TenMonths,TenDays



――神様はいるよ。
柔らかく、彼女は微笑んだ。一世代は違うだろう少女が、あまりにも大人びて見えたのだ。母にも似た、包み込むような慈愛に満ちていた。
――神様はいるよ。
彼女は繰り返した。そうして、私の腹に耳をくっつけるようにぴったりと抱き着いた。柔らかな温み。突然の少女の行動に一瞬だけ怯むも、すぐに私も少女の小さな身体へと手を回して、抱きしめる。幼い体温が心地よくて、愛おしい。抱きしめたまま、そして抱きしめられたまま、彼女は喋る。
――人は神様として生まれてきて、やがて人と成るの。
もったいつけるように、一度言葉が切られる。とくん、とくん……と幼い鼓動が一つ。私は少女にかけていた手を片方外し、そろりと自分の腹を撫でた。だから? と、私が先を促す。少女はふふっと嬉しそうに笑った。
――だから人は『授かる』っていうの。
『できる』わけでも、『作る』わけでもないの。
子どもは神様に護られて、生まれてくるの。
だから、大丈夫よ。
護られているのだもの。
澄んだ丸い瞳が私を捉える。まるでぜんぶ見透かされてるみたい。にこりと彼女は微笑んだ。思わず、彼女を抱きしめる力が強まる。
――貴女はとっても優しいのね。
……まるで母のよう。
囁くように耳元で告げれば、少女はくすぐったそうに身をよじらせた。そんなことないよ、と、笑まれる。
――わたし、貴女の元に生まれてきて本当に良かった。
小さく呟く。けれど、それはあまりにも小さな声で。私は聞き取る事はできなかった。
――ごめん。なにって?
少女の言葉を聞き直そうと視線を下へと向ける。
けれど。
そこには。
あの少女も、ましてや誰もいなくって。
空っぽの腕を下ろし、それから辺りをきょろきょろと見渡す。
しかし、やはり。


ただ。
どこか、遠くて近いところから。

『可愛らしい、女の子ですよ!』


誰かの歓喜が聞こえてきた。


−−−−−−−−
あとがき。
実際は十月十日ではないそうですね。およそ280日ほど、でしたっけ。
真面目に中学の時に保健体育を受けていなかったので、胡乱な記憶ですが、たしかそのくらいだったような。
取り敢えず、今回は「とつきとうか」っていう響きがすごく好きなので採用してみました。滑らかな響きですよね、とつきとうか。



  
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