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花の木ならぬは 07

「きゃーー!! すごーーい!!」


ボーリングの玉がピンを倒す子気味いい音を響かせた直後、わぁっと黄色い歓声が響く。スコアに3連続で蝶々マークを付けた太刀川さんがドヤ顔でハイタッチをしているのを少し離れたところから見ていた。
スコアの加算基準すらわからず「要は全部倒せばいいんだろ」なんてバカみたいな初心者発言をしていた人とは思えない成績だ。ゲームを重ねる毎に驚くほど成長している。ぶっ続けで四ゲーム目に突入しているんだから疲れが出るのが普通だと思うのだが……まだまだはしゃげているみんなは賞賛に値するよ、ほんと。

米屋くんがさすがに他校だけでは無理だからと同級生以外に声をかけてくれて、何度か合コンとまでいかないながらも一緒に遊ぶ機会を作ってもらった。
学生らしくもっぱらボーリングやらカラオケやらゲーセンばかりだけど、面白い人が多くて毎回楽しい時間を過ごしている。既に何度かお会いしている人とは遊び仲間って感じになっていてすっかり友達気取りで、北添先輩なんて会った初日から皆してゾエさん呼びになるほど仲良くさせてもらっている。おかげで学校で会う時も話しかけやすい。ちょっと怖い影浦先輩が一緒じゃない時だけだけど。
まぁ、予想通りみんな本気で恋人を作ろうと思っていないのか、いい友達が増えていくだけに終わっているけれど。楽しいからいいか。
恋をしそうにもない友人たちを眺めていたら、私の視線に気付いたのか一人の男子と目が合ってしまった。


「高宮ちゃん休憩できた? 次は一緒にやるよ」
「あ、はい。大丈夫です」


にっこりと笑みを浮かべてわざわざ声を掛けに来てくれた犬飼さんは、学校も違うし、今日初めてお会いした人だ。かなりカッコイイなと思える人で、フレンドリーで誰とでも気兼ねなく会話していて感心してしまう。
それなのに、ドキドキしたり恋しそうだなとは思えない自分が不思議だ。もう出水くんを見ても胸を痛めることもなくなったというのに。恋愛に臆病になっているのだろうか。


「他の休憩組にも次は強制参加だって言っておいて」


よろしくと含みのある笑みと共に追加の伝言を耳打ちされ、反射的に飛び退いてしまった。驚いたからといえ過剰反応が恥ずかしい。犬飼さんは特に気にすることもなくハハッと軽く笑ってゲームに戻っていった。女の人に慣れているようだ。
もう少し勘違いしてドキドキしても良さそうなのにと自分自身に突っ込みながら、特別な感情を抱くことなく自動販売機横のベンチでダラダラしている休憩組二人へと声をかける。


「米屋くん、当真先輩、次は強制参加ですって」


相変わらずなにか飲んでる米屋くんと、大きな体を横にしてベンチを独占してる当真先輩に犬飼さんからの伝言を伝える。うへぇとやる気ない返事を返す当真先輩は不良っぽい見かけによらず体力も筋力も無いようで、二ゲーム目の途中から既にバテていた。まだ回復できていないのだろう。


「は〜、俺は遠慮してーな」


米屋くんはどっちでもよさそうだけど、犬飼さんの予想通り当真先輩は動く様子がない。そんな時の為にと預かっていた伝言を思い返す。


「えっと、太刀川さんからの伝言で、文句があるヤツは個人戦で聞く、だそうです」
「はぁ? ふざけんなよ。結局太刀川さんが楽しいだけじゃねぇか」
「マジか! オレはただ太刀川さんとやりてぇ」


うなだれる当真先輩と、嬉々としてやる気を出した米屋くんの二人の差に思わず笑いがこぼれる。個人戦が何のことかは分からないけれど、きっと米屋くんは好きな事なんだろう。渋る当真先輩を引っ張ってみんなの元へ向かえば、一足先に向かっていた米屋くんがすでに太刀川さんと約束を取り付けたようで二人して挑発的な笑みを浮かべていた。まるでやんちゃ坊主の様な二人を生暖かい目で見ていたら、またもや犬飼さんと目が合ってしまい、微笑まれる。そのまま視線を逸らすのはなんとなく気まずくて手を振ってみたら、さらに笑われてしまった。イケメンの笑顔ってすごい絵になるな〜なんて、恋愛脳にならない自分がつくづく不思議だ。そういえば米屋くんは恋愛脳になれるのだろうかという疑問が湧いて米屋くんを見てみたけれど、彼とは視線が合うことはなかった。




「「「お疲れ様でした〜」」」 「「「「またねー」」」」


散々遊び倒し、みんなして腕が上がらないと言いながら解散した。疲労度が凄すぎて、これからボーダーの基地に向かうという人たちを心配したが、よくわからないけれど問題はないらしい。そして残りの人達も疲れているはずなのに毎回女性陣をちゃんと送ってくれるのだから紳士的だ。顔馴染みが増えてきたせいか送る人が固定されてきているが、幹事同士だからなのかもっぱら私を送ってくれるのは米屋くんなので毎度申し訳ない気持ちになる。


「毎度すみませんねぇ。他の女子と仲良くなる機会を奪ってしまって」
「別にいいんじゃね? 他の女子っつったって、オレは真新しくもなんともねーし」
「確かに。それはそれでごめんだわ」


こちらばかり出会いの機会を作ってもらっておいて、米屋くんは見知った顔しかいないのだから今更どうこうなるはずもない。盲点だった。こちらはボーダーの男性だけでなく、ボーダーの女性陣も紹介してもらってどんどん友達が増えているというのに。


「今度他校の友達でも紹介しようか?」
「あー、まぁ気が向けばな。いまはみんなでバカやってんのが楽しいし?」
「それねー。やっぱ米屋くんも恋愛脳にならない感じか」


お互いに引きずっているわけでもないのに恋ができないようだ。
私は始め、ボーダーの人だからブレーキをかけているかとも思った。結衣みたいに連絡すら取れなくてヤキモキするのは嫌だから。だけど、ボーダー以外の人に目を向けてみても恋をすることはない。すでに無理に好きな人なんて作らなくてもいいかという気持ちになってきている。


「は〜、恋するって難しいね」


米屋くんに同意を求めるように呟いてみたけれど、米屋くんは聞いていなかったのか反応がない。気になって顔を覗き込めば何事もなかったかのようにどうしたと笑いかけてくれたけれど、漆黒の瞳は笑っていないような気がした。
何か怒らせる様なことをしただろうか。全く心当たりはない。
戸惑っている私を他所に、米屋くんはなんでもなかったようにさらりと別の話題を切り出だした。その口調は普段と変わらないもので余計に混乱してしまうけれど、どうかしたかと聞いてもはぐらかされるだけ。私の気のせいだったのかもしれないし、もう怒っている様子はないので私も気にしないで普段通り会話をすることにした。

だけど、その日を境に米屋くんからお誘いの連絡がぱたりとなくなってしまった。
他愛のないメールは返ってくるけれど、みんなで遊ばないのかと聞いても「もう出し尽くしたから後は勝手にどーぞ」と言われるだけ。みんなでバカをやっているのが楽しいと言っていたのに。
違和感は拭えないけれど、学校で偶然会っても至って普通の態度。結衣とも自然と会話をしているし、他のボーダー隊員の人たちとも仲良さげにはしゃいでいる。それが余計に切なく感じてしまう。
ただ私が気にし過ぎなだけなのだろうか。
そう思おうとしても、なぜだかずっと喉に骨が刺さったような違和感と痛みが消えることがなかった。


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