これだから、と嵐は立ち上がる。人外の者とまともに話をしようと試みたのがバカだった。立ち上がる嵐を見て声の主は明らかに慌てたようである。
「え、ちょっと待ちなよ」
「いい。頑張って半日歩くさ」
 貰った地図もある。
「だめだめ。その地図じゃ行けないよ」
「どういう……」
 尋ねるよりも先に嵐の体がフワリと浮く。慌ててリュックを拾い見上げると、そこにはにんまり笑った少年の顔があった。
 大きな目と八重歯が印象的で、嵐を持ち上げる二本の腕は浅黒く焼けていた。
「……天狗か」
「そこらの雑鬼と一緒にされちゃ困る」
 山伏姿の背からは黒い大きな羽が見えた。
 あがくのをやめ、眼下に広がる木々の海を眺める。
「天狗っつったら鞍馬山じゃないか」
「鞍馬の天狗は嫌いだね。気位ばかり高くて」
「この土地に元々いたのか?」
「うん。雑鬼が多くて餌に困らなかったのに、ちょっと前から鬼が来てさ、ずっと腹っぺらし」
「……尻子玉はやんねぇぞ」
 ケラケラと天狗は笑った。
「久々の話し相手にそんな扱いしないよ。とりあえず鬼を何とかしてほしい」
「どいつもこいつも……俺の相手は鬼じゃない」
 うんざりしつつ言う。
「海山の家に用があるだけだ」
「その家に鬼がいるんだ。ついでにいいだろ」
「退治屋じゃない。出来るのは話し合い程度だ」
「……まったくなぁ」
 ぽつりと言うと天狗は急降下を始める。声をあげようにも、口も開けば飛び込んでくるのは勢いづいた風ばかりだ。言葉を発するよりもむせてしまう。
「はい、到着」
 ひょい、と二メートル上空から手を離され、嵐はしたたかに尻を打ち付けた。痛さに暫くうめいていたが、隣にたった天狗に頭を無理矢理掴まれ顔を仰がされる。
「ほら、目的地」
「わかった! いいから放せ!」
 天狗の手を払い、立ち上がる。

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