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ぜんぶ先輩がおしえて 03

「うぅ〜どうしよう」


携帯の画面を見つめながらそう呟く。
今日は月曜日。そう…先輩と約束した日だ。

誘われた時に言われるがままに連絡先を交換して、今日まで些細なやり取りを交わしていた。とてもじゃないけど私から連絡をするなんて出来なくて、でも連絡先を交換出来たことに非常に満足していたその夜。

トーク画面の新着メッセージを確認した時表示されていた名前に飛び上がるくらい驚いた。花巻先輩から連絡がくるなんて全く想定していなかったから、返信する指が思うように動いてくれなくて。今日まで何度かやり取りを交わすうちに、漸く少し慣れてきて先輩が設定しているアイコンも見慣れてきた。
まだまだ何を返すべきか悩むけれど、最初に比べたら全然マシだと思う。なのに、どうして今更になって頭を抱える状況にあるのかというと…ついさっき受信した一文。


【言ってなかったけど、今日のはデートだからね】


スタンプと共に送られてきたソレに困惑の声が知らずと漏れてしまった。

デート…その単語があるのと無いのでは心構えが全然違うんじゃないだろうか。
少なくとも私は今日のお出掛けはただ先輩に付き合うだけだと思っていた。デートだって分かっていたら、昨日お母さんの高いトリートメントとかスキンケア用品とか使わせてもらったのに!


【授業終わったら昇降口集合でよろしく】


デート…デート…とそればかり考えていたら、続けざまにそう受信したので慌てて【了解です!】と可愛くない返信をした。
全く経験値が無いとこういう時になんて返せば良いのか分からないから困ってしまう。
他の女の子だったら、もっと可愛い言葉で返せるんだろうな…。

何と無く落ち込みながらも、午後の授業は全く身が入らずにあっという間に放課後を迎えてしまった。




「はぁっ…お待たせしました!」
「おー。焦らなくてもいいのに」
「いや、そんな訳には…」


今日に限って担任の話が止まらなくてHRが長引いてしまった。
飛び出すように教室を後にしたけど、予想通り先輩はもう待っていて、慌てて靴を履き替えて先輩のところへ向かう。

壁に背を預けて立っているその姿が凄く絵になっていて、待ち合わせてるのが自分じゃなければ是非ともじっくりと影から見ていたかったのが本音だけれど。


「先生の話が今日は長くて…」
「マジか。担任ダレ?」
「小林先生です」
「あー、コバな。俺も去年担任だったわ。相変わらず話長ぇんだな」


他愛も無い話をしながら先輩と連れ立って歩く。
何を話せばいいか思いつかなかったから、沈黙が続いたらどうしようなんて思っていたけど、杞憂に終わって良かった。

初めて隣に並んで歩くことで、改めて感じる先輩の存在。触れ合っていないのに先輩のいる右側だけやけに熱い気がして。私の右半身は変に緊張してぎこちない。
身長差もあって、その表情を見ることすら容易では無く、首を斜め上に上げてチラチラとその横顔を伺った。


「あの、先輩。今日はどこに行くんですか?」
「んー…イイトコ。何処だと思う?」


ニヤリ、と形容できそうな笑みを浮かべてそう聞いてくる先輩に、緊張で働かない頭を必死で回して考える。良いところって何だ?ゲーセン…とかは違うだろうし、コンビニ…なわけ無い。何かご褒美みたいな?あっ、そうだ!


「ケーキ屋さんとかですかね?」


手にしていたシュークリーム。
先輩のアイコンに設定されていた洋菓子。

甘党な先輩なら、良いところ=ケーキ屋って考えてもおかしくないんじゃない?そう思って口にしたけど、先輩はピタッと足を止めて驚いたような表情を浮かべていた。


「・・・どうかしましたか?」
「いや、まさか当てられるとは思わなかった」


再び歩き出しながら若干悔しそうに言う先輩が何だか可愛くて、思わずふふっと笑ってしまう。

当てれた事も嬉しかったけど、先輩のこんな表情が見れるなんて・・・。嬉しすぎて顔が緩々にならないように表情筋をしっかりと締めておかないと。


「葵ちゃんは甘いの好き?」
「はい!食べるのも作るのも好きです。好きすぎてバイトしてます」
「え?そうなの?」
「駅前にあるケーキ屋なんですけど。新作出す時とか試食させてもらえるから役得なんですよ」


オーナーは、余ったら次の日お店に出すことは出来ないから持って帰ってもいいよって言ってくれるくらい良い人だし。ただ、バイトを始めてから3キロくらい太ってしまったから・・・そこだけは気をつけないといけないけど。
先輩と違って運動もしていないし、摂取した分を消費するのにとてつもない努力を強いられるからなぁ。


「スゲーなそれ。羨ましい」
「甘党には堪らないですよね!最近他のところのケーキ食べてないし楽しみです」
「そりゃ良かった」


お互い甘党という事もあってケーキ談義に花が咲く。いつもは通らない道を通って、一本裏に入ると赤と白の可愛いお店が目に入った。
「ココね」花巻先輩が指で示したのはその可愛いお店で。先輩の前だというのについ何時もの感じではしゃいでしまった。


「こんなところにあるなんて知らなかったです!お店可愛いっ」
「ここ、結構ウマいよ」


先輩が言うならきっとそうなんだろう。
期待値もグンとあがって、チリンと鈴の音を鳴らしながらお店の中へ一歩踏み入れると甘い匂いが鼻腔を擽る。
ショーケースには色とりどりのケーキが綺麗に並んでいて視覚が刺激され、焼菓子もつい手に取ってしまいそうなくらい誘惑してくる。

隣のスペースにはテーブルがいくつかあってイートインも出来るようになっているらしい。ここで食べて行こうってことでいいんだよね?


「葵ちゃんどれにする?」
「えっと…無花果のタルトにします」


どれも素敵で目移りしてしまったけど、季節のタルトがキラキラと輝いて見えたのでそれを選んだ。無花果って、こういう所じゃないと食べないし。だって家でデザートに出た事とかないしね。


「おっけ」


先輩が自分のものと一緒に注文してくれて、席に着いて運ばれてくるのを待った。


「こういうトコって、男だけだと来にくいんだよなー。一人だと持ち帰るんだけどネ」
「わ、私でよかったんですか?」
「葵ちゃんだからいいんだって」


シレッと恥ずかし気もなく言われた言葉は、どう捉えたら正解なんだろうか。花巻先輩は私の気持ちは知ってるはず。なのにそんな風に言われたらどうしたって期待しちゃうよ。


「でも、花巻先輩って男女問わず友達いっぱいいるイメージですけど」


ヘラリと下手くそな笑顔を浮かべてまた可愛くない事を言ってしまった。
こんなの、暗に私じゃなくても一緒に行く人は他にいくらでもいるのにって言ったようなものだ。


「あー…うん。間違っちゃいないけど、学校の外で過ごしたいって思える女友達はいないかな」
「え?」
「葵ちゃんだから誘ったんだって、ホントに」


さっきと同じ言葉。だけど、試合の時に見せるような真剣な表情で言われたら、もう疑うことなんて出来ない。

無花果の果肉に負けないくらい赤く染まった顔で「ありがとう、ございます」とぎこちなくお礼を言うのが精一杯だった。


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もう、昇降口で壁に背を預けてる花巻〜のくだり。
良くないですか?凄く絵になりますよね!!
壁チラでずっと見ていたいと思ってるのは私です。


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