風が吹いたと風鈴が知らせる。

涼しい風に膝の上の白猫ものどを鳴らす、そこを撫でてやるとゴロゴロと気持ちいいと顔を摺り寄せてくる。
その戯れを遮るように、飄々とした声がする。
顔をあげなくても声だけで誰か分かる、大学からの腐れ縁

「待たせたな」

「待った」と返してやるつもりで顔を上げて、言葉を飲み込んだ。
明良の足元に居るヒト。
正確には少女、円らな黒い瞳を瞬きしながらこちらを見る。
目が合うとにっこりと笑う。
可愛らしい子供。おかっぱ頭が一層可愛い。



「見えるんだな」
その言葉に頷き、改めて少女がヒトであって人ではないと確認する。
明良は見えないし、感じない。危害も加えられない。
そういう体質なのだ。羨ましいとも悔しいとも思わない。
面倒を押し付けられるのは気に食わないが……

「俺以外皆見えるんだな」
その言葉に少し疑問に思いながらも本題に入る。


「今日の用件はその子か?」
頷く顔を見て、日ごろ困らされているのだから少しくらい困ればいいと思うのだが……
「親父さんに頼めばいいだろう」
「頼んだんだがな」
歯切れの悪そうな顔をする。
「そのままでいい、時期に還るといわれてな」
「ほっとけばいいじゃないか」
「それですんでいれば、呼ばない」
確かに、と納得するが明良ならくだらなくても呼びそうな気がする。


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