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嘘から始めた真実 08

9月1日 始業式

今日はいつもよりも念入りに髪をとかし、普段はしない色付きリップを塗り、お気に入りの靴下をはいた。

お肌も昨晩こっそり母の化粧水を拝借したしプルプル。今は何度も見たはずの眉をチェック中だ。だが、なにも始業式だからこんなにも張り切っているわけではない。


「明日は朝練ないし・・・迎えに行く」


研磨くんから言われたその一言で憂鬱になるはずの始業式が楽しみへと変わったのだ。
恋する乙女は単純。それが今まで悩んでいた偽りの関係じゃなくなったのだから尚更だ。




昨日、あのまましばらく2人で手をつないだまま小川を見つめていた。
水の音と穏やかな時の流れが私の焦っていた気持ちや、研磨くんの少し怒ったような態度をゆっくりと浄化してくれた。そんな時


「はぁ・・・ごめん」


ずっと無言だった研磨くんが急に謝ったのだ。
私は何のことか分らず首をかしげると、研磨くんはちょっと困ったような顔を浮かべていた。


「最近イラついて態度悪かったなって」


ココにも無理やり連れてきたしと、始終不安げな顔のままこちらを伺っている。
その顔が可愛いとか思ったけども、イラついてという単語でそれどころじゃなくなった。


「むしろ私の方こそ何か怒らせるようなことしたみたいでごめん!!」


何か怒らせてって怒ってる人に言っちゃうと余計に苛立たせるような気もするが心当たりがないので仕方がない。
結構前から研磨くんの元気がない原因が私だったかと思うと涙が出そうだ。そんな私に研磨くんはふっと笑った。


「まぁ、自覚があってやってたら困るんだけどね」
「・・え?」


何のこと?
そう聞き返そうと思ったが、なにやら真っ赤な顔をしてそっぽを向く研磨くんに、言葉が続かなかった。


「・・・・彼氏の前で他の男と仲良くし過ぎ」


あと触られ過ぎと付け足された言葉はちゃんと聞こえていたけれども呑み込めなくて。
今言われた言葉が何だったかを口に出して反復してしまう。


「彼氏の前で・・?他の男と・・・?え?彼氏の前で・・・?」
「・・・何度も口に出して言われると恥ずかしいんだけど」


そう言ってこっちを向いた研磨くんはやっぱり真っ赤な顔のままで。
ただ、いつものように目線を外したりせずにしっかりこちらを見ている。


「え?・・だって・・・彼氏さんは嘘で…話合わせてくれてるだけで…え?」


状況が理解できずに疑問符を受べ続ける私を自分へと向かせる研磨くん。
その顔は赤いけど不安とか困った表情はなく、むしろとても力強い目をしている。やっぱり私は研磨くんのその目に弱くて、疑問すら受べられずただただ見つめ返した。


「嘘とかじゃなくて・・・ちゃんと葵の彼氏になりたいんだけど」


真正面から放たれた言葉はまさかと思ったけども私が夢にまで見た言葉で、思わずその場で頬をつねる。


「・・・痛い」
「だろうね。・・・・夢でも嘘でもなくて現実だから」
「…現実?」


今こうやって研磨くんが目の前にいて、私の彼氏になりたいって言ってくれたのが現実?
やっぱりまだ夢見心地でどこかふわふわしている。
でも目の前の研磨くんは真剣で、しっかりと私を見たままだ。


