも、堪らなく嬉しくて必死で首を上下に振った。

先輩の温かい手が私の頬へとかかり、距離が縮まる。近づいてきた先輩の顔を直視出来なくて目をぎゅっと瞑り、高鳴る胸を押さえながら来るべきものに備えた。

ん?あれ?
待てども期待していたソレは来ず、頬に触れている手に力がこめられてムニッと形を変えられる。
え、待って。ちょっと…先輩。さっきの甘い雰囲気はどこへ?
力強いし、変顔になっちゃいますって!ちょっ…


「痛いーっ!」


そう叫んで閉じていた目を開くと、自分の部屋の天井が視界に広がり、花巻先輩の姿は何処にもない。
慌てて身を起こしてぐるっと周りを見渡しても、ここは紛れも無く自分の部屋。怯えたように部屋の隅にいる猫を見て全てを察した。


「っ、夢か〜」


ボスッともう一度ベッドへ寝そべり顔を覆う。まさかの夢オチですか。
この前のデートの時に言われた言葉が嬉しすぎて脳内にロックを掛けて保存しているせいだ、絶対。都合よく編集されてあんなシチュエーションで再生されるなんて…。


「ミイちゃん、どうせならあと3秒待っててよ」


私の叫び声に余程驚いたのか、未だに隅から動かない猫のミイちゃんに恨み節を吐く。
今までの経験上、私の頬の形を潰して夢の内容を邪魔してくれたのはミイちゃんで間違いないだろう。例え夢だって、花巻先輩とキス出来たら今日1日幸せ気分で過ごせたのにな。

はぁ…今日は土曜日だけどバイトだ。上がらないテンションのまま身支度を始めた時、軽快な音を立てて携帯が新着メッセージを知らせてくれる。
とりあえずロック画面で誰からか確認しようと視線を向けると「花巻先輩」の文字が見えたので、素早い動きでロックを解除した。

…なんだろう、休みの日に珍しい。
逸る気持ちを押さえながらトーク画面に目を落とす。


【葵ちゃんって今日バイト?何時くらいまで?】


その意味を図りかねたが、取りあえず今日のスケジュールをチェックすると、オープンから3時までの予定だったからその内容を返信をした。


【じゃあシュークリーム一個キープして貰っといていい?俺も今日そのくらいまでなんだ】


それを見た瞬間、ぶわっと気持ちが浮上して浮かれたスタンプを送る。
これって、今日来てくれるって事でいいんだよね!?土曜日なのに先輩に会えるっ!既に出していた服をしまって、代わりにお気に入りの服を取り出した。
シュークリーム買いに来るだけだったらバイト先の制服だから意味ないかもしれないけど…念のため、ね。

あのデートから少し距離が縮まったような気はしていたけど、こんな日がくるなんて思わなかったからすごく嬉しい。オーナーにも、バイトの子にも「何かいいことあったの?」とか「機嫌いいね」って言われるくらい表情に表れていた。

客足が途絶えた時に、先輩に頼まれていたシュークリームを1番小さな箱の中に入れてショーケースの中へと戻しておく。
チラチラと時計を見つめては念を送ってみるけど、そんな事をしたって速くなるわけがなく、いつもと同じスピードで針が刻まれた。

そして漸く3時になるかという時、ガラス張りの入り口の向こう側。青城の制服に一際高い身長、赤茶色の髪の毛が見えて一気に緊張が走って背筋が伸びる。


「お、居た」


一切の躊躇なく扉を潜った花巻先輩は私の姿を見るなり口角を上げて微笑んだので、思わず私もヘラリと顔が緩んでしまった。


「部活お疲れ様です。頼まれてたもの取ってありますよ」
「サンキュな。あー、他のもウマそう」
「ですよねっ!どれも美味しいですよ!」


ショーケースの中からシュークリームの入った箱を取り出すと、先輩の視線は陳列されているケーキ達に向いている。本当に甘いものが好きなんだなぁ。私も好きだから隅から隅まで眺めちゃうのはすっごく分かるけどね。


「葵ちゃんもう終わる?」


先輩のその言葉に時計を見ると既に3時を回っていて、先輩の接客を最後に上がれそうだと思ったので一つ頷く。
それにしてもさっきはあんなにゆっくり進んでいた時間も、先輩と少し会話しただけであっという間に進んでしまったんだから本当に凄い。


