「――あんたさ……」
「聞かないでくれ」
 死ぬ理由を問おうとした嵐の言葉を、強い――今までにないほど強い口調で遮った。
「まだ、聞かないでくれ」
 結局、話に進展が見られず、慎に食事はしっかりとるように、と教師の真似事をしてみせてから寺を出た。
 呪殺の以来が無かったと言えば、嘘になる。
 この仕事を始めて、嵐の裏家業――拝み屋の事が知れ回るのに時間はかからず、そうと知って呪殺の依頼をする人間がいなかったわけではない。
 さもしい話だが、少ない依頼の半数を呪殺が占めている。その全てを断っているものだから、年々少なくなってはいるが、無くなる事はなかった。
「……嫌なんだよ」
 ぽつりと呟き、歩調を早める。
――刹那。
 そよ、と風が頬を撫でたかと思いきや突風が足元をすくい、よろけた嵐の腕を一陣の風が吹き抜けた。
 痛い、と半瞬置いて気付く。見れば、ぱっくりと切れた傷口から血が滴り落ちていた。
「――関わるな」
 目の前で風がくるくると弧を描き、次第に収束していく。――白い、犬だった。
「おれらに、関わるな」
 低く、内臓にまで響くような声で犬は言い放つと、糸がほどけるように空気に溶け込み、かき消えてしまった。
「――おれら……?」
 反復してみるが、意味がまるでわからない。
 思い当たるフシが無いわけではないが、逆にありすぎでどれがそうなのかわからない。
「関わるなっつっても……」
 警告をするぐらいなら、始めから何らかの形で警鐘を鳴らしてくれても良かったのだが。
――参ったな。
 腕からは細く、絶えることなく血が流れている。とろとろと流れるそれは指先から、地表に赤い花を咲かせていた。
 このまま家に帰るのも気が引ける。母に何を言われるかわかったものではないし、天狗にいたっては大笑いされるのがオチだろう。
「……」
 嵐は元来た道を振り返った。

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