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 石倉の左右に立った二人が罵声を浴びせながら石倉の体を蹴りつける。すぐに微かに呻き声が上がり、意識を取り戻したようだ。

「女ぁ、どこだ? 清四郎」

 言いながら煙草をコートのポケットから出すと、背後にいた一人がライターの火を差し出してくる。煙りを吸い、ゆっくりと吐き出し、石倉の頭を爪先で踏む。

 元々、石倉が口を開くのを期待している訳ではない。やたらと口の堅い男だ。話すなと言えば何も言わない。どんな目に遭おうと、その堅牢な口を割らせるのは不可能だ。

 コイツを知る者なら皆そう思っている。そして事実、その通りだ。

 だからこそ、俺もコイツを信用したし、重宝もした。
 挙句、裏切られ、頼りにした口の堅さに舌を巻く嵌めになったが。

 無駄と知りつつ、責め立て続けるのは、女を捜させている奴らからの連絡を待つ間の暇つぶしだ。そして、牙を向いた飼い犬への仕置きと見せしめ。

 次は何をしてやろうか。そう思ってぼんやりと煙草をふかす俺の背後で、倉庫のドアが開く音がした。振り返ると、瀧本が入って来た。冬場にスキンヘッドを見るとこっちまで凍えそうだ。瀧本は足早に傍へ来ると、石倉が通っていた場所が見つかったと告げた。

 俺は頷いて、石倉の前に屈みこむ。寒いのか、小刻みに震える石倉に俺は笑いかけた。

「お前の可愛い女に会ってくるからよ、お前は皆に遊んでもらってな」
 煙りを吐きかけ、残っていた眼球に煙草の火を押し付け、立ち上がった。弱々しい悲鳴を背に、俺は倉庫を出て、待機していた車に乗り込んだ。


   * * *


 車は、隣の市の繁華街へ向かった。
 繁華街とは言っても、通りの半分の店が潰れているような場所だ。

 日はすっかり落ちていた。閑散とした通りには、背中を丸めた勤め帰りの堅気がちらほらと歩いているばかりだ。

 石倉のシマの一つだった。たいしてシノギもないこの場所をなぜあいつが大事に抱えていたのか。不思議に思っていたが、女を囲うためだったのか、と腑に落ちた。

「止めろ」

 助手席に座った瀧本が運転席に声をかけ、車は小さな看板を掲げた店の前に止まった。

 車を降りた瀧本が後部のドアを開け、俺は白い息を吐きながら外へ出た。ネオンに囲まれた入り口の脇には、照明をきつくあてて撮った女達の写真が飾られていた。

 俺は暫くそれに目を向けた。女はどれも十人並みといったところだ。瀧本に目を向けると、店の入り口を目で示した。

「中に、います。店の奥の部屋に住んでるそうです」

「ツラ見たか?」

 歩き出しながら訊ねると、瀧本は後に従いながら、いいえ、と言った。

「ここのオーナーが、確かに石倉が奥の部屋に通ってた、と言ってまして。従業員もそう言ってます。ただ、ドアが開かないんです。えらく頑丈でして。何人かで、壊そうとしたんですが、びくともしません。ドア越しに石倉の事を話したら、若頭が来たら開けると言うもんで」

「なるほど。身持ちが固ぇんだな」

 笑い混じりに呟いた。




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