「じゃあ俺、そこにある公園で待ってるから。終わったら来て?」
「え?」


その言葉を上手く飲み込めなくて呆然としていると、先輩に会計を促されて慌ててシュークリームひとつのお金を受け取った。


「じゃあ、また後でな」


いつかのようにヒラリと片手を上げお店を後にした先輩をいつまでも目で追っていると後ろから


「葵ちゃん、もう上がってもいいよ」
「あ、はい」
「今の彼氏?いいねぇ」


ニヤッと笑いながらオーナーに声をかけられ「違います」と否定したけど、この赤く染まった顔の所為できっと信じてもらえていないだろう。
お疲れ様です、逃げるようにそう告げてロッカーで着替えを済ませると、慌てて公園へと向かった。

そんなに広い公園では無いので遠目からでも直ぐにベンチへ座っている先輩を見つけれた。小さくなったシュークリームを口の中へ放り込むその仕草が何だか可愛くて思わず笑ってしまう。


「花巻先輩っ」
「おー、早かったな。ってかこのシュークリームマジでウマいね」
「ふふっ」


親指で口についたクリームを拭って、ペロリと舐める動作を見てしまい心臓が高鳴る。
慌てて視線を逸らして1人分のスペースが空いていた先輩の隣へと腰を下ろした。


「ひゃっ」


ふうっと一息ついたところに、突然冷たいものが頬に当てられて変な声を上げてしまう。反射的にそこを押さえながら横を向くと、無邪気な笑顔を浮かべた先輩。


「ふはっ。それ、あげる」


先輩の手にしているモノに視線を落とすと、私がよく買うミルクティーの缶。
偶然だとしても、自分の好きなものを先輩から貰えたという事が嬉しくって、笑顔で受け取った。

このまま飲まずに持って帰って部屋に飾っておきたいくらいだけど、飲まずにいたら嫌いかと思われるかな。
少し迷って、結局プルタブを引いて一口流し込むと、慣れ親しんだ味が口の中に広がって気持ちが落ち着く。


「おいし…ありがとうございます。ミルクティー大好きなんですよ」
「良かった。いつも飲んでたもんな」


ん?いつもって…確かに良く飲んでるけど、先輩の前で飲んだ事あったっけ?
視線を斜め上に向けて考えてみるけど、答えは出ない。

まぁいっか。本当にいつも飲んでるし、どこかで見掛けたのかもしれない。それを先輩が覚えてくれていたことが凄く嬉しいから。もう一口、コクリと飲むと自然と口元が緩む。


「なぁ、葵ちゃん」
「はい?」


花巻先輩の問いかけに視線を缶から先輩へと移す。


「何で今日俺が来たと思う?」
「えっ?シュークリームが食べたかったからじゃないんですか?」


むしろそれ以外の理由が見つからないというか、思いつきもしなかったんだけど。
前に話した時、私のバイト先のシュークリームが美味しいっていう話もしてたし、たまたま今日時間が出来たから来てくれたのかと思ってた。


「んー…シュークリームは口実で、葵ちゃんに会いに来たって言ったら信じる?」
「え?」


またそんな風に揶揄って…。
多少拗ねた気持ちになりながら横目で先輩を見ると、そこには揶揄いなんて一切ない真剣な表情をした先輩がいて、二の句が告げなかった。


「いや、回りくどいの嫌だからハッキリ言うけど。俺…葵ちゃんの事好きだから付き合って欲しい」


初めて見る照れたような表情でそう言った先輩を、どこか他人事のように眺める。

今…先輩は何て??葵ちゃんの事が…好き、だから…つき、あって?付き合って…って。
鈍くなっている思考の中で言われた言葉を反芻すると、漸く何を言われたか理解した。


「…おーい、聞いてる?」


目の前で先輩の手がひらひらと振られているのを見て、呆然としていた意識がハッと浮上する。

ずっと大好きだった先輩からの予想だにしない告白。
嬉しくて…嬉しすぎて胸が押し潰されたみたいにギュッてなった。
今度は夢じゃないよね・・・現実、だよね。


「私、私も…花巻先輩の事好きです」


まさか本人を前にして言える日が来るなんて思っていなかった。
私の一方的な想いだけで終わると思っていたのに。


「ずっと、好きで。夢みたいです…嬉しい」
「俺も」
「えっ?」
「俺も、ずっと葵ちゃんの事気になってたから」


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夢オチからの急・展・開!すみません。
次は花巻先輩がどう思ってたか書きたいと思います。


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