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ぜんぶ先輩がおしえて 07

花巻先輩と付き合い始めて一ヶ月と少し。

先輩の部活や私のバイトとかで、一緒に過ごせる時間は沢山あったわけじゃないけれど、学校で一緒にご飯を食べたり、私のバイトが無い日は部活が終わるのを待って一緒に帰ったりした。

電話やメールも沢山くれるから、淋しいとかは全然思わない。むしろ、先輩は空いている時間を殆ど私と一緒に過ごしてくれるから凄く嬉しいし、楽しくて毎日幸せ。
付き合っていく日々の中で、前にも増して先輩の事が好きになる毎日。これ以上なんて無いって思うのに、日に日に思いは募っていくから不思議だ。

今日みたいに、部活もバイトもない月曜日は学校帰りにどこかに寄っていくのが恒例になりつつあり、先輩の隣を歩くのにも最初に比べれば大分慣れた。

でも、こうして手を繋ぐのはやっぱり少し緊張してしまう。ぎゅって抱き締めてもらったり、その・・・・・・キス、とかも何回かしたけれど、毎回心臓がはち切れるんじゃないかと思うくらいにギューッってなっちゃう。そんな事を考えていたものだから、横を歩く花巻先輩の顔をチラリと横目で窺っただけで一気に顔に熱が上って熱くなった。


「葵?どうかした?」
「いっ、いや・・・何でもないですよ?」


何でもないとは思えない返答になってしまったけど、先輩はふっと笑っただけで特に追求はしてこなかった。
まぁ、私が挙動不審なのは今に始まった事ではないからかもしれないけど。

私なんて今みたいにちょっと笑ったのを見ただけで、ドキドキして先輩の顔すら見れなくなるのに。花巻先輩は付き合い始めてすぐに私の事を葵って呼び捨てで呼んだり、スキンシップも増えたりして・・・嬉しい事この上ないけど、翻弄されっぱなしでちょっと悔しい。


「なぁ、今日俺の家来ない?」
「っへ!?」


何の前触れもなく、唐突に先輩の口から出た言葉が衝撃的すぎて、声が裏返ってしまった。

先輩・・・今、何て言った?俺の家って言ったよね?先輩のお家っていうことは・・・つまり、その・・・アレって事!?
えっ、どうしよう。先輩のお家にはもの凄く行ってみたいけど・・・。色々な想像をしてしまって、顔がどんどん赤くなっていくのが自分でも分かった。
そのワリに上手く言葉に出来なくて、もごもごと口の中で言葉が消えていく。何か言わなきゃと焦れば焦るほどテンパってきて、いつにもまして挙動不審になっている気がする。


「ぶはっ、そんなに焦んなくても別に何もしねーって」


あんまりにも焦る私が可笑しかったのか吹き出すように笑ってそう言い、尚もクツクツと笑っている先輩。
私が考えていた事はやっぱり全部筒抜けだったようだ。見抜かれたのは恥ずかしいけど、何もしないって言われて肩の力がフッと抜けた。


「えっと、行ってみたいです」
「おー、じゃあ行こうぜ。でも本当にいーの?」
「ん?私は平気ですよ」


バイトの時は結構遅い時間になるし、ちょっとくらい遅くなっても両親は特に何も言ってこない。だけどそんな私の考えはまたもや見当違いだったみたいだ。


「俺の家、この時間誰もいないんだよネ」
「えっ、でもさっき何にもしないって…」
「んー?ちょっとはするカモ、そーゆーコト」
「えぇっ!?なん…えっ?」
「だって葵、あからさまにホッとした顔してるし。彼氏としてはちょっと…なぁ?」


そんな満面の笑みでなぁ?なんて言われても…っ!
確かにさっきホッとしたのは事実ですけど!でも…だって…どうすればいいの?

キスをしたのも、手を絡ませて繋いだのも先輩が初めてで。この先何があるかは…周りの友達とかから色々話を聞いて知ってるけど。ちょっとって…ちょっとって何なの?
再び頭の中はぐるぐると色々な事で混乱してしまって、先輩に何か話しかけられている気はしたけれど、何て返事をしたかは朧気だ。


「ここ、俺んチね」


そして、気づいた時には先輩の家の前だった。
どこをどう歩いてここまで来たのかすら曖昧だけど、目の前の表札には確かに「花巻」とオシャレな字体で書いてある。

ドクドクと忙しなく心臓が脈を打ち始めて、緊張から呼吸が浅くなった。そんな私にはお構いなしに先輩は玄関を潜り、繋がっている手のおかげで必然的に私も引っ張られるようにお家の中へ足を踏み入れた。


「何か飲み物持ってくから部屋で待ってて」


案内された先輩の部屋はモノトーンで統一されていて、私の部屋にあるような明るい配色は無い。
チラリと視線を巡らすと、至る所にバレー関係のものが置いてあって。何だか先輩らしいな、なんて自然と笑みが浮かんできて、そのおかげか緊張も少し解けた気がする。

