「   」



「……お前ら、俺のプライバシーをもてあそびやがって……」
 だって、と髪を長く伸ばした少女は言う。
「自分で言うじゃない」
 続けて言うのは前髪を真っ直ぐに切りそろえた青年である。
「耐え切れないから聞いてほしいって。ねえ」
 同意を求められた他の仲間たちは、口々に相槌を打った。
「酔っ払ってここに来て、聞いてくれって」
「大声で喚きながらさ」
「最後には大泣きして、どっちが親鳥なんだか」
「こっちは夜通し、ダイキの宥め役で疲れちゃうよ」
 散髪の片づけを終えたハルがにっこり笑って締める。
「その対価としてちょっと遊んでも、ダイキは怒れないよね?」
 全てが事実であるだけに、言葉の槍はより鋭利に心を抉ってくるものだった。ダイキはしおしおと立ち上がりかけたが、芝生の上に散らばった髪を掃除するべくやって来た円形のロボットを見かけ、無言で仕事に勤しむ姿の前にしゃがみこむ。
「……うちの子たちはどうしてこうも……」
「メンタルの弱さはダイキのいいところだよ。それよりもさ」
 それよりも、とダイキの苦悶をあっさり一蹴したハルを、ダイキは見上げた。
「何だよ」
「せっかくの桜の花びらまで掃除させるの、勿体ないと思う」
 ダイキはロボットを見つめた。
「そういや、そんなこと言ってたな」
 綺麗に手入れされた芝生には、たった今、ダイキに別れを告げた髪の毛と、桃色の花弁が散らばっていた。懐から携帯端末を取り出すダイキの鼻先を、風にあおられた花弁がいくつも舞い落ちていく。
 ダイキはふと、顔を上げた。芝生の上で思い思いに憩う白色の若者たちと、円を描くように植えられた桜の古木。空は青く、吹く風は春のもの。一瞬、自分たちが置かれた現実が遠くになるような感覚に襲われ、ダイキは振り払うように端末へ目を戻した。
 手で操作するダイキへ、ハルは声をかける。
「音声認識、嫌いだよね」
「俺の日本語は汚くて認識しづらいんだとよ。だから覚えるなって言ってんだって」
「ダイキの言葉の方が生きている感じがするから、ぼくらは好きだけど」
「機械は生き物じゃないから、ダイキの言葉を理解出来ないんだって」
「私たちは生き物だから、理解できるってこと?」
「そ。おれらはダイキの雛鳥だから」
 誰かが話し始めると、それを起点にしてそれぞれが一斉に口を開く。それが彼らの会話の特徴であり、雛鳥という表現は現実にしても比喩にしても間違ってはいなかった。
 彼らの会話にうるさいという印象はなく、流れるように吐かれる言葉はまるで語り部から物語を聞かされているような心地よさであった。その言葉の出典元が概ね自分であることに、ダイキは少しばかりの自慢と、大多数の気恥ずかしさを覚えていた。

- 256 -

[*前] | [次#]

[しおりを挟む]
[表紙へ]




0.お品書きへ
9.サイトトップへ

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -