「俺が生まれてから十年、父さんたちはずっとそばにいてくれたけど、姉さんのそばには誰もいなかった。」
「・・・・・」
「母さんたちからも話を聞いて、この村を見て、姉さんはすごい辛いだろうって思った。だから、姉さんを恨まない。」
三歳年下の弟より、子供っぽい感情を持っていた自分に、紫歩は恥ずかしい思いを抱いた。
胸にあったわけのわからない感情が解けていくのがわかった。
「・・・・・そっか、すごいね」
微笑んだ紫歩から真っ赤になって視線を逸らして言った。
「そうだ、俺“西條 紫苑”って言うんだ。」
記憶にある弟の名前に、紫歩は微笑んで言った。「紫苑くん?カッコいいね。」
紫歩の言葉に少し照れながら、紫苑は言った。
「お姉さんは?」
紫苑の言葉に一瞬だけ考えた紫歩は、言った。
「蒼羽、碧乃」
紫苑は驚いた顔をしていった。
「あ、おの?母さんと同じだ・・・・・・」
驚いている紫苑に、紫歩―碧乃は言った。
「そうなんだ?」
「うん、すごいよね」
「そうだね」
微笑みながら言う碧乃に、紫苑は言った。
「あ、そろそろ行かなきゃ。・・・・・また会おうね?」
不安げな表情を見て、碧乃は言った。
「うん、またね」
碧乃が微笑むと、紫苑は走って行った。
後ろ姿を見送っている碧乃に、水炉が声をかけてきた。
「・・・・・本当の事は言わないのか?」
水炉の言葉に、碧乃は振り返らずに言った。
「“碧乃”が誰からも認められる“最丞 紫月”になるまで言えない」
「新しい名前か?」
水炉の言葉に、碧乃はただ前だけを見ていった。「妬むだけしか出来なかった“紫歩”じゃなくて、紫苑を支えられる“碧乃”になるまで、紫苑に顔向け出来ないから。」かなり頑張らなくてはいけないことだと思った。でも、今までずっと一人でいた“紫歩”よりも自分らしいと“碧乃”は思った。
朝の頭痛はすっかりどこかに消えていた。

数年後、紫苑が願っていた姉との再会を果たすのだけれど、それはまた、別の話。

END




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「無限回路」の水無月 臣さまより、キリリクで頂きました。水無月さまがサイトで書かれている小説の番外編にあたりますがこんなしっかりと書いて頂いてありがたい……!!
紫苑くん良い弟ですね………欲しい。ちょっとした願望が漏れてしまいましたが、感動ものです。
水無月さま、本当にありがとうございます!

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