でも、ふわりと鼻腔をくすぐった香りは紛れもなく先輩のもので…その香りにギュッと抱きしめられた時を思い出させられて胸が熱くなった。


「あれ?んなトコに立ってないで座れば?」
「っ、」


そんな時に声を掛けられて肩が跳ねたけど、先輩にはバレなかったみたいで、何だか覚束ない足取りだったけど、促されるままに腰を下ろす。


「どした?緊張してんの?」
「うん…何か、先輩の部屋だなぁ、って…」
「ふはっ、何だソレ。俺の部屋ですけど?」


なんだかまだ実感が湧かなくて変な事を口走ってしまったけど、いつものように先輩は笑い飛ばしてくれて、言葉を交わすうちに私も少しずつだけど普段と同じように接する事が出来るようになっていった。


「あ、そうだ。ずっと言おうと思ってたんだけど」
「・・・?」
「葵が先輩って呼んでくれるの好きだけどさ。付き合ってんだし、そろそろ名前で呼んでよ」
「な・・・名前、ですか」


落ち着いたところにまたもや爆弾を投下されて動揺する。
本当に、花巻先輩と一緒にいると緊張したりドキドキしたり動揺したり・・・落ち着くヒマが無い。

もちろん先輩の名前は知っているけど・・・いきなり呼ぶのにはかなり勇気が必要だ。先輩から視線を逸らせつつ、浅く息を吐いてから口に出した。


「た、貴大・・・先輩」
「んー・・・先輩はナシで」


なのに、首を横に振られてダメ出しをされた。
自分なりの精一杯だっただけに、途方に暮れる。

先輩は無しって・・・呼び捨てで呼べっていう事だよね。そんなの絶対無理っ!先輩は年上だし、そもそも男の人を呼び捨てで呼んだ事なんてない。

貴大・・・って、想像するだけでこんなに恥ずかしいんだから無理だよ。
他の呼び方だと・・・貴大さん、は余所余所しいかな?貴大くん、だとちょっと噛みそうだし。


「タカくん」
「え?」
「タカくんって呼んでもいいですか?」


これなら呼べそうかもと思って呼んでみたけど、さっきまでは面白そうに私を眺めていた先輩の表情が酷く驚いたものに変わって、「うわー・・・」と唸りながら足の上に組んだ腕に突っ伏してしまった。

やっぱりダメ、だったんだろうか。


「いいけど、他のヤツの前で呼ばないでね」
「嫌だったら止めますけど・・・」
「違くて…そんな風に呼ばれた事ないからメッチャ恥ずかしい」


そのままの体勢でボソッと言う先輩の、切り揃えられた髪の毛から覗く耳が赤く染まっているのが見えた。
照れた先輩を見るのは初めてで、いつもやられっぱなしだったから何だか嬉しくなって思わず笑ってしまう。


「こら、笑うな」


グッと手を引かれて、強制的に先輩の足の上へと載せられる。


「ちょ、せんぱ…タカくんっ!」
「はいはい」


私の抵抗は簡単にあしらわれ、先輩の大きな手が頭の後ろに回った。
それだけでこの後何をするか簡単に理解できて、次の言葉が出てこない。


「ホント、葵かわいすぎ」
「んっ…」


しっとりと重なった唇。
キスは何回かしたけれど未だに慣れなくて、息をするタイミングも分からない。
今までしたキスよりも長いかも…そう思った時下唇をちゅっと吸われ、それに驚いて息を吸った瞬間、先輩の舌がするりと入り込んできた。

初めての事にどうしていいか分からなくなり先輩の肩に置いている手に力が入る。そんな私を落ち着かせるようにゆっくりと頭を撫でてくれる先輩。ドキドキしながら、奥に引っ込めていた舌を差し出すと、クチュリと絡まった。

ただただ先輩の行為を受け入れるしかない私。
心臓は壊れそうなくらい脈うっていて、先輩にまで鼓動が届いてしまいそうなくらいだ。

ちゅっと音を立てて唇が離れていったけど、恥ずかしくて先輩の顔が見れない。いつもはそんな事出来ないけど、今ばかりは先輩の首に腕を回してギュッと抱きついた。


「おっ」
「好き…大好き」
「俺も好きだよ」



大好きな先輩。

これから、好きじゃ足りない気持ちとか。
ドロドロした黒い感情とか。
握りつぶされるような胸の痛みとか。
綺麗ばかりじゃなくて、汚い感情も沢山経験するんだろうと思う。

今まで感じた事のなかった・・・好きだからこそ、感じるキモチ。

でも、そういう気持ちは全部先輩で経験したい。
先輩に・・・教えてほしい。

ねぇ、先輩。

大好きなその笑顔で、その指先で。
ぜんぶ教えてくださいね。



fin.


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これにて本編終了です!読んで頂いてありがとうございました。
綿菓子みたいな甘さを目指して書いたお話、ふわふわ、ほのぼの甘的な。
それが伝わっていたら嬉しいです!

ただ・・・タイトルがタイトルなので、まだ全部ではないし。。
番外編に続きます。


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