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 黒いドアの両脇にいたチンピラが腰を折って俺を迎えた。

 左側の若い男が金色の取っ手を押すと、照明が全てつけられ、荒らされ放題の店内が見渡せた。

 中に踏み入り、周囲を見回す。左手にカウンター。右手にボックスが6席。規模は小さい方だ。内装も安っぽい。こんな店の女に入れあげるのは、石倉のイメージに合わない気もした。ひっくり返ったソファと壁の間で、従業員の男と店の女達が数人、一塊になってこちらを伺っていた。

 正面の壁に化粧室の案内板。その下に見覚えのある男が顔を腫らし、両脇を俺の舎弟に固められて立っていた。そちらへ足を進めた。

「よう。確か、周藤さんだな?」

 少々顔の形が変わっていたが、一度一緒に飲んだことを思い出した。石倉の友人の一人だ。周藤は黙って頷く。オールバックに固めた髪が乱れて、口の端と目元から血が滲んでいた。

 俺は瀧本を振り返る。

「その、左の奥です。階段を下りたところにあります」

 俺は周藤の前を通って言われた通り、左に折れた。右手に化粧室。素通りすると突き当たりに開け放たれたドアがあり、階段があった。十段ほど下ると、側近の楠本と平田が階段の下にいた。俺を見ると、腰を折って礼をし、ドアの両脇に下がる。

 ドアを見上げた。確かに、頑丈そうだ。
 素っ気ない鉄板で作られたドアは、誰かが蹴るか何かしたのだろう。ところどころが凹んでいた。

 目の高さより僅かに下のところに覗き穴らしい、小さな丸いものがあった。インターホンは見当たらない。鍵穴はあるがドアノブがない。鍵を使って開けるか中から開ける以外に、開く術はなさそうだ。

「そんなに大事な女なのか」

 思わず口に出していた。傍らにいた瀧本が、何か言いたげに口ごもった。俺は瀧本を見やる。

「なんだ?」

「あの、女じゃ、ねぇんですが」

 普段、ずけずけと物を言う瀧本が言い難そうにそう言った。俺は眉を寄せてドアを見た。

「さっき、話をしたら野郎の声でして。兄貴……石倉、が男囲ってるってのは俺も聞いたことないんで、驚いたんですが」

「俺も、あの野郎がオカマが趣味だとは聞いたこたねぇな」

 「別にオカマじゃない。そこにいるのは仙崎さんかい?」

 俺の声に答えるように、ドアの内側から声がした。オカマのように癇に障る裏声じゃない。ざらついた低い男の声だった。俺は覗き穴を見据えた。

「ああ、そうだ。お前、石倉の情人か」

「……まぁな。あんた、俺に用があるんだって?」

 落ち着いた声だ。俺は拳で軽くドアを叩いた。

「顔を見て話をしようじゃねえか」

 しばらく、沈黙があった。

「仙崎さん、あんた一人ならここを開ける。その周りにいる連中を階段のドアの外にやってくれ」

「なめてんのかっ、カマ野郎! とっとと開けやがれ!」

 瀧本が怒声を上げてドアを蹴りつけた。下がっていた二人も加勢して罵声を飛ばす。狭い通路に反響した音に俺は眉を顰めた。

「やめろ」

 そう言うと、三人はぴたりと口を閉ざした。俺は瀧本に向かい、階段の方を顎で示す。

「行ってろ」

「しかし、中の野郎が何を持ってるか」

「仙崎さんに喧嘩売る気はない。静かに話がしたいだけだ」

 瀧本の声を遮るように中の男が言った。怯えも虚勢もない落ち着き払った声に俺は口の端で笑った。いい度胸だ。

「だ、そうだ。心配すんな。サシならやられやしねぇ。行ってろ」

「……わかりました」

 不服そうに頷いて、ドアをひと睨みした瀧本は、他の二人を引き連れて階段を昇っていった。ドアの手前で振り返ったがすぐに静かにドアを閉めた。




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