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ぜんぶ先輩がおしえて 02

放課後――。

未だに昼休みの興奮が治まらないまま、体育館へと足を運ぶ。
自販機で買ったミルクティーを片手に練習の邪魔にならないようギャラリーに上がって、隅の方の柵へと凭れかかった。ここが私が見学する時の定位置だ。

ライトからスパイクを打つ花巻先輩が一番カッコよく見える場所。
しばらく教室で時間を潰してから来た所為か、既に練習は試合形式のものへと移行していた。


「凄いなぁ」


久しぶりに見る先輩たちはやっぱり輝いて見えて。声を出してボールを追う姿に目が離せない。
その中でも花巻先輩のプレーを見逃さないように必死に目で追っていると、不意に先輩がこちらを見た・・・気がする。

この距離だしきっと錯覚。練習中だし、そんな訳ない。
その可能性を打ち消すように色々考えるけど、目が合ったように感じるのが三回を超えた時、もしかして・・・という思いが生まれた。

それは間違いでは無かったようで、休憩の合図が掛かった時に先輩が私に向かって軽く手を上げてくれたのだ。

両手を上げて飛び上がりたいくらい嬉しくて。でも実際にそんな事をしたらどうしたの?ってなる。だからペコって頭を下げるくらいしか出来なかった。


「…どうしよう」


誰にも聞こえないくらいの声量でポツリと呟く。
昨日までは存在すら知られてなかったのに、今日は声を掛けられて挨拶まで交わせるなんて信じられない。こんなに良い事ばかり起こるなんて夢なのか・・・それとも明日にはとてつもなく悪い事でも起きるんじゃないだろうか。
そんな思いを抱えながらも、久しぶりのバレー部の練習、プレーする先輩の姿を最後まで堪能した。

流石に自主練に差し掛かった時には帰宅しようとギャラリーから降りて、体育館を後にしようと足を進めたその時。


「葵ちゃん」
「っ!」


背後から掛かった声に振り向くと、そこにはさっきまで穴が開くんじゃないかっていうくらいに見つめていた花巻先輩の姿。その隣には松川先輩も居て、いつも遠くから見ているだけの光景が目の前にある事に心臓がドキドキと忙しなく脈を打ち始めた。


「どうだった?今日の俺」
「は、はい!とっても素敵でした!」


素直にそう口にすると、キョトンとした後にブフッと吹き出すように笑われる。
感想を求められたから思った事を言っただけなのに・・・もっとこう、オブラートに包んだほうがよかったんだろうか。

尚も肩を揺らしながら笑い続ける先輩にいよいよどうすればいいか分からなくなってくる。


「おい、花巻。困ってるぞ」
「あー・・・ごめんごめん。こんなに真っ直ぐに褒められると思ってなかったから」
「この子知り合い?」
「んー。今日矢巾がシュークリームくれるっていうから貰いに行った時に居た子」


あぁ・・・あの手にしていたシュークリームは矢巾くんに貰ったのか。それで2年の教室に居たんだ。
甘いの好きなのかな?先輩とシュークリームってイコールで結びつかないけど・・・。何だか可愛いかもしれない。そう思って自然に口許が緩んでしまった。


「へぇ。って事は2年か」
「そうそう。スゲー素直で可愛くね?」
「またお前は…」
「違うって!ちょっと葵ちゃん、今日の松川はどうだった?」


花巻先輩に可愛いって言われて密かにガッツポーズで喜んでいた時にそんなことを聞かれる。
基本的に花巻先輩ばかり見ていたけど、もちろん他の先輩達も目には入っていたわけで。見て思ったことを率直に口に出した。


「そうですね…今日のブロック冴えてて凄かったです」
「お、ありがと」
「やっぱり攻撃の要はスパイクですけど、スパイクはトスが合わないと上手く出来ないし、トスはレシーブから。レシーブはブロックのワンチが有るのと無いのでは全然違うし。そうすると、一連の攻撃の始まりは松川先輩のブロックのおかげなんだなって思いました!」


話している内に段々と熱が入ってきて、最後には両手を拳にして胸の前でグッと握っていた。
まさにお昼の二の舞…。いや、今度は本人を目の前に語ってしまったから余計に酷いかもしれない。


「おい…花」
「ん?」
「スゲーいい子じゃん」
「だろ?可愛いよな」


なのに、そんな私を茶化す訳でもなく褒めてくれた先輩はとっても良い人だ。やっぱり今日部活見に来て良かったな。
明日からはバイトが続いちゃうからまた暫く見にこれなくなっちゃうのが残念。でも、今日たっぷり目に焼き付けといたから回想で乗り切れるっ!


「なぁ、葵ちゃん」
「はい?」


花巻先輩はシュルッとボールを手の中で回した後、私に向かってそのボールをふわっと優しく投げてきた。反射的に両手で受け取ってしまってからハッと気づく。
しまった…これはもしやレシーブで返せっていう暗黙のパスだったのかもしれない。何の面白みも無く普通にキャッチしてしまった自分を心の中で叱咤しながら、二歩分の距離を詰めて先輩にそのボールを渡した。


「月曜日ヒマ?」


その言葉と同時に手首に感じる温もり。
ボールは手の中から消えたけど、代わりに先輩の手が私の手首を掴んでいるという事実を理解するのにもの凄く時間を要した。


「…葵ちゃん?」
「あっ、はい…えっと月曜日、ひっ暇です」


さっきまで動いていたからか、熱すぎるくらいの先輩の手に動揺して上手く言葉が発せない。
男の人と付き合った事がない私は、こういう温もりに免疫もなくて。恥ずかしくて、嬉しくて、どうして良いか分からなくて。手首を掴まれているせいで、きっと赤く染まってしまったであろう顔を隠すことも出来ずに、おずおずと先輩の方を見た。


「じゃあさ、月曜日俺に付き合ってよ」
「おい、花巻。あんまり強引なのはどうかと思うぞ」
「松川、ちょっと黙ってて」
「はぁ…葵ちゃんだっけ、ごめんね。コイツ言い出したら聞かないから」


片手を上げて謝罪のポーズをとった松川先輩は、そのまま自主練をしている他の先輩のところへと行ってしまった。
必然的にこの場には私と花巻先輩だけになる。


「えっと、私…ですか?」
「うん。ダメ?」


好きな人に首を傾げながらダメ?なんて言われて断れる人がいるだろうか。
今まで女の武器だとばかり思っていたけど、これは男女ともに通じるのね。


「私、でよければ…」
「マジで?サンキュ!」


その後少し話してから花巻先輩は「じゃあ、気をつけて帰れな」と言い残して自主練へと向かって行ったけど。
サンキュって言った時のクシャって笑った顔が心臓に凄く大きな矢をぶっ刺してくれたおかげで…最後の方は何を話したか良く覚えていなかった。


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花巻と言ったら松川、的な。
松つんも大好きなんですけど、彼は掴みどころがないので・・・
花巻との会話もこんな感じかなーって書いてました。
でも好きなんですよ?笑)


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