Piece25



 操舵室は二階に分かれており、一階部分には通信管制や動力管制の他、本来の飛空艇にはない機能の担当が操作卓と向き合っている。火器管制や索敵はその最たる例であり、この飛空艇がただ遊覧と移動だけを目的としていない面を雄弁に物語っていた。
 二階には舵と船長の椅子、そして奥まったところにアイン専用の椅子があり、タウザーはそこでこってりとしぼられている。
 そしてこれらの側面から前面にかけて巨大なディスプレイを兼用した強化ガラスが囲み、雲上の風景を透かし見ることを可能としていた。飛空艇の鼻先が雲海をかき分けて進むのがわかる。
 ただ野次馬をするためだけに来たわけではないヤンケは、舵にもたれかかってのんびりとその風景を眺める船長に声をかける。
「あの、ちょっと見ていってもいいですか?」
「どうぞ、ご自由に」
 やった、と小さく呟いてヤンケは一階に降りていく。ワイズマンとはまた別の知識欲に促されて動き回るヤンケが女の子である手前、乗務員たちも嫌な顔はしないが、質問攻めにされるのにはほとほと参っているようだった。
 彼らは乗務員として管制にあたっているが、ヤンケほど中身に対して造詣が深いわけではない。とりあえず、と言った体で動かすことが出来れば良し、その先は学びながらゆけばいいと楽観的に構えていた矢先の珍客である。ヤンケはもちろん、ワイズマンやゴルの質問攻めにまともに答えられる者など、ほとんどいなかった。
 うんざり顔で、しかしながら邪険に出来るほど気が強くもない火器管制は船長にぼやいてみせた。
「あまり何でもかんでも許可しないでくれよなー……」
「じゃあ、お前がこっちに来るか?」
 暇そうな火器管制は手を振って断る。
「いい。アインに睨まれながら平然と出来る自信がない」
「なによそれ!」
 はは、と笑い声がさざめき広がる中でヤンケは構わずに動き回り、ロマは微笑ましい気持ちでそれを眺めていた。
「君も良ければどうぞ」
 気軽に言われ、ロマは丁重に辞退する。師弟で邪魔をするのは憚られたし、それよりも気になっていることがロマにはあった。
「不躾なことを聞いてもいいですか?」
「足のことか?」
 断りの言葉を入れたにも関わらず、船長であるラオコガ自身が本題に踏み込んだ。
 舵にもたれかかっているのは、何も気を抜いているからではない。彼は右足の腿半分から下を失っていた。
「気にするなと言いたいところだが、見た目が派手だからなあ」

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