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ぜんぶ先輩がおしえて 04


「ごちそうさまでした」
「誘ったの俺だし。一緒に来てくれてありがとな」


ケーキ屋を後にして、再び並んで歩き出す。
お会計の時に一悶着あったけれど、結局言いくるめられてご馳走になってしまった。


「すっごく美味しかったです」
「だろ?特にあそこはシュークリームが絶品なんだよ」
「この前から思ってましたけど、花巻先輩シュークリーム好きなんですか?」
「おう。めっちゃ好き!…っと危ねぇ」


満面の笑みで答えてくれた先輩に見惚れていたら、グッと腕を力強く引かれて先輩の方へと引き寄せられた。
腕から伝わる先輩の手の温かさと、近寄った事で感じる温もりと匂い。キュッと心臓が音を立てた時、ものすごいマフラー音を響かせながら一台の車が横を通りすぎていった。


「こんな狭い道でスピード出すなよなー」
「あ、すみません。ありがとうございます」
「いえいえ。こちらこそ気が利かなくてすみません」


私の真似のつもりなのか敬語でそう言う先輩に、キュンとしてしまう。
スッと場所を入れ替えて車道側を歩いてくれる先輩。なんなのもう…カッコ良すぎなんですけど。


「1、2年ってさー、及川のファン多いよな」
「そうですね。友達にも及川先輩好きな子沢山いますよ」
「でもアイツ3年にはあんま人気ないんだよ。なんでか分かる?」


ククッと笑う先輩は何かを思い出しているような感じだ。及川先輩が3年生に人気ないって事すら今初めて知ったのに、理由なんて分かるはずがない。必死で考えて何とか絞り出した答えは及川先輩に対して失礼なもので、口に出す事に躊躇してしまった。


「ん?」


それでも、花巻先輩に優しく促されたら話してしまうしか選択肢がない。


「女グセが悪い…とかですか?」
「ふはっ、葵ちゃんにはそう見えてるんだ」
「いえっ、ち、違います。えっと・・・彼女いるって噂をよく聞くので」


そう。及川先輩のファンの子が良く嘆いているのを耳にする。何組の誰と付き合っただとか、別れたから今がチャンスだとか・・・。一体どこからそういう情報を掴んでくるんだろうといつも不思議に思っていた。


「まぁ、確かに。でもすぐ振られちゃうんだよ」
「そうなんですか?」


振るほうじゃなくて振られるほうなんだ。でも、大抵女子から告白していると思うんだけど・・・。勇気を出して告白して付き合ったのに、そんなにすぐに振ってしまうものなんだろうか。


「及川に限った話じゃないんだけど。ほら、俺らってバレー漬けじゃん?」
「はい」
「理想と現実っていうの?付き合えば毎日楽しそうに見えるけど、皆バレー馬鹿だし実際は土日も練習でロクにデートも出来ないし」
「あぁ…なるほど」


折角付き合えたのに思ったようにいかないからって事?
確かにそれだったら毎日を遊んで楽しく過ごしたいような子は無理かもしれない。でも、私にはよく分からないなぁ。

隣を歩く花巻先輩をチラっと見やる。もし、先輩と付き合えたら・・・とてもじゃないけどそんな理由で別れを切り出すなんて考えられない。本気で好きだったら相手の都合を考えるべきだし、多少会えなくても我慢出来る。学校で会う事だって出来るし…まぁ、電話やメールはしちゃうかもしれないけどね。


「3年間で現実を見続けた結果?あと同級生の女がよく言っているのは、及川って黙っていればカッコいいのに喋ると残念なんだってさ」


思い出したように笑いだす花巻先輩に釣られて私もクスッと笑ってしまった。
「後輩はまだ分かってないからなー。友達としては面白いしイイ奴なんだけど」と、呟く花巻先輩は本当に残念そうな口ぶりだったから余計に笑える。


