Piece12



Piece12



 寂れた、という言葉がこんなにも合う場所があるとは、二人も思わなかった。否、ギレイオはある程度想像の範疇内にあったようだが、サムナはこんな場所に一人で暮らす人間がいるものか、と思わずこれまでの記憶を振り返ったほどである。あのワイズマンでさえ、他人の敷地に立派な家を建てて住んでいたというのに、と考えたが、そもそも「他人の敷地」という時点で比較対象にはならないことに、サムナは気づかなかった。
 ともかく、墓守の家はどことなく、生者よりも死者に近い雰囲気が漂う。無論、辺りの風景がそうさせているのは間違いない。
 朽ちかけた家の正面には膨大な数の墓標が林立している。そのどれもが木切れや石を使って作られたもので、正規の品ではないことはその造りから明らかであった。名前のない墓標は度々手入れをされているようで、麻縄などで補強されているものも多い。いたるところに佇む墓標は家の前から立てられていったらしく、家から離れるほどに墓標が新しくなっていく。乱雑に立てられた墓標は「あたり構わず」といった感が拭えない。
 それらの中心に井戸はあった。古い造りだが、今も水があるのだろう。脇には桶が転び、その両脇につけられた縄に古さはない。そしてその井戸を囲むようにして件の花は咲き、墓の間を点々と咲きながら広大な墓地と家をぐるりと囲んでいる。
「……作り物の花のようだな」
 サムナは足下の花を見下ろす。
 その花は普通の花とは違っていた。花があり、がくがあり、茎があり、葉があるという構造的には同じものであるが、その全てが透き通り、青い燐光を放っているのである。ガラス細工に光を通して見ているようで、花の中心に顔を覗かせる花芯は飴細工のようにつるりとして風景を反射する。
 ともすれば簡単に折れてしまいそうなほど脆い印象を与える姿だが、風に揺れても足が触れてもしなやかに体を曲げるだけで、見た目にはそぐわない生々しさがあった。
「そんなんだから神様の玩具とか、おまけの花とか色々言われてるけどな。あんまり匂い吸うなよ」
 そう言ってギレイオは外套を投げて寄越す。サムナが振り返って受け取ると、ギレイオは鼻も口も布で覆い隠していた。
「……ただの甘い匂いのようだが」
「吸いすぎると障りがある。俺は当然だけど、お前も半分は生身だからな」
 サムナは言われた通りに外套を被り、袂を寄せて顔の下半分を覆い隠す。
「彼女は?」
「耐性があると思う。何にしても眠ってるからさして吸い込まねえだろうし。担いで家に入れるぞ」
 頷いて女を持ち上げようとし、サムナは相方を見た。
「……お前はやらないのか」
「お前一人で充分だろ。俺の腕力に期待すんなよ」
 協力するような姿勢も見せず、ギレイオはすたすたと家の側面を回って正面へと向かっていく。その判断は間違ってはいないが、と否定も肯定も出来ない消化不良の物を飲み込んで、サムナは女を抱えた。全体的に大柄な女だが、サムナからすれば重みを感じるほどのものではない。

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