Piece25



 何も知らない人間が目にしたら、ただの病人にしか見えないだろう。知っている人間は安心するか、嵐の前の静けさを予感するか、どちらかに分かれた。
 ロマはどちらにも判断を寄せることはしなかった。何が起こってもいいように、予想出来ることは全て考えておく。いざという時、驚くばかりで何も出来ない自分は師にとって足手まといになるだけだと痛切に感じたからだった。
「……微妙なところです。オレも先生も魔法は専門じゃありませんし、今は本当に凪いだ状態だとしか。そのあたりはタウザーさんの方が詳しいと、先生は期待しているみたいですが」
 タウザーは顔の前で手を振る。
「いやいや、僕もそれほどは……色々見て来たけどギレイオのは異種中の異種で、だから僕たちも判断を迷ったんだよ」
 口元に苦笑を浮かべて続けた。
「騎士団なんて言ってるけれど、中身は等身大の人間の集まりだからね。知識や見分の広さの限界を思い知らされたなあ」
「……今ならネットでパパッとやれちゃいますよ」
 こそりとヤンケが言うと、タウザーは「そうだね」と笑った。
 その時、きいんという耳に障る音がしたと思いきや、怒りを抑え込んだアインの声がスピーカー越しに響き渡る。
『タウザー。あなた自分の仕事が何かわかってるのよね? もう一度教えてほしくなければ操舵室に来なさい。以上』
 アインの声には淀みというものがなかった。それが余計に聞く者の想像力をかきたて、その効果を狙ったであろう相手は見事に青くなる。
 一緒になって聞いていたロマは部屋を出ながらくつくつと笑った。
「……殴られそう」
「でもアインちゃん、優しいから暴力には訴えないんじゃないんですか」
「うちの師匠を見てから言おうな」
「……二人のどっちか、俺の援護に来ない?」
 弱腰な申し出に二人がきっぱり首を振って断ると、タウザーは情けない声を出して項垂れる。その背後で扉は閉まり、後には眠るギレイオが残された。
 ようやく訪れた休息を味わうかのようなギレイオの眠りは深く、しかし、穏やかなものだった。



 野次馬のつもりでロマとヤンケがついていくと、操舵室ではアインがこめかみに青筋を浮かべて待ち受けていた。無論、タウザーが為すべき仕事を為さなかったための叱責であり、叱られるだけマシという毒にも薬にもならない激励をロマから受けて、タウザーはすごすごとアインの所に向かう。

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