夢を見た。
あの人が私を押し退ける、夢。
目の前に広がる、赤。
大好きな色だけど、大嫌いな色。
苦しい。痛い。
誰かのためなんて、そんな綺麗事、聞きたくないよ―――
――――
「君が、赤司=ローズリィくんだね?」
「はい」
穏やかな三十代の男性が、書類と目の前の青年、赤司を見比べた。
「私が赤魔術師長の緋炎=スカーレットだ。今日から宜しく頼むよ」
「こちらこそ、宜しくお願いします」
赤司はぺこりと礼をし、力のない笑みを見せた。
エイド試験に合格したというのに、彼は嬉しそうに見えない。
それどころか、緩く微笑む顔は、どこか翳って見えた。
「仕事の詳細などは彼女から説明する。紅美」
そんな赤司を問いただすこともなく、緋炎は傍らにいた女性をちらりと見遣った。
少しはねっけのある緋色の髪を揺らしながら、紅美はにっこりと微笑んだ。
「宜しく、赤司」
「よろしくお願いします」
ゆっくり手を差し伸ばされた白い手を、赤司は弱々しい力でそっと握った。
――――
「赤司って、赤義(アカギ)の弟…よね?」
長が政を行なう場――ティアハウスを案内されていた赤司は、紅美にふとそんな質問をされた。
確かに前エイドの赤義=ローズリィは自分の兄だ。―――たった一年しかその職務に就かなかった、半年ほど前に亡くなった、兄。
赤司はこくりと頷いた。
「赤義のことは、本当にごめんなさい。スカーレット家のくだらない勢力争いに巻き込んでしまって」
「そのことはいいんです。兄は長を守れたのだから、それで満足だと思います」
「…違うの」
「え?」
「赤義がかばったのは長じゃなくて―――」
「母様」
紅美の言葉は最後まで続かなかった。彼女の声は少女の小さな声に遮られたからだ。
「…朱花?あなたどうしてここに…」
「出掛けたついでに寄っただけ」
朱花と呼ばれた短い赤髪の少女はそっけなく答えた。見た感じ十歳前後なのだが、態度からはそれは感じさせられない。
「ちょうどよかった。この人を家まで案内してちょうだい」
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