「そう。だから葵の気持ちも聞かせてくれると嬉しいんだけど…」
「私の気持ち・・?」


私の気持ちは考えるまでもない。
だって夏休み入る前からずっとずっとそうなればいいなって想っていたから。


「私は研磨くんが好き・・です」


いざ初めて口に出した好きって単語に、自分で言ったのにもかかわらず心臓がドクンと大きく脈打つ。


研磨くんの雰囲気が好き 
一緒にゲームできることも 無言でも心地よいとこも
困ったときの可愛い顔も
ちょっとやる気のない声も 温かい手も 力強い眼も

みんな好き

あれ?私、思ってる以上に研磨くんが好きなんだ。
そう自覚したところで私をまっすぐ見つめていた力強い目が消え、研磨くんがゆっくりと崩れ落ちた。


「え?!どうしたの!?」
「・・あ・・うん。・・・ちょっと言い過ぎ。嬉しいけど」


さっきよりもさらに顔を・・いや、全身を真っ赤にさせている研磨くんが可愛い。

でも言い過ぎって何が?って聞いたら「無自覚なの?全部漏れてるよ」って言われて今度は私が全身を真っ赤にさせた。それは恥ずかしすぎる

あふれだす好意を至近距離で見つめたまま言われたのだから、それは居た堪れないよね!
私も居た堪れない!!本当に言うつもりなくあふれ出てしまっただけだからね!
お互い全身真っ赤のまま照れ合って、それがおかしくてどちらからともなく笑い出した。


「あー笑ったー!疲れたー!」
「うん・・・ホント疲れた。でも・・・よかった」


そういって向けられた目は力強いものじゃなく、とっても優しい目で。


「ねぇ・・・好きだよ」


研磨くんから初めて言われて好きって言葉に、私もって返して照れた。
さっきからひたすら照れてる気がするよ。


「ん・・・やっとちゃんと触れる」


研磨くんの手が優しくほほに触れた後、ゆっくりと重なった唇。
とっても優しいキスにそっと目を閉じて、偽りから始まった恋が真実になった。






「っっっっっ/////////」


昨日の出来事を思い出してしまい眉毛を整えるために見ていた鏡を机に伏せる。
やばいよーー!普通にできる自信がないよ――!!

当人たちにしたらほやほやカップルだが、周りから見れば今まで通りのカップル。この浮かれた気持を抑えないと怪しすぎると分っているものの、勝手に顔が笑ってしまう。


チャラララッチャラ〜ン♪
怪しい人状態の時に聞こえたのは、昨日個別設定した研磨くん専用のメール着信音。


【おはよ、もうすぐ着く】


相変わらず絵文字などもない用件のみのメールだけど、それすらも保存したくなる嬉しさ。
きっと研磨くんはここまで浮かれてないんだろうな。
今一度、姿見の前で全身チェックをしてから足取り軽やかに玄関へと向かう。ローファーも昨日のうちに磨いておいたのでピカピカだ。

元気良く「行ってきまーす」と叫んで玄関を出れば、親から「気を付けて行きなさいよー」って声が飛んでくる。いつもは言わないのに、今日はそんなに危なっかしく見えたのか・・・

やっぱり浮足立ち過ぎかな?

もう少し落ち着かないとと反省したのもつかの間、門を出て近くに研磨くんを見つけてしまえば落ち着くなんてできず。
おはよって小さく手を上げる研磨くんにぞわぞわっと嬉しさが全身を駆け巡った。


「おはよ!」


私も小さく手を上げて挨拶すれば、研磨くんがちょっとはにかんだ笑みをしてくれる。
それだけで朝から幸せすぎる。
しかもなんだか研磨くんもいつもより髪がサラサラだし、シャツがパリってしてる気がする。

そう言ってみれば


「まぁ・・・それなりに。葵も同じ理由だと思うけど」


なんてしっかり私の変化にも気づいてくれていて。本当によく観察してるよねって聞いたら葵の事だからねって返って来てやっぱり照れた。

こんなに見た目草食系な研磨くんが実は男らしいなんて私しか知らないんだろうな。

これからもきっとドキドキさせられることだろう。

私も研磨くんをドキドキさせられたらいいな。

もう会話はいつも通りゲームや部活の話だけど、確実にいつもと違う雰囲気に心が躍る。


研磨くんの彼女(嘘)が 研磨くんの彼女 になった朝

澄み渡る青い空の下2人肩を並べて歩いた。

これから受験やら部活やらでお互い忙しくなるだろうけど、たまにでもいいから今日みたいな日があることを願って。


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ついに嘘が本当になりました!
私の中の研磨くんはロールキャベツ男子ですww
淡々と攻めてくる感じね。
最後におまけの話も書ければと思っています


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