Piece27



Piece27



 ヤンケはじっと、端末を胸に抱き、目を閉じていた。抱え込んだ端末越しに心臓の動きが伝わり、いつもよりも激しく脈動していることがわかる。腕に力を込めてその動きを抑えてみようとするが、更に動きが大きくなるだけだった。ふっと腕を緩め、深呼吸を繰り返す。
 抱いたままの端末にはヤンケの体温が伝わり、ほのかな温もりが宿っていた。こうするだけで冷たい機械も暖かくなれるのなら、ネウンの手をずっと握っていれば、その手にも温もりは宿るのだろうか。
 自分にとってここは通過点でしかない、という意識があった。本当の正念場はこの先に待っている。ここで緊張している暇などなかった。
 ヤンケは目を開き、気合いを入れるために鋭く息を吐き出して、操舵室の扉を開けた。
 中には関係する人間が勢揃いして待っており、多種多様の思惑をからめた視線を受けて一瞬は怯んだヤンケだが、その中にギレイオがいることを認めて落ち着きを取り戻す。
「サムナの場所がわかったって?」
 ヤンケはギレイオの言葉に頷きながら、操舵室の一階部分に降りる。そこで飛空艇の端末に自身の端末を繋いで操作すると、正面の窓が暗転し、巨大な画面へと変化した。画面にはヤンケの端末と同じ表示がされている。それを見つめ、ヤンケは一息吸ってから兄弟子を振り返った。
「ギレイオさん、私、一つ謝らなきゃいけないことがあります」
「俺のへそくりでもかすめたか?」
「そんなのあるんですか!?」
「ねえよ」
 からかわれたことに顔を赤くしながらも、お陰でヤンケの緊張は一瞬で解けた。咳払いをして仕切り直し、ヤンケは再びギレイオを見据える。
「私、ネウンさんと賭けをしてました」
 途端に、場の空気が変わる。ギレイオらを追撃し、ラオコガらを急襲したのが誰であるか、彼らの名と正体は既に皆が知るものだった。特に、ラオコガとタウザーの反応は如実だったと言わざるを得ない。彼らに死に匹敵する一撃を与えたのはネウンであり、実際、それで仲間の幾人かは命を落とした。表面にこそ出てはこないものの、心中に渦巻く感情は決して良い物ではないことは明らかであった。
「……賭けって?」
 静かにギレイオが問う。怒りも何も含まない声だった。
「ネウンさんがくれたヒントを元に日記が読めるようになったら、ネウンさんと議論するんです。それが出来るかどうか、試してみようって賭けです」
「……なんか新しい単語が飛び出てきたな」
 ギレイオは一階に降りる階段に腰かけ、ヤンケを見上げた。
「日記ってのは?」
「私が『機構』のデータを探っている時に見つけたものです」
「……お前がヘマやらかして落ちそうになった時のか」
「そうです。でも本体を持ってくることは出来ませんでした」
「じゃあ、読めるってのはおかしいよな? 日記そのものがねえんだから」
「ヒントが日記そのものなんです。ただ本来の形ではなくて……解読方法の提示でもなくて、日記内で暗号化されたものをヒントとしてネウンさんはくれたんです」
「解読不能の日記の中の? 更に暗号化したものをヒントにって賭けにも何にもならねえじゃねえか。結局、日記ってのはなんだ」
「サムナさんに関係することです」
 ギレイオは表情を引き締めた。ヤンケはワイズマンに視線を向けつつ、続ける。
「でも、ワイズマンさんにも関係あります」
「は?」
「そうですよね」
 ヤンケは挑むように、二階から見つめるワイズマンを見つめた。
「……堂々と暴露する人がありますか……」

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