「そりゃ正解だ。最近、この近辺で起こってる通り魔殺人、知ってるか」
「槇さん」
 何気ない調子で話し出した槇を咎め、石本が書類から顔を上げる。手を振って「いいんだ」と石本に向き直った。
「こいつも一枚噛んでそうな雰囲気がするもんでな。だろ?」
 してやったり顔でにやりとする槇を睨みつけていると、綺麗に盛り付けられたサンドイッチが横から突然現れた。思わず身を引いてみれば、店主が無表情を装って皿を置いていく。だが、その耳は明らかに槇の話に興味を抱いているようだった。
 槇は皿をテーブルの真ん中に移動させ、さすがに店主に聞かれてはまずいのだろう、先刻よりも声の音量を下げて石本に事件の概要を話すよう指示すると自身はパフェを引き寄せた。渋面で抗議する相方の声など右から左へ聞き流し、生クリームの上のみかんをつつく槇に刑事の威厳などあったものではない。
 これ以上の抗議は無駄と判断したのか、石本は腹を決めたような面持ちで嘆息すると、内ポケットから取り出した手帳を開いた。
「……これまで計二件、最初の一件は傷害致死、つい最近の二件目は殺人事件になります。どちらも共通するのは鋭利な刃物による傷が致命傷となること、そしてその傷が首と胸に限られること。……まあ、一撃で殺そうと思えば、狙うならこの二点しかありませんが」
「更に補足するとだな」
 既にパフェの半分ほどをたいらげた槇が、中のコーンフレークをかき回しながら口を挟む。
「被害者に共通するのはおよそ三十代前後、とまあ当たり障りない内容から、現場には必ず桜の木があるというおまけつきだ」
「桜、ですか」
「槇さんがそう言ってるだけですけどね」
 いらいらと石本はサンドイッチに手を伸ばした。
「まだ二件目なのに関連性を見出すのは間違いだと思いますよ。刑事の勘だなんて、往年のドラマみたいなこと言わないで下さいね。普段から勘だけで生きているような人が」
 容赦ない石本の攻撃に槇はむっとするだけで手を出すような真似はしない。ざくざくと言い負かす石本に気分がすっきりするのを覚えながら、嵐は槇の方へ顔を向けた。
「で、それが俺に関係ありますか」
「大有りだろう。既にくたばった人間から観桜会の招待状なんて、因縁めいてるじゃねえか」
「……楽しんでますね」
「いや? 面白がってる」
 返す言葉も尽きた嵐はあてつけのつもりで盛大な溜め息をつく。そのまま椅子の背もたれに寄り掛かって、槇を睨みつけた。
「第一、その事件から何でここに来るんです。そこがわからない」
 パフェの底に押し込まれたスポンジケーキをかっ込みながら、槇は二個目のサンドイッチに手を伸ばしている石本に説明を促した。一瞬、嫌そうな顔をするも、嵐の手前、伸ばした手を手帳に戻してめくる。

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