「   」



 彼らは、判を押したように同じ姿をしていた。顔や体格の差はあれど、誰もが白磁のような白い肌に銀糸さながらの髪を持ち、黄金の色と言っても過言ではない輝きを放つ目を持っていた。
 男女問わず、そんな容姿が放つ異彩は人々を惑わした。羨望の対象として、嫉妬の対象として、恐れの対象として、欲望の対象として──そして希望の象徴として。
 彼らは彼らの望む通りには生きられなかった。生まれた理由そのものが、彼らの意志とは何ら関係のない所にあったからである。外堀で蠢く数多の意志の流れを見つめる目は、鳥の目のようだと揶揄された。何も映さず、何も考えず、ただ映して真似るだけの鳥のようだと。
 真似る相手を選ぶ権利だけが、彼らに残された手段だった。



 温もりを帯びた柔らかな風が、うなじにかかった黒髪を払っていく。久しぶりに日の目を見たうなじは心許なく、ダイキはかつて自分の一部であった髪が地面に広がる姿を見つめた。
「……切りすぎじゃね?」
「切りすぎじゃねえよ」
「俺、そんな言葉教えた?」
「教えた。今」
「……頼むから最初に教えた方で」
「ぼくはダイキの言葉の方がいいけど」
「俺はやだよ。言語の評価表でまたバツをつけられたら泣く……」
「そうしたら、またダイキはぼくたちの担当官だ」
「三連続、赤点じゃ異動だよ。別の奴が来る」
「だから、ぼくたちは他の評価では満点でしょ。平均すればダイキは優秀だ」
「ハル」
 終り、と言ってハルの白い手が、ダイキの首に巻かれたシーツを解いた。シーツに散らばっていた髪が桜の花びらよりも早い速度で落ちる。
 ダイキは事務椅子に腰かけたまま、ハルへ鏡を要求した。はい、と渡された鏡の中に映るのは冴えない顔をした三十男で、希望していたよりもはるかに短く切られた髪が何とも寒々しい。
「……っぱ、切りすぎじゃねえかあ」
 吐き出すように言い、項垂れるダイキへいくつもの笑い声が群がった。
「やたら長いよりはそっちの方がすっきりしていて、いいわよ」
「そうそう」
「でも、前の方も好みだったな。あたし」
「おれは坊主にするのを見たかった」
「ハルが手加減したからだろ」
「ちゃんと床屋に行けばいいのにね。お金がないなんて」
「ギャンブルだって」
「女の人に騙されたんじゃないの?」
 それは先月の話! と合唱して彼らは笑いあった。
 体格や性別、年齢、顔や性格は違えど、同じような白い肌と灰色の髪、黄金色の瞳を持つ彼らは、ただそうしているだけで幻想画の中にいるような錯覚を抱かせる。
 唯一、その中でのアヒルよろしく、黒い髪に不健康そうな肌色をしたダイキはいたたまれないどころの話ではない。

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