Piece11



 強制的な会話の終了を告げられたようだった。だが、サムナとて背後で眠る女を置いて質問を続けたいとは思わなかった。自らも「何故」という言葉を飲み込み、助手席から立ち上がってフロントガラスを支えにし、周囲を見渡す。それを見たギレイオが少しだけスピードを緩めた。
 光学的に物を捉えるだけでなく、井戸があるというのなら地下水脈に沿ったどこかだろう、と見当をつけて、過去の地図データを参照し、現在の位置と重ねて視界に反映させる。森や小さな緑地が点在する通り、やはり地下水脈が細かく張り巡らされているようだった。
 水脈は太い本流から細かな支流へと何本もわかれ、血管のように大地へと恵みを届けている。だが、その中には今ではもう枯れてしまった水脈もあるようで、データ上ではあることになっていても、実際は既に緑も失われて久しい場所もいくつか見受けられた。
「今も使われている井戸でいいんだな」
「ああ」
 辺りに人の営みは見られない。少なくとも、気軽に来れる距離には街も村もなかった。
「以前は使われていたが放棄されたもの、もしくは冒険者たちの為の水飲み場……生活用水として頻繁に使われたことのない井戸が多分ある」
 では、いよいよ人から離れた場所ということか、と、サムナは首を巡らせた。街がある方面とは反対の方、人の往来がある場所とは離れた場所、と方角を限定していき、レンズの倍率を上げていく。
「匂いで辿れりゃ楽なんだけどな……あれ、そんなに強い匂いのする花じゃねえから」
 ハンドルにもたれかかるようにしてギレイオは言う。
「強い匂いでないのなら、何故場所を隠せる?」
 サムナは振り返らずに尋ねる。水脈の流れから往来のある場所を削除していった。
「匂いが隠すと思ってんのがまず間違いだからな」
「間違い?」
「行きゃわかる。車止めた方が探しやすいか?」
 ギレイオが再び速度を緩めると、サムナは頭を振って相方を振り返った。
「いやいい。見つけた。だが、本当に人の往来のない場所だぞ」
「それで正解だ。座れ、飛ばすぞ」
 サムナがシートに戻るや否や、これまでののろのろ運転を振り切るような急発進で車は砂塵を巻き上げて走り出す。
 駆けだした風に乗って微かに花の匂いが漂ったが、それも一瞬のことで、すぐに後ろへと流れ去った。
 女はいまだ眠ったままである。



Piece11 終

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