特に感づく様子も見せず、高仲はまた笑って話し出した。
「間宮さんの話では心当たりは全く無いらしいです。……無いと言っても今のご時世じゃね、どこで恨まれてるかなんてわからないですけど」
「他の人に見えないっていうのは」
「……うん、見えませんね。彼女には見えるみたいですけど。おれは見たことありません」
「どんな格好かわかりますか」
 高仲は少し視線をさ迷わせ、答える。
「帽子にコートだったかな……すみません、あまり覚えてなくて」
「いや、そういうもんですから。雨の日ばかりなんですか」
 これにははっきりと答えた。
「おれには見えないので何とも言えませんが、現れるのは雨の日だけみたいですね。巡回は天気に関わらず行ってますが」
「はあ……じゃあ、梅雨の時期なんか大変だったんじゃないんですか」
 ご苦労様だな、と心の端で同情していると、高仲がきょとんとした顔で口を開いた。
「そういやそうですよねえ……」
 自身でも初めて確信を得た、という風に高仲はぽつりと呟く。
「何で梅雨の時に来なかったんだろう」
「二週間前でしたっけ」
 高仲は頷いた。
「そうです。長雨が続いてますよね、その走りの頃だったと思います」
「降り始めですか?」
「二週間と言ってもきっちり二週間前ってわけじゃなくて、大体です。すみません、記憶があやふやで」
 またもや謝る。そのでかい体で頭を下げられるとこちらが申し訳ない気になり、嵐は苦笑して結構ですよ、と言い、質問を続けた。
「なら最近になって?」
「それも違うんじゃないかなあ……話を聞いていて不思議だったんですが、彼女の口ぶりだとそれ以前にもあったような感じなんですよね。……失礼」
 霧雨のようになった雨が中に吹き込み、高仲は交番の扉を閉じた。
「それで聞いてみたんですよ。今までは大丈夫だったんですか? って。そしたら今までは大丈夫だったんです、って返されて、その時はああそうですか、で納得したんですが……よくよく考えれば変ですよねえ……」
 事態の奇妙さになりと潜めていた、彼本来の冷静さが姿を現し始めたようである。
「……言葉遊びみてえだな」
 それまで熱いお茶と格闘していた槇がぽつりともらす。
 とんとん、と机をせわしなく指先で叩きながら言った。

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