三章

 本日二度目となる上り坂はやはり厳しいものだった。二度目ともなれば慣れるだろうと思っていた石本の予想を裏切り、古式然として佇む洋館の門に辿り着いた時には一度目以上の疲労を覚えた。
 息を整えつつ、平然として話し込む上司とその友人を睨みつける。息の一つぐらい乱れても良さそうなものを、汗を拭いつつ話す姿は同じ人間とは思えない。上司に至ってはいい年齢にも関わらず。本当に人間だろうか。
 自身の運動不足を棚に上げて襟元をぱたぱたとさせる石本を見ながら、槇は嵐に言葉を繰り返した。
「だから、警察ってことを明かしたら向こうだって警戒するだろうが」
「明かそうが明かすまいが、槇さんだったら誰だって警戒しますよ。ていうか、何でそこで抵抗するんだか」
「可愛くねえ」
「そうじゃなくて……今の住人がこの屋敷にまつわることを知ってるかもしれないでしょ」
「警察の権力を使うってか?」
「言葉選んで下さいよ」
「じゃあ、お前はどうするんだよ」
「一応、招待状を貰ったんで、招待客とでも言います」
「それこそ怪しいじゃねえか」
「……身元を明かさない人間よりはずっと普通ですよ」
「作戦会議は終わりましたか」
 不毛極まりない言い合いをする二人の間に石本が割って入る。
「僕は頓道さんに賛成ですけどね」
「ああ?」
「国家権力なめない方がいいですよ」
 上が上なら部下も部下、と言ったところだろうか。それともここまで上手でないと槇を言い負かす術は無いということなのだろう。
 石本は槇の言葉を待たず、門柱にあるインターホンを押した。
 いきなりの行動に声を上げかけた槇を押さえ込む嵐の横で、インターホンに出た家人に対し、石本は極めて丁寧な言葉遣いで身元を明かしていた。
 確かに、この性格でなければ槇とは付き合いきれそうにないな、と門が開くのを見ながら嵐は悟った。



 とんとん拍子というのはこういうことを言うのだろう。洋館に至るまでの道には背の高い木々が並び、ロータリーとなった屋敷前は洋式の庭で、きちんと手入れが行き届いている。形を整えられた生垣は目に美しかったが、庭師の苦労を思えば手放しに美しいとも言えなかった。先刻の喫茶店の店主の話から察するに、桜の木が植わっている庭もまた別にあるのだろう。

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