■ 3
「いってぇええええ! っちょ、ひでぇー……絶対切れた、血ぃ出たー」
江西は床に突っ伏して呻く。
卯城は何度かグイグイと布を押し込んで安定させると指を抜き、江西の尻をぱしんと叩いた。
「ほら、ちゃんと出来たぞ、尻尾」
「無理に突っ込んだだけじゃんかよー、なにが出来ただよー」
卯城は、ぐちぐちと呟く江西の尻を蹴る。
「パンいらねぇか?」
「いるー。いりますー。くださーい」
「じゃあ、尻尾やれよ」
「はいはいー」
江西は尻を上げて左右に振る。それにつられて垂れ下がった袖口がゆらゆらと揺れた。
「じゃあ次、とってこい」
卯城は開けてないメロンパンの袋を屋上の端の方に放り投げる。
それを見た江西は、立ち上がって走り、パンを拾って戻ってきて、卯城にひっぱたかれた。
「もってきたじゃんかー!!」
涙目の江西の手からパンを奪った卯城は、バカにしきった目で言った。
「犬が二本足で走るか? 手ぇ使って物もつか?」
「……あー……そっか」
「ほら、もういっかい」
また放り投げられたパンを、江西が追う。今度は両手両足をついて走る。そして口にパンを咥えて戻ってきたら、すぐさままたパンが投げられる。慌ててまた走り出す江西。
そして何往復したかわからなくなった頃、江西は薄っすら汗を浮かべて荒い息をついて言った。
「あのさ、これ、あと何回?」
「あー……もーいいや。飽きた」
その一言でぺたりとその場に座り込む。
「つかれたー……パン、まだ?」
「ああ、ほら」
今まで散々投げてぼろぼろになった袋をぽいっと江西の前に放る。すかさず江西が手を伸ばしかけて、はっとして卯城を見る。
卯城は一言。
「待て」
「うぁ、やっぱし」
がっくり首を落としつつ、お座りで待ての体勢になる江西。
じぃいっとパンを凝視する江西の傍ら、卯城は残り三つのメロンパンを黙々と平らげた。
江西が恨めしそうな視線を向けるが、卯城は視線を向けることもない。そしてパンをすべて食べ終わると、江西の前に置いていたメロンパンを拾い上げ、開けた。
期待の眼差しを向ける江西の前で、卯城はメロンパンを齧る。
「あーっ! それ! オレの!」
江西は思わず卯城に飛びついて、パンを持つ手にしがみつく。が、
「なにしやがんだっ、てめえっ」
卯城に腹を蹴られてあっけなく床に転がり、うずくまったまま情けない顔で卯城を見上げる。
「くれよー、ちゃんと待ってたじゃんかー、ウソツキっ、鬼っ」
「……うるせえ」
卯城は、パンを食べてる間に遊びの熱が冷めたようだ。立ち上がり、転がってる江西の腹や胸板をしたたかに蹴りつける。
「いっ……っぅ! あ、痛ぇ、痛っ! やめ……っ!」
立て続けに蹴られて息を詰め、痛みから体を庇おうと丸くなった江西を更に蹴りながら卯城は言う。
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