「どっちにでも解釈出来る。過去にも同じ事があったがそれ程じゃなかったの「今までは」と、それまでは無かったの「今までは」」
 目は真剣そのものだ。その目を見て嵐はあることを思い出していた。
──そういえば槇さん。
 いつ勉強しているのかわからないほどに自由気儘に学生生活を謳歌していたが、単位ギリギリで教授がお情けで受けさせたという試験を満点で合格し、留年を免れたという噂を聞いたことがある。
 当時は真偽の程が定かではなく、圧倒的に虚偽説の方が濃かったが──
「その女子高生、ただの馬鹿か策士のどっちかだな」
 この目を見て、はっきりとこの男は確かに頭が良いのだなと納得した。
「どっちだと思う」
 槇は高仲に訊く。高仲は肩をすくめた。
「わかりませんね。策士にしても何にしても丸め込まれた方なので」
「で、お前は」
 今度は嵐へ訊く。高仲にしてみれば非常識な世界の専門家であり、彼も興味津々で嵐を見る。
「言葉遊びは槇さんに任せますが……どっちかと言うと俺向きです」
「それで?」
 槇は頬杖をついた。
「梅雨の時に来なかったなら怪しすぎますし、二週間前に来たにしても事態の変化が急すぎますね。何だか訳がわからない」
「お前にくっついてる変な奴は」
 高仲はぎょっとしたように槇を見て、嵐は息を吐く。
「鴉ですか、槇さん持参のですか」
「両方」
「鴉はさっきから向かいの木に止まって、聞き耳たててますよ。後で意見訊いてみますが期待しないで下さい」
 それと、と嵐は自分の隣を見る。、高仲にはただ汚い白い壁が見えるだけだが、嵐だけではなく槇にも何かが見えるようだ。
「槇さん、本当にどこ通って来たんですか」
「……なに?」
「小さい男の子なんですけどね、ずっと同じことしか言わない」
「何をだ」
 嵐は視線を隣──更には自分の膝上ぐらいにまで下げて、それから嘆息した。

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