Piece27



 呆れているのか怒っているのか、溜め息交じりにワイズマンは言う。否定のないその言葉は肯定の証でもあったが、珍しく困惑していることが見て取れた。しかし、そんなワイズマンの態度など意に介さず、ヤンケはきっぱりと言い切る。
「暴露しますよ。でないと私がすっきりしません」
「……ではお好きにどうぞ」
 一歩も譲る気がなさそうなことを知り、ワイズマンは好きにしろと言わんばかりに手で示す。ヤンケは関門の一つを突破出来たことに安堵しつつ、ギレイオに向き直った。
「さっき、本体を持ってくることは出来なかったと言いました。でも、同じ形の物をワイズマンさんは持っていて、そしてその読み方を、あの人も知りたがっています」
 皆が視線を寄越す中で、ワイズマンは飄々とした態度で答える。もはや取り繕っても仕方がないと、居直っているようにも見えた。
「それが今、僕がここにいる理由の一つでもありますからね」
 初めは何のことかと探るような目つきでワイズマンを見上げていたギレイオだが、段々と記憶と現実が繋がってきたようで、ある一点でようやく事の次第を見出すことが出来た。途端に大声をあげてワイズマンを指さすギレイオを、絶対零度の視線が見据える。
「……ってああ!? あれか、女の置き手紙!」
 殺される勢いで怒られた記憶だけが場所を占め、置き手紙と思った肝心の物の正体をギレイオはすっかり失念していた。しかし、「読み方を知らない」という言葉によって離れ離れの点が繋がったギレイオの脳裏には、引き出しの中の光景がありありと浮かび上がっていた。
「手紙、手紙って覚えてたもんだから、肝心の形をすっかり忘れてた……」
 妙に感心しきって言うと、冷気をまとった言葉がすかさず釘を刺す。
「でしたら、僕との約束も思い出していただきたいものですが」
「今、盛大にヤンケがばらしたろ!?」
「明らかにしたのは君ですよ」
「……どう考えたってあいつの方が悪いだろ」
「責任の所在は後でゆっくりお話しするとして、本題に戻りませんか」
 最後の方はヤンケに向けて言う。
「僕があれの読み方を知りたいのは事実です。それを教えるというのが、あなたとの交換条件のはずですよ」
 これにはヤンケがびくりとし、今度はワイズマンなりの攻撃をしかけたのだということは明らかであった。しかし、ロマとゴルを除いた面々は二人の間の約束事など知る由もなく、無論、知らぬ間にその当事者にされていたギレイオも、不思議そうに様子を窺うことしか出来ない。
 ささやかな反撃をして溜飲を下げたワイズマンは、ついでとばかりにギレイオにも向き直った。
「彼女に力を貸すかわりに、日記の読み方を教えてもらうというのが僕の提示した条件です。しかし、そのためには君の了解を得なければならないということですので、ほら、さっさと頷いてしまいなさい」
「約束の断片も知らされてねえのに、何だそれは……?」
「断片は今お話しした通りですよ。結果、君は生き長らえてここにいる。その原因を軽快に無視なさるというのなら勝手ですが、死ぬまで僕の不興を買ったということはお忘れなく」
「……もういい、いい。やっちまえ、ヤンケ」

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