朱花はただ無表情で――少しだけ悲しげに赤司を見つめている。
そして、何も言わないままこくりとだけ頷いた。
「紅美様?」
「この子は私の娘」
「…朱花=スカーレット…です」
俯きがちに名乗り、彼女はちらりとこちらを見た。一瞬だけ目が合ったがすぐに反らされてしまった。
―――嫌われているのだろうか?
赤司は首を傾げた。
まだ会ったばかりだというのに少し憂鬱だ。
「それじゃ、赤司、お願いね」
「……何がですか?」
「うちの家のシッターさん」
ぴし、と赤司の体が固まる。そんな彼に気付いたのか否かはわからないが紅美は笑顔で肩に手を置いた。
「よろしくね♪」
にっこりと笑うその顔には逆らえない何かがある。言いたいことはたくさんあるのだが、何も出てこない。
哀れ赤司は見事にシッター役が決定した。
――――
「こっち、左」
朱花に言われるがままに道を進んでゆくと、やがて屋敷に辿り着いた。
長の住まう屋敷はさすがというか、やはり大きい。
朱花が手をかざすと、音もなく門が開いた。
「…………名前」
「え?」
「まだ聞いてない」
屋敷の敷地内と外との狭間で、朱花は無表情のままじっと赤司を見つめた。
―――ああそういえば。
まだ名乗っていなかった。本来ならばこちらから名乗るべきであったろうに。
「赤司=ローズリィと申します」
「……ローズリィ…?赤義と同じ…」
「赤義は僕の兄です」
「あなた…まさか、新しいエイド?」
「はい」
言ってなかったけな、と思いつつ、赤司はエイド特有の笑顔を向けた。
だがその瞬間、朱花はカッと目を見開いた。
「出てけ――――!!!」
「え?」
赤司が話す暇もない。
朱花は小さな手に魔石を出すと魔術をかけはじめた。
四方八方から舞い踊る火の粉。あまり強い魔術とは言えないが、火の粉といえども“炎”だ。
赤司は慌ててその場から飛び退いた。
「私はね、命を簡単に捨てるエイドが大ッ嫌いなの!!歴代のエイドたちはみぃ――んな誰かのために死んでるんだから!!」
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