けろりとして返す明良に反論する気力もない。どういう経緯で井戸端会議に参加したのかわからないが、その挙句こんなにも情報を仕入れることが出来るのか。いわゆる天性の才能というやつだろうか。
──いや、違うか。
 才能というよりも、持って生まれた造形美の成せる技であろう。暇を持て余している井戸端会議の出席者にすれば、明良がそこにいるだけで充分なはずである。加えて話好きだから文句など言いようがない。
 ああそう、とぐったりしながら新聞紙で包んだサツマイモを脇のダンボールに放り込むと、その光景を目にしたのか、白髪を後ろでまとめた老齢の女性が寺の階段を上がってくる。ちらりと顔を上げて見ると見知った顔だった。確か、明良を可愛がっている女性陣の中での最年長者だったか。曲がった腰と杖がそれを物語る。
 その記憶を裏付けるように明良は女性の姿を確認すると、顔をぱっと輝かせて女性を出迎えた。
「こんにちはタエさん。最近見なかったけど大丈夫かよ」
 タエは横柄な口ぶりに顔をしかめるでもなく、むしろ嬉しそうに笑う。
「ちょっと風邪をこじらせてね。それでここんとこ、ずっとご無沙汰だったから散歩してたんだよ」
 明良に勧められて階段に腰掛け、その隣に竹箒を抱えた明良が座る。老若問わずの女性への接し方は見習うものがあり、しかし、確実に自分には出来ないという自信がある手前、嵐は黙って二人のやりとりを聞いていた。そんな嵐に気付いたタエは軽く会釈をし、山となった落ち葉を振り返る。
「焼き芋かい。いいねえ、この時期のお芋は美味しいから」
「そうそう。檀家の笹山さんっているだろ。あそこんとこでサツマイモ作ってるみたいでさ、それで沢山採れたからって」
「まだ作ってたのかい、笹山さんところは?」
「作ってたからくれたんだろ。……ああでも」
 そう言って中空を見上げてからタエに視線を戻す。
「あれ? 畑の半分潰したんだっけ」
 そうそう、と頷きながらタエはぽつぽつと話を続けた。
「笹山さんところの奥さんいるだろう、美和子ちゃん。ほら、長男のお嫁さん。あの子がさ、私が風邪ひいたからって見舞いに来てくれた時にちょっと聞いただけなんだけどね。笹山さんのお宅の隣って小さなお社があるの知ってる?」
 タエの話にいまいち要領を得ていない明良に代わり、最後のサツマイモを新聞紙に包み終えた嵐が「ああ」と声を上げる。
「笹山さんの家ってあれですよね、大きな枇杷の木がある家の」
「そうそう」
「じゃあその隣なら、あれか、三つ氏……じゃなくて氏神さんですか」
 よく知ってるね、と破顔したタエに嵐は立ち上がって体を向ける。
「子供の頃よく遊んだんで」
 加えて、あそこはあまり感じのいい場所ではないからだった。

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