「でもさ、岩泉とか松川は部活があるって同じ条件なのに彼女と続いてるんだよ。スゲーよな」


うんうん、と相槌を先輩に返す。
岩泉先輩と松川先輩に彼女がいるのは有名な話で、私がバレー部を見学に行き始めた時にはもう付き合っていたはず。知っている期間だけで1年以上だから、実際にはもっと長く付き合っているんだろうし・・・凄いな。と、ここまで考えてふと思った。

花巻先輩はどうなんだろう。
他の先輩たちの事ばかりで、花巻先輩自身はどうなのか・・・。花巻先輩に彼女が出来たって言う話は聞いた事ないけど、モテないはずがないし告白されても断っているのかな。
及川先輩には及ばないとしても、花巻先輩の事を好きな人だって私以外に結構いるはず。試合中、女の子の声援も花巻先輩に向けて沢山飛んでいるし。


「葵ちゃんは?」
「へ?」
「部活ばっかりで会えないのとか、どう思う?」


花巻先輩のことを考えていた真っ最中に話を振られた所為で変な声が漏れてしまった。
いきなりだったから中々上手く言葉が出てこない。


「えっと…私、付き合ったことが無いので想像でしか言えないんですけど」
「えっ!?」


恥ずかしながらも前置きでそう言ったら、そんなに驚かなくてもっていうくらい花巻先輩は驚いていて。咄嗟に出た声だから仕方ないとしても、声の大きさに私まで吃驚して肩が大袈裟に跳ねてしまった。


「あ、悪い。意外すぎて驚いた」
「そうですか?でも私、付き合うなら本気で好きになった人がいいです」


口に出してからハッとする。しまった、私が花巻先輩を好きなのってバレてるんだっけ。あれ?バレてないんだっけ?いや…どっちにしてもこのまま好きな人の話題に話が変わったら非常に困る。


「えっと、付き合っても中々会えない事についてですよね」


だから慌てて話を戻そうとさっき考えていた事をそのまま口にする。
「へぇ・・・」と先輩は結構興味深そうに聞いてくれたけど、ちょっと恥ずかしくなってきた。何しろ、花巻先輩相手っていう前提で考えていたから。


「電話とかメールも毎日しなかったら怒ったりする?」
「うーん・・・別に怒ったりはしないと思います。忙しいって分かってるなら尚更」


例えばバレーの休憩中とか
張り詰めていた気が解けた瞬間とか
日常のちょっとした時とか

会えなくても、電話が出来なくても。
ちょっとした時に彼の頭の中に登場する事が出来ればそれだけで幸せなのかもしれない。
そんな毎日を想像をするだけで顔がニヤけてしまって、不自然にならないように手で口を隠す。

トンッと、頭の上に何かを感じて先輩の方を見ると、凄く優しい顔で笑いながら私の頭を撫でてくれていて。初めて見るその表情と手の感触に、心臓が壊れちゃうかと思うくらいギュッとなった。


「そんなに物分りがいいと浮気されるかもしれねーよ?」
「えっ!?それはダメです!一途でお願いします」


そんな優しい表情を浮かべているのに先輩の口から出るのは意地悪な言葉。
私も相手は先輩で考えていた所為で、つい先輩に対してお願いするような口ぶりになってしまった。


「っはは!俺は浮気しないけどね」
「・・・うぅ」


どこまで分かっていてそんな台詞を言うのか・・・全て、お見通しなんだろうか。
もう何て返せば分からなくなってしまって、赤くなってしまった顔を隠すように俯いた。


「俺、葵ちゃんの考え方・・・価値観ってヤツ?好きだわ」


不意にそんな事を言われて内心で舞い上がった。
内容は何にせよ好き、だなんて・・・嬉しすぎる。

ねぇ先輩、これ以上好きにさせないで下さい。


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何気ない言葉で翻弄してくる花巻先輩です。
さて、ちょっとずつ動いてくるかな。


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