制服だったわたし



制服は忌むべき抜けがら。ただのうろ。
家に帰るやいなや、わたしは重たいその抜け殻を一枚一枚剥がしてゆく。だって、制服なんてただ体に纏わり付いているだけで、実は無意味なもので、とってもとっても邪魔なのだもの。
だから、わたしは剥がす、脱ぐ。
真っ赤な林檎色のリボンタイ、
プリーツの入った濃紺のスカート、
それからわたしにはまったく不似合いなセーラーも。
全部、全部。
わたし、すっかり大人なのにね。
教師も親も皆みなわたしにすぐ、この服を着せたがるの。他の服じゃダメって言うの。まるで蛹を脱するのを阻まれているようで、いらいら。くさくさ。もう蛹はまっぴらなのにね。

でも、それも今日で終わりなの。

だって、今日は卒業式。
この服を強制していた、あの学校から。あの規則から。
もう着なくて良いんだ、と思うと清々しかった。わたしはこの「抜け殻」が好きではなかったし、いっそ忌んですらいた。表面を画一された集団なんて、いっそおぞましかったから。
けれど、その実、そうではなかったらしくって。
わたしはこの制服を着なければならないという強制力が確かに自分の前から消えてゆき、はっきりと淋しいと思ったのだから。
これを、着る事も無くなって仕舞うのね。
そう言って、制服に向き合った卒業式当日。制服に触れたあの重み。
わたしが嫌っていたあの重みは、わたしの今までの学園生活全てを吸い込んだ結果の重さであると悟った時、わたしは自分がただ世間擦れを気取っていただけのあまのじゃくだったんだ。制服のせいなんかじゃなくって、きっとわたし自身のために、わたしはずうっと蛹のままだったんだって気付いてしまって、

ちょっぴり、恥ずかしかった。

でも、そんな事ももう無くなってしまうね。
わたしは今、否が応でもこの制服を脱いで、前へ進むしかなくなってしまった。

卒業式を終えて。家に帰って。
わたしは昨日までそうだったように早々に制服を脱いで、けれど昨日までとは違ってそれを一度だけ身体にあてがった。濃紺のセーラー服。わたしの今までの学校生活そのもの。それが溜息のようにかさかさと制服が衣擦れする。

そうして。

私はセーラーを箪笥の一番奥に突っ込んだのだった。

−−−−−−−−
あとがき
短めの散文っぽいもの第二弾。
ある少女のモラトリアムからの脱却。といったような感じです。
この頃、一応「novel」と銘打ってあるものの、置いてあるものが小説っぽいものがあまりないような気がしてきました。
あれれのれ。
一回、ちゃんと小説っぽいものを書いた方がいいかなあと思ったりします。しかし、果たして小説っぽいものとは何なのでしょうか……。
気にせず突き進もうと思います(笑
もう少し、時間ができたら長いものにも取り掛かりたいと思っております。



  
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