■ 2


 テーブルに腰掛けた不動は、

「おう、悪いなあ。金入ったら払うからよ」

 と、これっぽちも悪くなさそうに言って、ひょいひょいと肉をつまんでは口に放り込み、くちゃくちゃと食べていく。

「……おい、腹壊すぞ」
「大丈夫だって、溝鼠そのまま齧ってもなんともなかった」

 見てるほうが具合が悪くなりそうな食いっぷりで既に半分も食べた。
 いくら腹が丈夫でもいい加減止めた方がいいかもしれない。いちおう生食用だが、生肉は食べ慣れないと消化に悪い。

「よせって、いつまでふざけてるんだ」
「なんだよ。信じてなかったのか?」
「当たり前だろう」
「じゃあ、ほら」

 いきなり服を脱ぎはじめた。 面食らってみていると、体毛の濃い日に焼けた上半身があらわになる。その左胸のところに傷があった。瘡蓋にもなっていない生々しい傷。

 不動がその傷に指を埋める。

「おい、よせっ」

 不動は、めりっという音がしそうなほど無造作に肉をめくり、そこにある心臓を見せながら笑った。

「ほら、動いてねえだろ? 触ってみるか?」

 俺は、卒倒した。



   * * *



「すまん。やり過ぎたな。なまじっかじゃ信じてもらえねえと思ってよお」

 眼を覚ますと、店の床に敷いた毛布の上に寝かされていた。不動が持ち歩いていた物なんだろう。毛布はやけに臭くて、余計に気分が悪い。

「脈、とらせるとか、いろいろあるだろ。あんな傷、見せやがって」

 ゆっくりと起き上がると、不動はぼりぼりと頭を掻く。

「いきなりぶっ倒れるとは思わなかったんだ」
「目の前で内臓見せられて貧血起こさないほど図太くないんだ、俺は」
「すまん」

 悪びれた様子はないが、頭を下げてすっぱりと謝る。
 俺は不動をじろじろと眺め回す。

 こんなに平気で動き回っていて死体だなんて信じられないが、さっき見せられた光景を思うと、信じないわけにもいかない。

「……それで、どうするんだ、これから」
「それなんだよなぁ。何していいか思いつかなくってよ。とりあえずどっか落ち着けるとこ探そうかと」
「そうか。まあしばらくなら、いていいぞ、ここに」

 ついそんなことを言ってしまったのは、あまりにショックが大きくて頭が働いてなかったせいだろう。

 不動は眼を輝かせて喜んだ。

「おお、さすがは我が親友。皿洗いぐらいなら手伝うぞ」
「死体に厨房うろつかれちゃ衛生上問題があるからやめてくれ。あと部屋に案内するからシャワーを浴びろ」
「そうか、すまんなあ。世話になる」

 とりあえず、俺もシャワーを浴びよう。毛布の臭いが移ってそうだ。
 腰をあげようとした俺の腕を不動が掴んだ。

 不動を見ると、片手で拝むようにして言った。

「あと、すまんがもう一個頼みがある」
「ん、なんだ?」
「ちっと喉渇いててさあ」
「ああ。水でいいか?」
「出来れば酒で」
「昼っから何言ってるんだ」
「いや、それがな。水だと腐りやすいんだよ。酒はほら、アルコールだしよ、消毒になるだろ?」
「……まったく。試供で貰ったワインがあるから、それでも飲め」

 ついでに俺も一杯飲もう。あのグロテスクな映像を頭から追っ払いたい。





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