「……本、好きなんですね」
「え?」
「君の周り」
 男はくすくす笑って指差す。
 はた、と気が付けば、自身が図書館荒らしの犯人と成り果てていた。仕事どころか邪魔をしていることに初めて気付く。
「あー……すまん。ここの職員か?」
 気さくな雰囲気を持つ男に、嵐も砕けた調子で応じる。男は気を害した風でもなく向かいの本棚に寄りかかった。
「いや。ただ、来ただけだ」
「……何か読みたいのか」
「古い話は苦手だ」
「古かないぞ。別に」
「歴史が苦手なんだよ」
「テストで嫌な思い出がある奴は皆そう言うな」
 男は小さく笑う。答えはしないが、黙ることで肯定した。
「すごい量だな」
「……そうか?」
「すごいさ。おれは一冊も読みきれない」
「別に好きなもんだったら楽に読めるだろ」
「おれの友達と同じこと言うんだな」
 面白そうに男は嵐を見る。その様子を見て、嵐は第一印象が間違いでなかったことを改めて確認した。
――こいつ。
「君はいつもここに来てるのか?」
「今日はたまたまだ。明日は……どうだかな」
「今度は何かお薦めを教えてくれ」
 男は本棚から離れ、散乱する本を拾い上げた。
「薄い方が良いけどね」
 はい、と手渡すと、男は軽く会釈してその場を去った。嵐は頭をかき、ぽかんとしてその後ろ姿を見送る。

- 37/323 -

[*前] | [次#]

[しおりを挟む]
[表紙へ]




0.お品書きへ
9.サイトトップへ

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -