氏神とは古代の氏族が共同で祀った神や屋敷神など色々と形はあるが、この場合で言う氏神とはもっと近しい存在にあたる。同一の地域内に住む人々が共同で祀る神をそう呼ぶのだが、別名として産土神という名もあるほどに土着した神だ。
 この辺りにはそういった氏神さんと呼ばれて信仰される社がいくつかあり、近所の人間や氏子と呼ばれる当番制の管理人がその管理をするのだが、笹山家隣の氏神は少々異質だった。全く、どういう経緯でそうなったのかは不明だが、他の氏神とは違って笹山家隣の氏神には同じ敷地内に三つ塚と呼ばれる妙な塚がある。
 ただ土が他より少し盛り上がってるだけのものが三つ並んでいるだけなのだが、慰霊碑やその塚の由来を説明するような石碑もないものだから変な噂ばかりが一人歩きし、最終的には首塚という噂に落ち着いたようだった。
 だが、それが良くなかった。そもそも信仰心とは無縁に近い現当主の考えに基き、笹山家は隣接する氏神の管理もせず放置、本来ならば管理するはずの氏子もその場所を気味悪がってあまり近づかない。たまに来る氏子が申し訳程度に地面を掃いて終わる。だからか、自生していた竹が生い茂り、余計に近寄りがたい空気を作り出していた。
 子供の頃は秘密基地めいて面白く、夏場は涼しいからと頻繁に出入りしていた。しかし、成長してから気付く。空気の悪さは噂だけによるものではなかった。
 中途半端に良い目をしている自分を呪ってやりたくなるが、三つ塚の辺りだけ妙に空気が淀んでいるのである。それを見定めようとして目を凝らしてみてもただ淀んだ空気が見えるだけだった。ここ最近は用も無いから近づかないために見え方も変わっているかもしれないが、おそらく淀んだ空気はそのままだろう。
 あのような淀みを敷地内に置きながら機能していない氏神にも疑問は残る。だから自分の手に余る、というのが嵐の結論だった。
 三つ塚はやがて三つ首塚と呼ばれるようになり、他の氏神と区別するように三つ氏さんと呼ばれ始めたのは嵐が中学生頃のことだったろうか。
「子供はそういうの面白がるからねえ」
「え、あれか? 竹が一杯ある」
 ようやく二人の会話に追いついてきた明良が声をあげる。タエは頷いた。
「気味悪がって誰も手を入れないだろ。だからほら、三つ氏さんの周りって竹が凄いじゃないか。その根っこが笹山さんの畑にまで伸びてきたらしくって」
「それで畑を半分潰したんですか」
「長いこと持ってた畑だから悔しいけど、仕方ないってことらしいね。竹の根っこはあんまり歓迎されたもんじゃないだろう」
 タエは言いながら苦笑する。確かに、竹の地下茎は畑の柔らかい土をことごとく荒らしてしまうだろう。
「ふうん……だったらきっちり管理すりゃいいのに。あそこって氏子さんいねえの」
 明良が上体を反らして嵐に尋ねる。そこまで近所の情勢に詳しくない嵐は言葉を濁しながらタエに助け舟を求めた。タエはくすくすと笑いながら明良に話す。
「そりゃいるよ。だけど皆、年だし、若い人はそういうのあんまり関わりたがらないだろ。自然に足も遠くなるよ」
 でもまあ、と言って明良の肩をぽんと叩いた。

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